5 ウンディーネの溺死遊戯
第15話 ウンディーネの溺死遊戯と泥地獄
水に住まうウンディーネ族。彼らは人魚の体を持ち水中を自在に動けるだけでなく、空気中の水まで支配できるほど水に右に出る存在はいなかった。
「だ、だずげぇ、ぐぶぅ!!」
「や、やめ…たすけぇ…」
「おらっおらっ!! さっさと沈めよ!! 人間よぉ!!」
ウンディーネ族の次期当主である「デシ」は湖の傍を通ってきた人間を沈めて楽しんでいた。
水の中では呼吸もできず陸から自分達を見下すのが気に食わないと、それだけの理由で陸を嫌いこれまで湖に近づいた者をエルフだろうがドワーフだろうが関係なく沈め、仲間内で記録を競っていた。
「お、おがぁざん!! げほぉ…ぉ…」
「ざんね~ん、おかあさんはもう死んじゃいました~~」
「おがぁ、ざ、ん…」
デシが幼い少女を頭から押さえつけそのまま水の中に沈めた。少女は目の前で水面に浮かび既に息絶えた母親へと手を伸ばすが、やがて肺に水が入り苦痛の顔を浮かべたまま少女も冷たくなり動かなくなった。
「デシさん。あんなに小さい人間にも容赦ないっすね…」
「そういう、お前だってこの間、ドワーフのガキを沈めてたろうに…」
デシの取り巻きたちであるウンディーネの男達が笑いながらこれまで溺死させた自慢話を続けた。
彼らの手首に巻き付いている貝の装飾品は、これまで溺死させてきた者達の数を表し、デシ達は新たに貝に穴を開けて手首に巻き付けた。
「今のガキでちょうど30かぁ…で、今日のビリは誰だ?」
デシが手首に巻き付けた30個の貝を見せびらかすように掲げる。
取り巻きの一人が死体を数える。
「あぁ、えぇと…デシさんが3人で俺が2人ですね…おいおい、ちび!! またお前1人しか沈めてねぇのかよ…おら、ビリはさっさと死体を片づけてこい!!」
3人目で取り巻きたちの中で手首の貝がまだ5つしかない一番小柄のチビは「え~」と声を上げた。渋々と水面に浮かぶ8つの死体から金品を奪いデシ達に渡すと死体をつかみどこかに運んでいった。
「あ~ぁ、なんか人間ばっか沈めんの飽きたなぁ~~ドワーフは簡単に死ぬし…またエルフの女を沈めてぇな~~」
「そうっすね!! エルフの綺麗な女の苦しむ顔はもう忘れられないっすよ!!」
「次にエルフの女がいたらデシさんに譲りますから」
死体から取り上げた金品を両手に、デシに対し敬語のガワと語尾にっすをつけたゴウの取り巻きの2人は笑みを浮かべる。始めはこの溺死遊戯に内心嫌気がしていたが、沈めてきた者たちから遺品を奪い金にかえ上手い料理を食らい、女に貢物をして贅沢の限りをつくすうちに感覚が完全麻痺した。
戦時中の今、誰が行方不明になってもおかしくない状態のためデシらの所業は同族たちですら気づいていなかった。族長であるデシの母親すら知らない。
「あぁ~エルフの女、エルフの女…母上に頼んで、エルフを呼び寄せるか…?」
デシは穢れた劣情を浮かべる。これまで美しい美貌と豊満な胸を持つ種族の女たちを沈めた感触を思いだしている。
そして、すぐに世界を包む瘴気が広がりデシが二度とエルフの女を溺死する機会はなかった。
△
「くそ!? なんだ、こりゃっ!? 」
デシ達は冷たい泥の海の中を泳いでいた。瘴気で息絶え気づいたらおり、ひたすら泳ぐが陸が見えない。
「で、デシさん、ここは一体…」
「俺が知るかよ、黙ってろチビ!!」
「ひぃ!!」
体中を泥だらけで自慢の鱗が汚れてデシはイラついていた。チビは八つ当たりされて、わざとゆっくり泳ぎデシ達と距離を置く。
「あ~もう、いやだぁ…」
体中に冷たい泥がつきチビは小さく泣きながらつぶやいた。体格が小さく泳ぐの遅いいチビは同族から見下されたため、デシの舎弟に入り楽をしようとした。だが、いつも溺死させた数は少なく、死体の片づけばかりさせられロクな目にあっていない。
「はぁ…ん?」
背後に気配を感じチビが振り向くと、体の白い人間達がチビを泥の海に引きずり込み沈めた。
「げぼぉ!! だ、だずげぇ…」
ウンディーネは水中でも呼吸ができるが泥の中は酸素がなかった。そして、チビをつかんでいる白い人間達は下半身にヒレとオビを持ち泥の中を素早く泳いでいた。しかも、中には水中を泳げないはずのドワーフまでいた。
(がばぁ!! ぐるじぃ、だずえぇぇ…ぎやぁぁぁ、いだぁぁぁいぃぃぃぃ!!!!!)
