元英雄たちが再会したそうですが一体何が起こるんですかね…?

ちだはくさい

第1話 ゴテゴテと再会したそうですが一体(ry

 英雄。世界平和をもたらす為に立ち上がった、勇者を主導とした指折りの強者を指す。

 世界を手中に収めんとする魔物たちを駆逐し、統率者である魔王を屈服させるために戦う。

 英雄譚と言えば魔王を倒すまで。それが普通。英雄譚のその先が語られることは無い。

 しかし現実。英雄たちは実在し、生きている。

 物語で語られないはずの後日談は日の目を浴びずとも、今日も今日とてひっそりと送られている。


 葉の茂る藪に身を隠し。

 青空が広がる、のどかな森で。

 伝説の弓士が屠るのは――――か弱い野生動物。名を「ディモトン」という。……あ、俺じゃなくて野生動物の方が。


 そう。世界平和が人間弓士(俺)にもたらしたのは、ひっそりこそこそ猟師生活。

 見返りを求めず世界のために戦ってきたつもりだったが、どうやら世界はお節介なお人よしだったらしい。

 俺は思う。鹿とも牛とも豚とも似つかない、ディモトンなる動物を荷車いっぱいに詰め込みながら。

 かつての英雄仲間は、数年前の勇者の失踪を機に散り散りとなり、今や滅多に会うことも無い。そもそも所在がわからない奴も多い。

 魔王討伐で食べていくことが出来ない平和な世界では、各々が一般的な仕事を探して就職している。傭兵や薬師と様々だが、俺はといえば今や細々と狩りをする日々の繰り返し。

 不謹慎な話ではあるが、打倒魔王を掲げ、皆で戦っていた頃が楽しかったとすら思う。命懸けで神経をすり減らした時も少なくなかったが、共に笑い合い、心を走らせた日々を失った今の俺は、心のどこかに穴が空いているようだった。

 ……果たして、世界を救うことは、俺を救ったと言えるのだろうか。


 その疑問を明らかにするため、我々はジャングルの奥地へと向かっ……うことは出来ないので、いつもの酒場(店名はめちゃうま権三郎)でディモトンステーキ(価格は2000ピェン)をジャングルのお口へと向かわせた。

 目が胃もたれする外見と鼻腔に背徳的なフレーバーを醸すディモトン探検隊は、でしり込みしていたが、背後から怒涛の勢いで襲いかかった黄金の川に為す術なく流し込まれた。


 やはり、脂モノには麦酒と相場が決まっている。異論は認めない。


 そう決心する俺の視界に、紅のグラスが隣からカウンター上をスライドしてきた。

 弓士の強み、瞬発力でグラスをキャッチする。

 ……ワインである。飲めと言うことなのだろう。

 もう一口ステーキを頬張った後、勧められるがままにワインを口に含む。


 これは、美味い。

 やはり、ステーキにはワインと相場が以下略。異論も以下略。


 ご満悦の表情で、グラスが放流された上流を見やる。俺の座ったカウンター席から1つ空けた右手の席に、ゴテゴテの鎧が座っていた。多分中に人間が入っているはず、と確信が持てないくらいに異質なゴテゴテ具合だった。

「……っ!」

 その場違い感に懐かしさを覚えた俺は感極まった。場違い感も極まっているがそこは触れず。


「おー!!! ゴテじゃーん!!」


思わず鎧の隣の席に飛び移り、鎧の背中を手のひらでバンバンと叩いて再会の喜びを分かち合おうとする。


「久しぶりだなぁ、元気してたか?

 最近どーよ、俺はしょっぺー仕事ばっか!

 あれそういやお前警備の仕事やってんだっけ?

 いいなぁー日給高そーだしお前ならラクショーだろ?

 あ、だから俺にワイン寄越したのかァ?

 美味かったぜーやっぱ肉にはワインだよなぁ他の酒なんて認められねぇよな!」


 ここまで俺が語る中、ゴテはこちらを一瞥もせず、ただグラスを口に運ぶ。頭からつま先まで銀色でゴテゴテのゴテだが、口を覆うマスク部分だけ外し、器用に食事を続けている。見ればこの高給取りのディナーは意外にも、この店で1番安い肉料理「即死肉の塩漬け」(300ピェン)だった。


☆即死肉の塩漬け☆

 生食はもちろん煮ても焼いても即効性の毒を持ちその名の通り即死する肉なのだが、塩漬けになるとなぜか食べられるという謎料理である。


「やめた」


 耳を疑った。

 ゴテの声は大きくないものの、ゴテゴテな見かけより幼く透き通った声でよく響く。


「やめたぁ? 仕事を? なんでだよ」

 問いには答えず塩漬けを運ぶ。

「あ、まさか、不審者捕らえるどころか施設ごとぶっ壊したとかじゃあねえよな?」


「……」


 ゴテの沈黙はYESである。

そりゃそうだ。ゴテは腐っても元英雄たちの最前衛。街の警備なんざ役不足にも程がある。

「剣士が束になっても傷一つつかない岩石魔物を1人でかち割るお前なら、そりゃ床だってぶち抜くわな」

「床じゃない」

「じゃあ何を? 領主の彫像でも壊したか?」

「お屋敷」

「の?」

「お屋敷」

「……」


 お屋敷 of お屋敷。


「あぁ……」と納得の声が漏れた。

 そういえば最近、名高い貴族の屋敷が全壊したって聞いたなァー……!

