第19話 辺獄の元人間達 4 少年は自由を求めるが、失敗に終わる
堕落した兵士ダナガンらが連れて来られ既に何年も経つが城の建設は前途多難だった。
「うぉ!! おい!! また地震だぁ!!」
「くそぉ!! 何かに捕まれぇ!! また落ちて死ぬぞぉ!!」
「う、うぁぁぁぁぁ!!!!!」
突然の地震に城の外壁で作業していた奴隷の何人かが落ちて死んだ。地面が揺れて城に積み上げられた壁が音を立て崩れ奴隷達の間に徒労と悲しみの息が生まれる。
「くそぉ…またかよぉ、こんなんじゃ、いつまでたっても俺たち自由になれねぇよ…」
亡者達から城が完成すれば自由になれると言われ奴隷達はひたすら働く。
城の壁となる重い岩や移動の橋となる木を鞭で打たれながら運び、何度も死に生き返った。
だが、作業が進むにつれ度重なる地震や強風によりせっかく築いた部分が壊れ何度もやり直しをさせられ、奴隷達の心を削いでいく。
「もうやだぁ…こんな生活、耐えきれない…」
崩れた壁を見て茶色髪の少年が膝をつき涙を流した。彼の名はヨウと言い生前は平民で特に大きな罪は犯していないが、ジャンヌの処刑時に面白半分で石を肩や腹部にジャンヌに当て「ざまぁみろぉ!! 悪女!!」と笑ったため辺獄に堕とされてしまった。
「おい、ヨウ…また行こうぜ、またあいつらに鞭打たれるぞ」
「うっせ!! 触んな!!」
黒髪で顔中にニキビができた少年キモイの手を振りほどく。
生前から友人だったキモイもジャンヌに石を投げて辺獄に堕ち、二人はこれまで何度も鞭で打たれ採掘機に巻き込まれ死亡と蘇生を繰り返してきた。
「俺はもう、限界だ…毎日岩を運んで死んだのに生き返って…」
「お、おい? やめろ、変なこと考えるなよ…この間、化け物と戦ったやつらは帰ってこないんだぞ?」
キモイが言っているのはダナガン達がここに来る前に行われた反抗者によるクーデターだった。亡者達を倒し自由を勝ち取るため名のある盗賊や戦士。魔法が使える貴族の子供達が行った反抗作戦は失敗に終わった。
戦える者は岩を砕くピッケルやドリルの魔法道具マジックアイテム。ダイナマイトなどあらゆる道具を持つが最後には膨大な数の亡者に押しつぶされた。そして反抗者達は物質に変えられ、永遠に人間に戻ることはない。
「それに、城が完成すれば自由なんだから、がんばるしかないんだよ」
「うるせぇ!! いつもお前は俺に指図しやがって!!」
「ぐぇ!!」
キモイが説得したがヨウはストレスで顔を殴ってしまった。
「しかも、その顔きめぇんだよ!! 俺の前にその面みせんじゃねぇ!!」
倒れたキモイをほっといてダイナマイトを持ち作業場へ戻る。その際「俺は、絶対に自由になってやる」とつぶやきは岩の爆破の音でかき消される。そして、残されたキモイは怒りと憎しみに満ちた目でヨウの後ろ姿をにらんだ。
数時間後、夕食の時間になり奴隷達はひたすら亡者から配られたパンと水を貪り知らぬ間に反抗者達へ罰を与えた後、横穴の住居地で寝始めると亡者の姿はどこかく消えてしまった。
太陽はなく血のように深紅の空で朝や夜などない世界だが、亡者達に食事の時間や睡眠の時間を支配されており、奴隷達は城の建設後の自由を夢見て硬い地面の上で寝始めた。
疲れ果て奴隷達が休んでいる横穴から人影が静かに走った。亡者の監視はおらず、作業場に入るとゴミ溜めのゴミをかき分け火薬が入った箱を取り出す。
「…じゃあな、キモイ。お前は一生ここで奴隷やってろ」
火薬に導火線をつなぐヨウは友人であるキモイを見捨てて自分だけ自由になろうとしていた。
「げほぉ!! はぁはぁ!!」
爆破に成功して砂埃にまみれながら壁の向こう側に走りヨウの顔には笑顔が見えた。
(やった!! やったぁ!! 外に出れたぁ!! 自由だぁ!! 俺は自由だぁ!!)