泥の中なのに全く汚れていない白い人間達こと亡者は、鋭い爪や牙でチビの体を引き裂いて大量の血が流れた。
「な、なんだぁ? おい、チビ…ひぃ!?」
「な、なんだっりゃぁ!!」
チビが既に亡者たちの餌食になったのを見て取り巻き2人は悲鳴が上がった。
「くそ!! アクアカッター!!」
デシが水の刃を亡者にぶつけるも、亡者には傷一つかない。チビの姿が完全に見えなくなり、亡者たちはデシに向け迫る。
「く、くそぉ!! なんなんだよ、あれはぁ!?」
「な、なんでドワーフまで泳いでんだよ!!」
「あ、ありえないっす!!」
デシ達3人は亡者たちから必死に逃げた。亡者はどんどん増えていき、人間からドワーフさらにエルフやハーピィなどウンディーネ以外の種族が老若男女が泳いでデシらを追う。
「はぁ、はぁ…で、デシさん…俺、もう無理っす…た、たすけて…あぁくそ!! 邪魔だぁ!!」
ゴウが息を切らしデシに助けを求めて手を伸ばして、手首に付けた貝殻が邪魔で糸をちぎって捨てた。亡者達は捨てられた貝殻に当たるが気にせず迫る。それを見てデシは自分の手首にある貝殻を同じように後ろに投げた。ゴウに向けて力強く。
「でぇ!? で、デシさん!? いでぇ!? 目がぁ!!」
貝殻が目に当たり血を流し立ち止まるゴウ。そして、背後から迫る亡者の手に捕まって泥の海に引き込まれた。
「ひぃ…!! 離せ!? いやだぁぁぁ!! た、助けってっ!! げほぉ!!」
じたばたと暴れるが力強い亡者から逃げられず、デシに囮として捨てられたゴウはそのままチビと同じように引き裂かれる。そして亡者達が口を開く。
「ぐるじぃ、だずげでぇ」
「つめたいよぉ」
「はやく、はやくたすけでくれぇ」
泥の海の中、水で亡くなった者達の怨嗟の声が響きわたった。
(ぐぁぁぁぁ!!!!! やめろ、やめろぉぉぉぉ!!!!!)
