第24話 聖女の裁き 地獄の闇に落ちるシスター達 1
地獄の底でジャンヌは涙を流していた。
「シーマ…ごめんなさい。私がブオウ達の企みに気づいていれば…」
今は天国で幸せに暮らしている親友の名をつぶやき後悔の念をつぶやいた。神の神託を受け奇跡を起こす魔法道具を持ち戦場を駆けた。
多くの犠牲を出し差別や恨みの暗黒時代を終わらせることができた。けれど、王であるブオウは自分の欲望を満たすため禁じたはずの武器製造をドワーフにさせ紛争を引き起こし、人や国を壊した。
教会の指導者である教王ガエルは魔法の力を極めるため罪の無い者を捕らえ魔法の血を一滴残らず絞り取り殺した。しかも、誘拐や暗殺の手駒を増やすためアガのような子供を改造して殺戮兵器にしてまった。
さらに、自身を陥れて聖女の地位や名誉をジャンヌから奪ったヘル。彼女の策謀で教会に金や人が流れ込み、ガエルとブオウに都合の良い国になり果て人々の全てを貪った。
「私が必ず罰を与える、この手で…」
己の無知と無力に怒り地獄が揺れジャンヌの足元に黒い穴が出現した。地獄よりさらに底深くにあり一切の光も希望もない地獄の闇。その闇から一本の柄も飾りもない剣が出現してジャンヌがつかむ。
ジャンヌの紅蓮の瞳は地獄の全てを映しだし、今も辺獄で食料を略奪している暴虐シスターの最後の生き残りである赤髪の少女が映っていた。
△
「やめろぉ、た、食べ物は全て渡す…だから、これ以上、同胞を…」
「あれ地震? 結構揺れたわね~~ それにしてもここ野菜しかないじゃない…あ~もぅ、皆殺し決定ね」
ジャンヌの怒りで地獄が揺れた後、辺獄の世界で集落を荒らしていたシスター達の生き残りアガが畑を焼きエルフを惨殺した。
エルフは草食主義で肉がなく野菜しかないと子供の我がままな理由で畑を焼かれたエルフ達は怒り魔法で反撃するが、戦闘用に改造されたアガは身体能力だけでなく魔法の力も異常だった。
「エルフがいっぴき~エルフがにひきぃ~」
「ぐぇ。ごぼぉ…」
「がぁ…」
まるで蟻を潰して楽しむように魔法や素手でエルフ達の首の骨を数えながら折っていく。
「ごのぉ、ごのあぐまぁ!!」
首をつかまれたエルフが同族の仇だぁとナイフや魔法でアガの腕に攻撃するが傷はすぐに再生する。改造の結果強靭な筋肉と回復力を持ち死ににくい体を相手に無駄な抵抗ですぐに首を折られてしまった。
「エルフがにじゅ~ひき…ありゃ、もう死んじゃった? まぁ、どうせ生き返るからいいかぁ。今度は手をもごうかな? それとも足を引きちぎって芋虫にする? あっはは!!」
辺獄での殺戮を心から楽しむ殺人鬼の周りには首を全て折られたエルフの死体と焼かれた畑しかなかった。
教王ガエルの手駒として頭からつま先まで体を強化され魔法の血を与えられたアガには既に人としての心は消えていた。元は孤児だったのか、それともどこかの令嬢で誘拐されたのか記憶はない。
グリ達は既に地獄の裁きを受けているのも知らず、ひたすら破壊衝動に駆られ暴れる悪魔でしかなかった。
そして、そんな悪魔に制裁を与える存在が立ちふさがる。
「ガエルに歪められた哀れな存在…せめて私の手で葬ってあげましょう」
禍々しい鎧を着たジャンヌが立っていた。手には柄も模様もない漆黒の剣が握られ空と同じ紅蓮の色をした瞳でアガを見つめている。
「あれ~~誰だっけ…あぁ、元聖女様かぁ!! おかしいなぁ、死んだんじゃなかったけぇ!!」
アガはすぐにジャンヌの首を片手でつかみ力を入れた。死んだはずのジャンヌがなぜこんな場所にいるか疑問よりも生きている者を壊し蹂躙したい衝動でさっそく首をへし折ろうとする。
「ぐぅ!! はぁ? なんで死なないの? このっ!! このぉ!!」
片手でエルフの首を折っていたアガだが両手でジャンヌの首を本気でへし折りにかかる。
「私は何も知らなかった…暗黒時代を終わらせることができれば後は平和になると…けれどガエルがあなた達のような人を生み出していたなんて…」
首をつかまれているのにジャンヌは一切苦しい表情を浮かべずアガを見つめる。
「はぁ? 意味わかんないんだけどぉ!! 死ねよ!! 死ね、死ねぇ!!」
ジャンヌをつかんでいた手から火炎を生み出し頭部を燃やした。
「ほらほら!! 燃えろ燃えろ!! そういえば、あんたに似た金髪の女も顔もこうやって燃やしてやったけ!! お前もあの女と一緒にぐちゃぐちゃにしてやるぅぅぅ!!」
金髪の少女とはジャンヌの親友でありアガたちに魔法の的にされたシーマのことだった。魔法の血を奪われ、無残に殺されたが最後までジャンヌを信じた聖女。最愛の親友を侮辱されジャンヌの手が振るわれた。
ザンッ 黒い刃がアガの両腕を切り落とした。
「はぁ? え? うで…私の腕…? あ、あぁぁぁっっっ!!」
これまで何人もの首をへし折り刃物や魔法でも再生していた腕が足元に落ちた。しかも出血はなく黒い煙を出しながら両腕は消滅してしまった。
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