第2話 ゴテの中身がわかるそうですが一体(ry
翌朝。めちゃうま権三郎の店舗近くにある待ち合わせスポット「銅像めちゃ待つナナ公」前にて。
「おまたせ」
「おおー遅かったなゴ……テ……?」
ゴテと待ち合わせをしていたはずの俺は、待ち人を見て唖然とした。
「ゴテお前……今日何するか覚えてるか?」
「うん。グソクエビの討伐」
「じゃあお前…………『鎧』どうした?」
昨日の人間かも怪しい鎧の塊はどこへやら。待ち合わせ場所に来たのは、華奢で小柄な耳長の少女だった。
なんなら鎧どころか胸元のリボンが清楚かわいさをアピールしているブラウス姿。
一応機動性を考慮したのかショートパンツを履いている。が、ご令嬢の散歩じゃあるまいし。
「取られた」
少女は無表情のまま答える。
「取られた?!」
透き通ったヒスイ色の目はマジだ。冗談を言う顔ではない。
「なんで?!」
少女は少しうつむき、頬を染める。
「え、えと……賠償金の……担保に……」
「なんでちょっと照れるんだよ! 照れる要素なかっただろ今!」
「素顔見られるの久々だから……」
なんということだ。ゴテゴテだからゴテなのに、これじゃゴテ要素皆無じゃないか。
これをゴテと言うのは脳がバグる。逆という意味でセンテとでも呼ぼうか。
頭を抱える俺をよそに、ゴテは意気揚々と鼻を鳴らす。
「でもだいじょーぶ、武器はそのまま」
そういって背を向け、掲げた両の親指で指し示したのは、背負っている巨大な剣。
力自慢の成人男性でも両手でやっとこさ持つようなクレイモア。たしかに英雄時代のゴテの武器に間違いない。
「おお、それがあるなら百人力か。ゴテの場合は比喩じゃなくガチで」
女子力と機動力高めなコーデに合わせるワンポイントアクセにしてはいささかいささかだが、考えてはいけない。
そもそも金欠のゴテに鎧を買う金はないだろうし、言うだけムダだろう。
「よしじゃあ気を取り直してグソクエビ討伐だ! 勝って狩って小金持ちだ!」
「おー!」
昨日、ドロンから聞いた話によると、グソクエビは街からそう遠くない沼地に棲んでいるという。
街を渡る商人の目撃情報も多く、商人たちの中ではグソクエビを見るとその日の商売が上手くいくとも云われているらしい。
そんな魔物が高級食材と謳われるのは、出会ったところで狩れる者がそう滅多にいないかららしい。
「そろそろ最近目撃情報があったあたりなんだが……ゴテ、それっぽいのはいるか?」
荷馬車の
「いない……けどあっちに沼が」
「でかそうな沼だな。たしかにあそこなら棲んでそうだ」
轍の道から外れ、森の隙間から見えた沼に着いてみると、沼というより湖というのが正しいと思うような、広大で透き通った沼が広がっていた。対岸は人間弓士の視力じゃ明瞭には見えないくらいには遠い。
「いない」
「沼の底で寝てんのかもな。でかい岩でも投げ込めば出てくるんじゃねーか?」
なんてな、と冗談交じりで笑う俺の視界の端で、ゴテが大岩に手をかけるのが見えた。
俺の身長より大きい大岩だ。普通の人間が持てる重さではない。
「ん? ゴテ? おまえ何しようと……」
「せいっ!」
俺の耳元を掠めて、大岩が風を切った。鈍い爆発音とともに水しぶきが上がる。
――そういえば 重戦士だったね 華奢なキミ
〜チャラ 納得の一句〜
華奢な少女の姿に見慣れて忘れていたが、ゴテは鎧を脱いでもゴテに変わりはないのだ。そりゃそうだ。
にしてもそんな細身のどこにそこまでの筋力が秘められているんだ。
一仕事したというように満足げなゴテを見つめる。
豪雨のように降り注ぐ水を浴びながら唖然としていたが、ゴテ由来でない地鳴りに気づき、沼の方へ向き直った。
沼の中から徐々に姿を現した、巨大な甲殻。
丸みを帯びた頭部と、カニのハサミのような両腕が水を滴らせながら目の前に立ちはだかる。
頭以外は一般的なエビの姿に似ているが、三階建ての建物くらいの大きさはあるんじゃなかろうか。
「これが……グソクエビ……!」
「オイオイオイオイ! 商人はこんな奴見て商売運上がったラッキーとか言ってんの?!
普通に本能的な危機を感じるんだが?!」
足がすくんでいる俺を差し置いて、ゴテが飛び出した。ゴテなのに先手を取るとは。
「500パォン……! 500パォン……!」
金に目が眩むとはこのことなのだろう。本来恐怖を感じるべき相手を前に、ゴテは目を輝かせ、息を荒らげながら距離を縮めていく。
「ピェン超えて……ッ!!」
グソクエビの巨体を越えるほどの跳躍をしたゴテは大剣を掲げる。狙うは脳天。
「いや飛びすぎだろ……!」
「ピェン超えて……パォォォォォンッ!!!」
大剣と甲殻が接触し、周囲に衝撃波が走る。突風に思わず俺は腕で顔を防ぎ、後ずさりした。沼に大きな波が立ち、飛沫が舞い上がる。
風が止み、やっとのことで目を開けた俺は眼前の光景に唖然とした。
ゴテも同じように目を見開いていた。
ゴテの振り下ろした大剣は、グソクエビの甲殻と接触したまま、制止していた。
――グソクエビは、今日も元気だ。
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