亡者の声が頭に響いて口から酸素があふれ出る。そのまま恐怖の中ゴウは絶声を上げ溺死した。
「お前も死ねぇ!!」
「で、デシさん!! やめでぐ、ぐぇぇぇぇ!!!!!」
アクアカッターでガワの体を傷つけデシはそのまま逃げた。
「デシッッッッ!!!!!! てめぇぇぇ!!!!!! うぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
大量の血を流したガワにエルフやドワーフの亡者が一斉に群がり敬語を捨てデシに対して恨みの言葉を叫び、最後に泥の中で亡者の爪や牙で体中ボロボロになり泥の中に沈む。
(つめてぇ、いでぇ、ぐるじぃぃ…たすけて、やめてくくれぇぇぇぇぇぇ)
泥の海からガワのつけていた犠牲者の貝殻が浮かび、最後の取り巻きは泥の中から浮かぶことはなかった。
「はぁ、はぁ…くそ!! 俺は死なねぇぞ!! 」
1人になったデシは取り巻きを犠牲にしていつ終わるかわからない逃走を続けた。
背後を見れば、亡者の数は100近くまで増え何かを言っている。
「なんで、なんで私が死なないといけないの?」
「水はいやだぁぁぁ」
「さむい、さむい…」
「いきをさせてくれぇぇぇぇ」
生前水で亡くなった者の記憶から生まれた亡者の叫びがデシに死の恐怖を与える。
「ひぃ、ひぃ!! た、たすけて!! 母さん!!」
情けない悲鳴を上げひたすら体中を泥で汚し逃げ続ける。
「はぁ、はぁ..げほぉ…」
何時間も泳ぎ続け、息が荒く体力は既に限界を迎えていた。逆に、亡者達には疲れた様子などなくこのままでは亡者達に捕まってしまう。
「っ!? あれはっ!?」
デシが遠くの方で白い陸が見えて希望に笑みを浮かべた。
(陸だぁ…陸にあがれば…)
陸にいる種族は嫌いと言っていたデシは、プライドを捨て陸を目指す。
「はぁはぁ…ひぃ!?」
最後の力を振り絞り泳ぎ、陸らしき物の近くまで泳いだデシは恐怖で止まった。
「あぁぁぁぁ…」
「なんで、私を殺したの…」
「いやだぁ、くるしぃ…」
「ウンディーネなんて、きらいぃ…」
陸と思っていたのは膨大な数の亡者たちだった。その中にはデシが遊び感覚で溺死させたエルフの女も含まれておりデシを見て怨嗟の声を上げた。
「あ、あぁ…あ…」
既に体力を使い果たし背後の亡者達にも追いつかれた。完全に囲まれたデシは「来るな、あっち行け!!」と子供のように叫び、彼の背後に一体の小さな亡者がいた。
「あぁ…母さん…母さん…」
「ざんね~ん、おかあさんはもう死んじゃいました~~」
「ひぃ!?」
デシが情けなくこの場にはいない母親に助けを求めると生前最後にデシが溺死させた少女がデシの言葉をマネしてつかみかかった。
「うぁぁぁぁぁ!!!!! げふぅ、ぐえぇぇぇぇ!!!!!!」
一斉に亡者達が襲いかかり泥の底へ引きずり込まれる。息ができず口を開き肺の中に泥が流れ、体内から血の気が引いて冷たくなっていく。
(やだぁぁぁ、やだぁぁぁ!!!!! 死にたくない!!!!! ぐるじぃぃぃぃ、息、息をさぜでぐれぇぇぇぇ!!!!!)
これまで溺死遊戯で苦しめてきた者達と同じ目に合うデシ。亡者達の容赦ない攻撃で肉片もなく死ぬが、これで終わりではない。
「ぐぇ!! ごぼぉぉ!?」
次に生き返った時は、デシは泥の深い底だった。酸素を求めてすぐに上の方へ泳ぐが、何百もの亡者達に阻まれて何度も溺死を繰り返す。泥の底には先に溺死した取り巻き達3人もいた。
(ぐるじぃぃぃ!!!!!!)
(いぎぃがぁぁぁ、いぎざぜでぐれぇぇぇぇ)
(いだぃぃぃ、やめでぐれぇぇぇぇ!!!!!!)
生き返っても息ができず亡者に体を引き裂かれ一方的に溺死させられる。亡者から一方的に生前、自分達がしていた溺死遊戯をそのまま永遠に繰り返すこととなる。
(つめだぃぃぃ、ぐるじぃぃぃ、だすげで、ぐれぇぇぇぇ)
「ふっふっふっ!!」
「あっはぁぁぁ!!!!!」
生前デシにより溺死させられた女エルフの亡者が、楽しそうにデシの体を切り裂いていく。
ここは泥地獄。水で死した者の亡者が住まい、溺死で楽しんでいたウンディーネを亡者が沈め楽しむ地獄。
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