第17話 辺獄の元人間達 2 副官の罪
これはジャンヌの活躍により戦争が終わった後に起きた話。
平和になり兵士たちの仕事が減り堕落してしまった。兵士は自分達は戦争を戦った英雄だと驕り始め町の酒場で酔って暴れていた。
「おらぁ!! 酒だぁ、酒をだせぇ!! 俺たちは英雄なんだぞっ!!」
「兵士のみなさん…お、お願いです…お代を払ってください…店が潰れてしまいますぅ…ひぃ!!…」
「あぁ、金だぁ? 戦争でお前らを守ってやった俺たちから金をとるのかぁ!! この無礼ものがぁ!!」
戦時中は城勤務で安全な場所にいた彼らは酒場で暴漢と変わりない態度をとっていた。
物腰優しい店主に向け怒鳴り散らし、ついには彼の娘にまで手を出し始めた。
「い、いやぁ。やめぇて!!」
「あぁ? おい!! 小娘、俺の相手ができねぇのかぁ!! あぁ!?」
「いや、やめ…いだぁっ!!」
他の騎士よりも太って豪華な服を着た隊長のダナガンが娘の顔を何度も殴り、美しかったからら血と涙が溢れ出る。
「やめてぇ、…殴らないでぇ…」
「娘ぇ!! だったら、俺の夜相手をしろぉ!! えっへへえへ…」
暴力におびえ従順になった娘をつかみ店の奥へ入ってしまう。店主は「やめてくれぇ、娘だけはぁ!!」と叫び追いかけよとするがダナガンの部下たちが店主の前に出て道をふさいでしまった。
「娘を、娘を返してぇ…お願いしますぅ、金なら全部あげますから…」
「あきらめなじじぃ、隊長の目にかなった女はボロボロになるまで遊ばれるんだからよぉ」
「あぁ~~俺たちにも分けてくれよ…」
店主が全財産の汚い銅貨を散らばすが、笑う兵士たちは誰も拾わない。
そんな中一人だけ、床の銀貨を拾う男がいたが、
「おぉ~~お優しいね副長はぁ~~」
「副長~~酒追加してくれ~~」
「はやく、はやくぅ!! ダジロ~~」
ダナガンの右腕の男ダジロは一度、部下たちをにらんだ。
(こいつら、ダナガンと同じさっさと死ねよ…)
部隊の副官であるはずだが部下は全員貴族出のダナガン寄りで皆平民のダジロを見下していた。
言い返せば、親の権力を使われこれまでもめた経験から、ダジロはだんまり決め、床に落ちた銀貨をポケットに入れ店主に返さず、ダジロは部下と自分の分の酒を取りに行ってしまった。
「あぁ、そんな、誰か、娘を助けて…」
店主の悲しみの声から数分後、店の奥から満足した顔のダナガン、そして部屋に残された全裸で身も心もボロボロの娘を見た店主の悲痛の叫びが店内に響く。
(全部、ダナガンが悪いんだ、俺は何も悪くない…)
日頃のストレスのせいで酒を飲みすぎて千鳥足のダジロは何度も自分は悪くないと、言い聞かせて店出た。ダジロは一人で別の店に行き店主の汗と水の銅貨を全て使い酔いつぶれてた。
その後、ダナガンに娘を汚され金をダジロに奪われた店主たちは路頭に迷った。
店は潰れ、店主一家は誰も知らない場所で飢えて死んだがその魂は楽園へ導かれた。
そして、ダナガンと彼らの部下は亡者の地獄へと堕ちる。
△
地獄へ堕ちたダナガン達は亡者の集団に囲まれて全滅しかけていた。
「た、隊長!! もうだめです…やつら、こちらの攻撃は全く効いていない様子です…」
「ええぃ、くそっ!! この役ただずどもめぇ!! 」
太って豪華な軍服を着たダナガン隊長が報告に来たダジロに怒鳴った。
彼らのいる荒れた大地に張られたテントの外では苦しみの声を上げる亡者たちがうようよ歩く。
「そ、それが…」
「なんだぁ!? さっと報告しろっ、バカがぁ!!」