建設場から爆発の音に気づいた人々が起き始める中、ヨウは草木もない荒れ地で一人駆ける。
「はぁはぁ!! くそ!! 誰もいないのかよぉ!!」
脱出経路を考えたまではいいが、このまま外に出ればどこかの町か村にたどりつけるだろうと無謀な計画に少し後悔してきた。だが、この後すぐにその後悔は大きなものとなる。
「ぐぇ!?」
突如、ヨウの体に二重、三重と鎖が巻き付いた。
「うへぇぇぇ!! 脱走だぁ!!」
「逃げたやつにはきつい仕置きだぁ!!」
「連れてけ、連れてけ!!」
亡者馬に乗った人狩りの亡者が生前誰かの口調をマネして笑いだす。鎖に巻かれたヨウは「いやだ、いやだ」と泣きながら鎖から逃れようと抵抗するが、馬たちは走りだす。
「ぐぇ!! いだぁ、と、とめろぉぉぉ!! うぁぁぁぁぁ!!!!!」
ダナガンのように固い地面を激しく引きずられた。鎖のせいで腕は拘束され顔を隠すことができず土や岩で鼻の骨が折れ、歯が全てかけ目から血が流れる。
「ご、ごめんなざぃ!! ゆるじでぇ!! やめでぇぇぇぇぇ!!!!! 」
「ぎやはぁぁぁ!!!!! いけいけ!!」
「他の脱走者にも同様に仕置き、仕置きぃ!!」
「仲間から恨まれ憎まれて石を投げられるぞぉぉぉ!!!!!!」
来た道を逆戻りしヨウは全身ボロボロの状態で自ら破壊した壁の前に磔にされた。
「うぅぅ…いたぃ、いたいよぉぉぉ…」
ヨウの周りには、壊した壁から脱走した奴隷達もボロボロの状態で磔に並べられた。
「誰だぁ!! 壁壊したやつはぁ!! 爆発の振動で城の壁にひびが入ってたぞぉ!!」
「しかもあの化け物たちはこの壁も直せって言ってきたんだぞ!! 仕事増やしがって!!」
「誰が爆破しやがった!? 言え!! この裏切り者どもぉ!!」
脱走者を助ける事はなく奴隷達は逃げた者達を攻め立て石を投げ始めた。
何度も死に生きを繰り返しせっかく完成近くまで来て仕事を増やされた奴隷達は怒り脱走を裏切り者と怒りをぶつけた。
「いだぁ!! やめぇ!! わ、私じゃない!! 」
「おれもちげぇ!! ただ、壁が壊れてたから出ただけだぁ!! 」
「やめろ!! 俺たち仲間だろぉ!! あの化け物の言いなりでいいのかよぉ!! 石なげるなぁ!! いだぁ!!」
脱走者達に石が投げられ犯人が名乗り出ない限り、この魔女狩りは終わらない。
「いでぇ…っ!! ヨウッ、ヨウッ!! 助けてくれぇ!! 」
石を投げる奴隷達の中に顔を腫らしたキモイを見つけ叫んだ。唯一の味方に僅か希望が見えたがキモイはヨウを指差す。
「あいつだぁ!! 昨日爆薬を隠してたのを俺は見たぁぞぉ!!」
キモイの声に誰もが集中して、石の雨がヨウに集中した。
「いだぁ!! キモイッ!! てめぇ!!」
「俺の面はもう見たくなかったんだよなぁ!! おらぁ!! 望みどうりにしてやるよ!!」
「ぎゃぁ!!」
キモイの力を込めた石が目に当たり血が流れる。磔にされていた人々もヨウを見て「おまえのせいでこんな目に!!」「この裏切りもの」「八つ裂きにしてやる」と、ヨウの作った脱出口から逃げたのを棚に上げて罵声の雨が左右から聞こえた。
(目がぁ!! 何も見えない、いたぃ!! 俺は自由になりたかったぁ!! こんなところでバカみたいに働きたくなぃ!! 自由に、自由になりたかったのにぃ!!)
ヨウは磔のまま殴り蹴られ。時には岩で足を砕かれ、ピッケルで頭を殴られるなどストレス解放のためあらゆる暴力を受け死んだ後遺体は放置されて壁は修復された。
生き返ったヨウは人間でなく、自身が破壊した壁の大きな破片に生まれ変わった。
「おらぁ!! おらぁ!!」
「くそぉ!! あの化け物どもぉ!! 俺たちをコキ使いやがって!!」
破片に向かってドリルで削るなどストレス発散していく奴隷達。ヨウの壁は彼らのサンドバックとなっておりヨウは毎日理不尽な暴力を受けることとなった。逃げることも助けを呼ぶこともできず、やがて破片が小さくなっていくと別の用途に使われてしまった。
「かぁ~ぺぇ!!」
「ふぅ~大量、大量!!」
(うぁぁぁぁ!! やめてくれぇ!! くせぇぇぇ!! いやだぁ、ここらから出してくれぇ!!)
痰やつばを吐かれ排泄場にされ悪臭が漂い誰も近づかなくなった。長い時間放置され風化すると破片は石ころサイズまで削られていた。そこに、誰かが近づく。
(っ!? キモイッ!! 俺だぁ、ヨウだぁ!! いやだぁ!! ここはもういやだぁぁぁ!! たすけげっ、ぐぇ!!)
「あぁ、くそぉ!! いらない服捨てるのも大変だぁ!!」
キモイは大量に持っていた白い囚人服を捨てた。そして、ヨウは捨てられた囚人服からいろいろな声を聞き絶望した。
(くせぇ、くそぉぉぉ!! なんで俺がこんな目に!!)
(お願い、もう逃げないから。ちゃんと働くから人間にもどしてぇ!!)
(いやだぁ、いやだぁ!! 捨てないでぇ、僕はまだ使えるんだぁ!!)
ヨウの作った穴から脱走した奴隷達がボロボロの状態で捨てられ、次々と穴が開いたコップや欠けてしまったピッケルまで捨てられていく。
(うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!)
新しいゴミ捨て場の奥底でヨウは悲鳴を上げ、自由を求めた少年は動けず異臭と汚物に苦しみ続けるのであった。
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