「だから仕事ない」

「そりゃあな!」

 お屋敷だって無いんだもんそりゃねーよ!

「お金ない」

「俺と一緒に狩りでもやるかぁ? まぁ地味だけど生活はできるぞ」

「狩り無理。速いのヤダ」

 そりゃその鎧じゃあな……。ディモトンだってそんなヤバそうな外見のやつに追いかけられたくはないだろう。

「じゃあ無難に飲食店はどうだ? ウェイトレスとか探してんじゃねーの?」

「会話無理。喋るのヤダ」

「道場はどうだ。実戦やんなきゃ壊れはしないだろ」

「堅そう無理。礼儀とかヤダ」

「いっそ工事現場とかで働くとか」

脚立無理キャタツムリ。高いのヤダ」

「塩かけると縮む殻付きのやつは」

「カタツ無理ムリ。キモイのヤダ」

「それなら……うーん……」

 他に仕事のツテがあるわけでもなく、熟考タイムに入る。の仕事のがない、なんて言おうかと思ったが、これは韻を踏んでいるのではなくおっさんCO地雷を踏んでいるだけなのでそっと口を閉じた。



 ツンツン、と肩に感触。

「なん……」

 振り向きざま、ピンク色のツインテールが視界に入った。

「そんなキミたちにいい仕事があるよ!!!」

 脳内の知り合い検索で「ツインテール ピンク 誰」サーチをする間もなく、振り向いた直後の耳ゼロ距離クソデカボイス。

「アイエエエ!!!!?」

 悲鳴(?)はゴテのものだ。


「はろー! チャラっちゴテっち!」

 指で俺の肩をつつき、とんでもない大声を出したのは、酒場に入って5秒でつまみ出されそうな14歳くらいの少女だった。まるで傭兵ギルドの受付嬢のようなミニスカートの制服姿で、満面の笑みを浮かべている。


「……誰だオマエ?」

 先程大声で中断された脳内検索結果だったが、再開しても結局は該当なしだった。

「あれ? 覚えてない?」

「ちょっと待ってくれ、今思い出すから」

 俺は目頭をつまむように押さえ、もう一度記憶を辿る。……しかしこんな少女、全く記憶に覚えがない。いやしかし、この全く覚えがないのに距離感間違えすぎな感じに覚えがある気も……そしてなによりゴテの不可解な驚き方からして……


 俺の脳内検索機能に1件ヒットする。

「……あ、オマエ、ドロンか!」

 少女がツインテールを揺らし、「んふふっ」と満面の笑みを浮かべた。

「せいか〜い!! イェーイはいたっち!」

「イエーイ」

「ゴテもついでにぃ、はいたーっち!」

「い、いえーい……?」

 そうだ、こいつはシノビのドロンだ。姿はっきりしないけど多分。英雄仲間の一人で、主に諜報活動を行っていた。会う度見た目も性別も声も性格も変わる正体不明の薄気味悪い奴であった。

「いやァーお久しぶりだね! 元気してた? 毎日ご飯食べてる?」

「元気。食べてる」

 フォークに刺さった肉を見せるように掲げるゴテに、ドロンは目を輝かせる。

「お、即死肉じゃん! 僕好きなんだよねー! たまにフラッとするけどそれがまた病みつきに……!」

「で、なんだよいい仕事って」

「え?」

「いや『え』じゃなくて。俺らにいい仕事を紹介してくれる流れだっただろ?」

「あぁっ! そうなんだよ、これこれ!」

 ドロンは、ハート形の無駄にカワイイウエストポーチから一枚の紙を取り出し、テーブルに置いた。俺とゴテは注目すると、それは討伐依頼書のようだった。


「「グソクエビ?」」


 依頼書にとんでもなくデカデカと書かれたターゲットの名前に、俺とゴテの声が揃った。

 どのくらいデカデカかというと、こんなにでかく書くこたぁないだろうというくらい。恐らくグソクエビのスケッチであろうイラストはテキストに迫害されすぎて豆粒サイズだ。もはやノートの切れ端の落書きレベル。

「そう! 高級料理で大人気の野生動物! ちょーーっと硬いけど、内側はプリプリの身が大量に取れるんだ! 1匹倒せたら軽く500パォンは超えるね!」


「500パォン!? ピェンを超えてか?!」

「そう……『ピェンこえてパォン』さ!」


 1パォンは10000ピェン。ゴテと二人で山分けしても、丸1年は遊んで暮らせる。

おおー、とぱちぱち手を叩くゴテ(篭手がゴンゴン鳴っている)を横目に、倒す算段を考える。

 これでも英雄時代は戦略を立てていた時もあった。俺の頭がうなり、フル回転をする。

 様々な陣形、攻撃タイミング、連携、相手からの攻撃の流し方。ありとあらゆる戦略イメージトレーニングを脳裏で駆け巡らせる。

 しばらくの沈黙のうち、俺は依頼書を掲げた。

「……よし、その依頼もらった!」


 ……いや。

 算段も何も、ゴテ1人で簡単にかち割れるだろう。俺の頭がフル回転した結果、実は5度くらいの回転でよかったことが分かった。うん。考えるだけ無駄だった。

「じゃーよろしくーっ!」

 そう言ってドロンは名前の通りどろんと姿を消した。

 ふんすと張り切るゴテと報酬の使い道を考える俺。

 達成できないわけがないオイシイ任務に、俺たちの士気はスーパーすごすごテンションだった。

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