第18話 辺獄の元人間達 3 亡者の城、物となり永遠の罰を

「ひぃ、ひぃ…どいつも、こいつも…ワシを置いていきおって…」


 ほとんどの亡者がダジロの方へ行っている間にダナガンは大量に汗を流し逃げていた。だが、普段から部下を使い移動していたせいで、すぐ体力が尽き岩に座り込む。


「はぁ、はぁ…どいつも、こいつも…ワシを、誰だと思っている…父上に伝えて、部下を全員牢獄へ…ぐぇ!! な、なんだぁ!?」


 突如、どこからか飛んできた鎖が太ったダナガン巻き付いた。ダナガンが顔を上げた先には、死んだ目をした馬とその上にダナガンを捕らえている鎖を持つ亡者がいた。


「き、貴様何をする、私を誰だと…ぐぇぇぇ!!! うぁぁぁぁぁ!!!!! ぐぇぇ!! やめろぉぉぉ!!!!うぁぁぁぁぁ!!!!!」


 馬が走り出し太った体が地面や岩にこすれる。顔にあざができ、汚い鼻血が宙に舞う。馬も亡者であり、体が真っ白で生気がないが息を荒げずダナガンを引っ張り走り続けた。


「ぎざまぁ、わ、わしにこんなごどしでぇ!! ごろぞでぇやうぅ!!」


 騎乗して鎖を持つ亡者に叫ぶが亡者は何も反応せず、自身より大きなダナガンを引っ張る鎖を決して離さない。


「ぎゃぁ、げぶぅ!!」


 時折大きな岩が顔面にめり込み、歯が折れて顔がますますひどくなる。


 急ブレーキやカーブ走りをして岩盤に叩きつけられ、その度に潰れたカエルのような声と骨が折れ、内臓の形が変わった音がしてダナガンは一度死亡する。


「ぐぇ、べげぇ…ぐ、げ、ぇ…」


 ロデオは続きボロ雑巾になったダナガンは鉱山の傍にある巨大な建物へ連れていかれた。


「ん…こ、ここは…? な、なんだ、あれは…城?」


 生き返ったダナガンは鉱山の縦穴に入れられていた。


 外では白いボロ布に身を包み岩や機材を運ぶ人々。そして、彼らが建設している作りかけの城が見えた。


 「やぁ、あんた…新入りかい」


 「ひぃ!? ご、ごはどこなんだぁ? なんだ、あの城は!?」


 隣に座るダナガンよりも年をとった老人が声をかけられおびえた声があがった。老人は機材を運ぶ人々と同じボロ布着て、ダナガンも気づいたら同じ白いボロ服を着ていた。


「ここは、建設場さ…そして、俺たちはあいつらの奴隷で城を作らされているのさ」


 老人の目線の先には鞭やこん棒を持った全裸の亡者達がいた。亡者達に監視されながら、人間は重い石や木を運び、時には岩をピッケルや杭で砕き汚れていく。


「ここはいいぞ、毎日3食でパンや水を飲み食いし放題だ。仕事は瓦礫の下敷きやら、高いところから落ちて死ぬ時はあるが何度でも生き返る」


「し、死ぬだと?」


「俺もついさっき足を滑らせて岩の上に落ちて死んだ。俺はここに連れてこられてから10回は死んでるけどな、おっと今ので11回目かぁ!! あっははは!!」


 死んだのにのんきに笑う老人にダナガンの顔に血の気はなかった。


 亡者達はひたすら「はたらけ、はたらけ」「おまえたち、ドレイはしぬまではたらくのだ」と人達に向け鞭を振るっていた。


「っ!! お前ら!? 」


 ダナガンが鞭で打たれている男達を見て叫んだ。男達はダナガンとダジロを置いて逃げた部下たちで、白いボロ服を着て既に奴隷になっていた。


「お前らっ!! こんなところに!! いやっ、それよりも私をここから早くだせっ!! これは命令だぁ!! おい、さっさとしろぉ!!」


 先輩奴隷の老人から説明を受けてもまだ自分の立場が分かっておらず叫んだ。


 老人は「あ~あ、死んだな」と軽くつぶやき、部下たちは一瞬ダナガンを見て驚いた顔になるがすぐに重たい資材を運ぶ作業に戻り、ダナガンの元に棍棒を持った亡者が入って、容赦なく袋叩きを始めた。


「うげぇ!? い、いだぁ!! ぐぞぉ、や、やめろぉ。お、おまえら、なんか父上に言いつけて…うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「新人奴隷か、たっぷり可愛がってやる」


