7 聖女の裁き、地獄の闇に消えるシスター

第23話 教王ガエルと実験体少女アガ

ジャンヌが地獄の主となり生きる者が住む現世が地獄へ変わる少し前の話。


「ふはっはは、やりましたな教王!! あの女が死んでくれたおかげでドワーフどもに容易に武器を作らせることができましたなぁ!!」


「ふん、下手なお膳立てはしなくて良い。ほら、貴様の目的はこれだろう」


 へこへこと豪華な宝石を付けた国王ブオウが教王ガエルより放り投げられた物を慌ててつかんだ。


「おぉ、これが転移玉…念じた場所にどこでも行ける神の道具…」


 ブオウはかつてジャンヌが神より頂いた3つの道具の一つ、頭に浮かべた場所に瞬時に移動できる転移玉を握りしめ汚い笑みを浮かべた。これさえあれば、女の着替え場でも娼婦の町でも行き放題でブオウはさっそく城の更衣室へと転移玉を使い消える。


「相変わらず汚い豚よね? あぁ~あ、綺麗なこの服を着てもあの豚の臭いが移りそうでたまんないわ~~」


 青い髪をした女が現れた。この女が着こんでいる真っ白で純白な聖衣は転移玉と同じジャンヌから奪った物だった。あらゆる毒や攻撃から身を守る神の加護が施された衣で今のヘルには誰も傷つけることはできない。


「あの豚にはこれからも働いてもらう。もちろん、聖女であるお前には契約どうり信者を集めてもらうぞ」


「はいは~い、どうせ魔法の血を抜いていろいろ実験するんでしょ? まぁ私は綺麗な服が着れて美味しい物が食べれればなんだっていいわ~~じゃね~~」


 手のひらを軽く振りヘルは人間やエルフなどのあらゆる種族の標本が置かれた部屋から出ていく


「ふん、好き勝手ばかりやりおって…だが、これさえあれば…」


 ガエルは手にした真っ白な杖に力をこめ宙に浮かび部屋の隠し階段から地下へ降りていく。彼が手にしている杖もまたジャンヌが持っていた魔法の杖で魔法の力を増幅してくれる道具だった。


 王であるブオウは転移玉を、身元不明だが若くして闇社会の実力者でジャンヌを陥れる工作をしたヘルは無敵になれる聖衣を手にした。そして、ジャンヌを偽の聖女として糾弾したガエルは魔法を使う者のみが優遇される魔法主義者で杖を欲していた。


「ぎゃぁぁぁ、ご、ごろじでぇぇぇぇ!!!!!」


「うぁぁぁぁ!! ぎょ、ぎょうおうざまぁぁぁぁ!!!!!」


 ガエルが地下に入るとそこは地獄だった。魔法の研究のため無実の罪で投獄された人間が解剖されていた。平民でもわずかに魔法の血を持つ者がおり、一滴残らず血を抜き取って動かくなった死体を全身布で防護した研究者達が運ぶ。


「ガエル様、こちらが今月分の血です。牢にいた人間をだいぶ使いましたらから、そろそろ補充が必要かと」


「うむ、今後はヘルが人々を教会へと呼び込む。それに、アガたちが連れてきた人質を使えば良い。」


 ガエルに血が入った瓶を渡した眼鏡の男は「分かりました」と一言告げ立ち去った。


 瓶の蓋を開けると杖が血を吸収し始める。


「いいぞ、そのまま愚民どもの血をすすれ…私に究極の力を…」


 ガエルの目的は魔法の探求だった。ジャンヌが戦争を終わらせ全ての種族が和解した平和な時代ではエルフやドワーフらを誘拐して解体と研究がし難くなった。だが、ジャンヌを処刑して再び紛争が起きたおかげでドワーフらに武器を作らせ国に利益をもたらし、行き場を無くした者を教会で引き取り実験のために血を搾取するか、手駒の暗殺者を改造していた。


 暗殺者の子供達は既に肉体を強化して、先日ジャンヌの処刑を止めようよしていたうるさかったシーマから魔法の血を魔法の杖で奪い5人の暗殺者に血を与えることに成功している。


「あっ!! きょうお~うだぁ!!」


 地獄の研究所に一つの軽い声が広がった。赤い髪をしたシスター服の少女が無垢の笑みを浮かべていた。


「アガ、貴様ここで何をしている。貴様には任務を…」


「あは、ごめんなさーい。抵抗されてうざかったから殺しちゃった!!」


 一瞬、ガエルは杖を振り上げようとしたがぐっとこらえアガを強くにらんだ。


「貴様、調子に乗るなよ…これ以上使えぬならいつでも貴様から血を抜くことができる。覚えていろ」


 魔法の血を没収するぞとガエルの脅しにアガが「は~い」とだけ答えた。研究所では魔法だけでなく肉体改造の実験もしており、その中でアガの改造には時間も金もかかっていた。