「あ、あの白い怪物たちには、魔法は大した効果がなく…皆逃げてしまいました…」
「なにぃ!? このゴミがぁ!!」
ダナガンは持っていた空グラスをダジロの頭に投げつけた。この部隊は貴族出身であるダナガンの我がままに振りまされ、平民への暴力やダナガンの気に入った女性の連行など理不尽な命令を受けてきた。
ダナガンに逆らえば職(兵士)の席は永久に外され、まともな就職先など閉ざされてしまう。必死に団を支え耐えてきたダジロもついに限界が来ていた。
「おい!! こうなったらワシを連れて安全なところまで運べ、ダジロ!! 命令だぁ!!」
「隊長、お言葉ですが、その命令は不可能です」
「なにぃ!?」
「もう無理なんだよぉ!! このテントにいるのは俺と隊長…あんたと二人だけだぁ!! もう部隊の連中は全員逃げたよ!! あんたの命令を聞くのは限界だってな!!」
「お、おい!? どこへ行く!! ワシの命令が…」
「もう、王国は滅んだんだ!! 他の奴はみんな死んだ!! 命令なんか出しても、意味なんてないんだ!! 俺はあんたの家来なんかじゃない!! くそぉぉぉぉ!!!!!」
これまでの鬱憤を全てダナガンにぶつけてテントから飛び出すと剣を抜きひたすら走った。
「うぉぉぉ!!!!! どけぇぇぇぇ!!!!!」
テントの周りを囲っていた亡者達を切りながら逃げる。子供のころに騎士に憧れ、平民の身で必死に努力したのに、結局騎士になれず平の兵士になりクズ上司ダナガンの命令に振り回される毎日に彼は腐ってしまった。
「私たち、お代を払ってください…店が潰れてしまいますぅ…」
「娘を、娘を返してぇ…」
「やめてぇ、…殴らないでぇ…」
テントの周りにいたほとんどの亡者がダジロを追いかけた。
「ひぃ!! やめろ、やめろ!! 俺は隊長に…ダナガンに命令されて…仕方なかったんだ!! 逆らったら、兵士でいられなくなるんだぁ!!」
自分は悪くないと叫ぶが、ダジロも店主の銅貨を盗むなど既にダナガンと同じ道を辿っていた。そして、亡者達の口からダジロの罪が次々と暴露される。
「なんで、身体検査で私の体をいっぱいさわったの?」
「なんで貴方のポケットにお母さんの宝石が入ってるの?」
「なんで貴方の前を通っただけなのに殴られなきゃいけないの?」
身体検査で女性の体を触り性欲に浸り、母の形見を無くした少女の宝石を奪い、部下の走り(ぱしり)でイライラして殴られた通行人など。ダジロの被害にあった亡者が追いつきダジロを捕獲した。
「ひ、ひぃぃ!! や、やめろぉぉぉ!!!!!! 俺に触るなぁ!! うぁぁぁぁぁ!!!!!」
鎧をはぎ取られ、装備や衣類も脱がされ生まれたままの姿にさせられ亡者の爪や牙で体中が傷だらけになっていく。
「やめろぉ!! やめろぉ!! 俺は皆のために必死に働いたんだぁ!! 部下たちだって俺をダナガンの奴隷なんて言いやがって!! 俺がいなかったら、何もかもダメになってたんだぞぉ!! どいつもこいつも、俺に感謝して地面に這いつくばれよぉ!!」
ダナガンの命令をこなす毎日の中、真面目だった彼も腐り平民から何もかも貪る上司のダナガン以上のクズに成り下がっていた。
恐怖と怒りで理性を失い全裸の彼は醜く怒鳴り散らした。
騎士団長に命令されたから、自分はひどい目にあってるから…5歳児のように泣き叫ぶ彼に亡者達は慈悲を与えず、ダジロは大量にいる亡者の白い波に飲み込まれた。
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