「城が完成するまでお前らには自由はない」


「せいぜい城ができるまで、蟻のように働くんだな」


 亡者達にリンチにされダナガンは殴殺されて数日後には、他の奴隷達と共に資材を運んでいた。


「はぁ、はぁ…た、たのむ、か、金ならやるから、ここから、だせ…」


 道の途中でダナガンは倒れる。傍を通る大人や女子供はダナガンを無視してひたすら資材を運び自分の仕事に専念していた。


「何をしている」


「このクズ奴隷」


「さっと城を作らないと、自由はないぞ」


 感情のない言葉と共にダナガンに鞭が振るわれた。


「いだぁ、や、やめでぇぐれ、もうあるげなぃ…ぎぃ!!」


 パンッビシィと容赦ない鞭に白いボロ服が破けて太った腹や背に赤い跡が作られる。


 どんなに泣き言を叫ぼうが、命乞いをしようがこの建設場にいる人間達は亡者の奴隷で消耗品でしかならない。


「だずげでぇ、おい、おまえらぁ!! 隊長の俺が、こんな目にあってるんだぞぉ!! 助けろよ、助けろよぉぉぉぉぉ!!!!!」


 遠くで哀れな目で見ている部下たちに助けを叫ぶが彼らは既に足手まとい(ダナガン)を見捨てていた。下手に手を出せば自分たちも鞭で打たれるからだ。


 城が完成すれば自由になれるからと、部下たちは上司を無視して働き蟻のようにせっせと働く。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


ダナガンの叫んでいる城の建設場。地獄や辺獄などあちこちにいた人間種のみを集められ、巨大な城の建設をさせられているが誰も亡者に反抗しない。


 ダナガンが来る前に反抗作戦は何度も行われて亡者達から自由を得ようと戦ったが全て無駄に終わった。剣や弓、魔法を受けても何度も立ち上がる亡者に先に人間の方が力尽き、心が折れた反抗者達の姿はいつの間にか消えてさらなる罰が与えられた。


 キーンコーンと、大きな鐘の音が現場中に響き、人間達は居住区である鉱山の横穴に入っていく。


「メシだぁ…」


「あぁ。もっとくれ、もう腹が減って死にそうだぁ…」


 既に奴隷の生活になれた奴隷は亡者達から配布されたパンをひたすらかじる。さらに木でつくられた汚れたコップで樽の中にある水をすくい喉の渇きを癒し、人々の顔に笑顔が生まれた。


ここでは、パンと水しかでないが一日3食でおかわり自由とかなり待遇が良い。しかも、どれだけ食べてもパンも水も尽きたことはなく、亡者達は一体どこから作っているのか疑問に思う者がいるが、未だに誰も知らない。


 だが、彼らの手にしているパンや水。コップや樽などから亡者にしか聞こえない声が聞こえたならば、食料の正体、そして消えてしまった反抗者達の末路がどうなったかはわかる。


 例えば、鞭打ちで傷付きボロボロになったダナガンが持つパン。


(やめろ、やめろ、やめろ!! 食べないでぇ!! ぎやぁぁぁぁ!!!!!)


 ダナガンがパンをちぎり、かじるなどしてパンから聞こえない叫びが生まれた。


 パンは喉から食道を通り暗く臭い胃に入り胃酸で溶かされて吸収されていく。


(うぁぁぁぁぁ!!!!!! いだぃ!! ぐぁぁぁぁぁ!! ごろじでぇぐれぇ!! もういやだぁぁ!!食べられたくなぃぃぃ!!!!!)


 元反抗者だった男は生前、奴隷に向け鞭を打ち何人も殺してきた奴隷商だった。亡者に反抗して殺された後ずっとパンに変えられ何百人もの胃袋の中で死にまた生き返って食べられるのを繰り返していた。


「げほぉ‼ ほぉ、み、水っ!!」


 パンで喉を詰まらせたダナガンが慌てて汚いコップをつかみ水を飲み干した。


(いぁぁぁ!!!!! 口つけるなぁ!! 汚いっ!!殺してやるぅ!!クソがぁ!!)