 実年齢は不明だがアガには頭からつま先まで肉体改造を施していた。そのせいで精神が幼くなっているが攻撃性と破壊力はこれまでの実験体の中で段違いの出来上がりだった。


「ねぇ~まだ私いっぱい遊びたいんだけど~~何かないの?」


「ふん、なら出来損ないどもの処理でもしてろ。低能の貴様でもそのぐらいできるだろうが」


 ガエルはアガに吐き捨てて魔法で浮かび地上へと戻っていく。誰も見ていない所でガエルの姿は老年から青年へと変わっていく。「血だもっと血を…そうすれば永遠の命も若さも…」と不気味につぶやいた。


 一方でアガは「やった~」とまるでおもちゃをプレゼントされた子供のように喜び隣の部屋へ入る。


 廃棄場と書かれた異臭やゴミが漂うそこは魔法の血を持たぬ者や暗殺や戦闘中に怪我をしてもう戦えなくなった子供達がやせ細って倒れていた。


「いやだぁ、出して…外にだしてぇ…」


「はぁ…はぁ…まっで、ぼくは、まだたたかえるよぉ…ここからだしてぇ…」


「教王様…教王様…たすけて、たすけてくださぃ…」


 ガエルの捨て駒として消費されてきた子供達は死の一歩手前で苦しみ、中には無駄だとわかっていてもガエルに助けを求めるかすれた声が聞こえた。


 自分を救ってくれた教王様のためと人殺しや盗みも良心を押し殺してきた。精神がすり減り体の一部を欠損して尽くしてきたが残酷な最後が待ち受けていた。


「相変わらずくっさいなぁ~~えい!! 消毒、消毒!!」


 子供達のいる部屋に巨大なファイヤボールが投げ込まれた。すぐさま扉が閉められるとゴミとガスが引火して廃棄場は火炎地獄と化した。


「あづぅぅぅ!!」


「だ、だづげでぇぇぇぇ!!!!!」


「いやだぁ、いやだぁ!! 死にたくないぃ!! 助けてお姉ちゃん!!」


 扉を激しく叩き必死に助けを求める子供達の声にアガは大笑いした。元は普通の子供であったアガには既に人としての心は壊れひたすら破壊を求める悪魔だった。


 そして、悪魔は子供達に最悪な遊びを提案した。


「ん~どうしようかなぁ…そうだ!! その中で殺しあってよ!! そんで最後に生き残った子がたすけて~~叫んだら開けてあ~げる♪」


 アガの声を聞き次の瞬間、燃え盛る廃棄場では生き残りをかけた殺し合いが始まった。


 教王のために頑張ろうと言い合い兄弟のように中の良かった二人がガラスの破片を握りしめ血を流し殺し合い。怪我で腕を失った幼い女暗殺者は襲ってきた少年の首元に食らいつき大量の返り血を顔に受けた。


 「はやく、はやく!! はやくしないと皆燃えて死んじゃうよ~~」


 鉄扉に付けられている耐熱ガラス製が嵌められた隙間穴から生き残りの殺し合いを鑑賞しているアガ。その後ろ姿を見て研究者達は悪魔、化け物と小声で話していた。


 研究者たちはアガの異常な遊びには慣れており「どうせ、助ける気なんてないだろうが」と声もあがった。


 地獄の遊びが開始されて数分後。血まみれで腕を無くした女暗殺者がヒューヒューと荒い息を上げて力なく頭を振り額で扉を叩く。


「た、たすけ…たすけ、て…」


 高温の扉のせいで額に大きなやけどができ、酸欠と灼熱の苦しみで喉と肺が焼かれてまともに声が出せない。アガは扉の叩く音もかすかな声も聞こえているはずなのに耳を澄まして聞こえないとポーズをとる。


「いやだ、あつい…たすけ、てぇ…」


 部屋中が完全に火炎に包まれ名もなき少女の短い人生は終わった。普通の家に生まれていれば血ではなく化粧で身を飾り、手には武器ではなく愛する人の体だったかもしれなかった。


「あ~あ、皆死んじゃった!! もう少し大きな声だったら聞こえてたかもね~~ざ~んねん!!」


 子供達の殺し合いを堪能してどこかに行くアガ。廃棄場には大量の灰とゴミのカスしか残されていなかった。




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