(あぁっ… また胃袋に…いやだぁ、いやだぁ…)


 汚いコップには美貌で男を騙し暴力で弱者をいじめてきた女盗賊が。


 水には気に入らない生徒に暴力を振るい退学させ子供の人生を狂わせた女教師が姿を変えられ、汚いダナガンの口に触れて嫌悪の声があるが当然誰にも聞こえない。


「げほぉ!!げほぉ!! はっはぁ…パン、パンをくれぇ…」


 ダナガンはその後もパンと水を多く口にした。当然、それらが元は人間であるとは知らないまま貪っていく。奴隷たちの食事は一日3食なのは、奴隷の健康のためでなく食料や物に変化させた反抗者に罰を与えるためだ。


 そして、奴隷の着ている服や岩石を砕く道具も元人間だ。


(くさぃ、きたなぃよぉ…お願い、私を脱いでぇ…)


 髭と鼻毛が伸び放題で不潔な男。彼の奴隷服はわがままな貴族の女児だった。


 魔法が使え亡者に攻撃したが効果はなく殺されてしまい、服に変えられ汚い汗水が大量に染み込み女児の精神をだいぶ削っていた。


(いでぇ、やめてくれぇ、体がいてぇ…)


 岩を砕いているピッケルには不良で女子供に手を上げていた少年が毎日硬い岩を削るため痛い思いをしながら奴隷達に休みなく使われ道端に置かれていた。


 やがて、休憩が終わり奴隷たちはそれぞれ作業に戻る。


「せっえのぉ!!」


「ぐぅ、相変わらず重いなぁ、この粉砕機はぁ!!」


 何人もの奴隷が大きな輪についた棒を持ち回る。台の上に置かれた岩が二枚の鉄板に挟まれて砕かれていく。奴隷たちが棒を持ち歩くことで鉄板が動き左右から岩を押して砕く人力の粉砕機だった。


 もちろん、岩も元人間であり粉砕機の前に並べられた岩からは壮絶な声が上がる。


(ぎやぁぁぁぁぁぁ!!!!!! やめろぉぉぉ!!!!!!)


(私は人間だぁあぁぁぁぁ いだぁぃぃぃぃぃ!!!!!! ぎゃぁぁぁぁぁ!!)


(やめろやめろやめろぉぉぉ!!!!! 死にたくないっ、死にたくなぃ!!)


 岩になり動くことができず処刑を待つ囚人のように岩は粉砕機に運ばれていく。


「やめて」「死にたくない」「自分は人間だ」と必死に助けを叫ぶ愚かな抵抗者達は、この先何百、何千と砕かれても二度と人間には戻ることは決してない。


 そして、鉱山から新たな岩が運ばれた。


(隊長ぉぉぉ!!!!! 俺だぁ!! ダジロですぅぅぅ!!!!! たすけでぇ、俺はここにいるんだぁぁぁ!!!!! ひぃ、や、やめろぉ!! そっちに行きたくなぃ、行きたくなぃ!!)


 亡者により殺害され岩となったダジロがダナガンと部下たちに向け叫んでいた。


だが誰も助けることなく装置の上に置かれ鉄板により挟まれる。だが、ダジロの岩は予想以上に固く鉄板では表面しか崩すことしかできなかった。


(た、たすかった…? ひぃ!?)


 ほっとしていたが奴隷たちがダジロ岩の四方に散り手には先端が尖ったドリルの魔法道具マジックアイテムがあり激しく振動している。


(な、なんだ? 何をするんだ?)


「せ~の!! 」


「おりゃっ!!」


ガッガッガッ!!


(ぎやぁぁぁ!!!! いでぇぇぇぇ、ま、まで!! うあぁぁぁぁ!!!!!)


 振動するドリルが硬いダジロ岩をどんどん削る。人間を一撃で殺せるドリルの苦痛から逃れることができずドリルの先が進むごとにダジロの悲鳴は大きくなっていく。


(いやだぁぁぁ!! いやだぁぁぁぁ!! いやだぁぁぁぁ!! いだぃ、いだぃぃぃぃぃぃ!!! 隊長!! みんな助けてぇ!! 俺はここにいるんだぁ、ここにいるんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)


「このっ!! 硬いなぁ、この岩ぁ!! せ~の!!」


「くぉ!! また鞭うたれるなんてごめんだぞぉ!! うおりやぁぁぁぁ!!!!!」


 日頃の鬱憤をダジロ岩にぶつけ奴隷たちは気合を入れた。奴隷たちは交代しながらドリルで削る作業を続け岩は穴だらけになり、仕上げに穴にダイナマイトを仕掛ける。


ダジロは「もうやめてくれ」「助けてくれ」と泣くが、内部から爆破されダジロはやっと死ぬことができた。


 岩が粉々になり奴隷たちは喜びの声を上げるがダジロの罰はこれで終わったわけではなかった。


 しばらくするとまた鉱山から新たな岩が粉砕機の前まで運ばれた。


(いやだぁいやだぁ!! 隊長!! みんぁぁぁ!! なんでもするから!! お願いだぁ、俺はここにいるんだぁ!! いぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!)


 再び岩となって生き返ったダジロは仲間たちに助けを求めるが粉砕機にかけられ粉々となった。


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