第13話 それぞれの絶望地獄 3  食われるギン、絶望に泣き叫ぶイーロ

「や、やめてくれぇ…食べないでぇ、それは…お母さんの…」


「やーだよぉ!! このパンはわたしのだぁ!!」


 既に死した母親のためにパンを取り戻そうとした子供にギンが魔法を放ち炭と化す。


 また辺獄の集落の一つが潰され貴重な食料が堕落したシスター達に奪われた。


 魔法に長けたエルフや剛腕を誇るドワーフ。水辺では右にでないウンディーネ達は抵抗するが、殺しに長けた彼女たちを止めることはできなかった。


「へっへへ!! そんじゃメシに…うぉ!!」


 ギンが腹を空かせていると突如、大きな地震が起きた。地面や岩が変動して、彼女たちを取り囲む。


「きゃ!! な、何!?」


「くぅ!! イーロ!! ピー!!」


「くぅ!?」


グリが仲間に声を上げるがその間にも、4人それぞれバラバラに分断されてしまった。



「うっひやぁぁ!! 食い物がいっぱじゃねぇかぁ!!」


 ギンは一人果実が実った密林の中ではしゃぎ、次々と実っているリンゴやブドウなどを口にした。貧しい村で育ちいつも空腹で教会の食事も満足できずいつも食べ物に対して執着を持つギンにとってはまさに天国であった。


「もっと、もっと食うぞぉ!!」


 魔法で大樹をなぎ倒し、邪魔な岩を粉々にしながらギンはひたすら果実を口にし続けた。


 もし誰か人がいれば容赦なく殺していただろう。


「邪魔だどけぇぇ!!!!」


 実際に森の中にいた巨大な虫を魔法で吹き飛ばし、果実をもぎ取る。


「あっははは、食いもんがいっぱだなぁぁぁ!!!!! 」


 大樹の根元で集めた食料を眺めギンは満面の笑みを浮かべる。ガエルの元で働いていた時もまともな食べ物などもらえなかった。ここにいれば幸せだと考えているとギンを巨大な虫たちが囲んでいた。


「あぁ!? なんだてめら!! これは私のだぞ!!」


 巨大な蜘蛛はギンに赤い瞳を向けているが、ギンは食べ物を守るため蜘蛛に向け魔法を放ち森が燃え蜘蛛たちの死骸が転がる。


「あっはははは!!!!」


満腹になり有頂天になるギン。だが、蜘蛛たちを攻撃している途中で突如嘔吐した


「ぐぇ!! げぇぇぇぇ!!!!!」


 食べた物を全て出してしまい、何が起こったのかわからない様子だった。だが、ギンの吐き出した果実の破片から小さい蜘蛛がうごめいていた。


「な、なんだ、ごれぇぇ…ぶぇぇぇぇっっっっっ!!!!!」


 何度も胃の中の物を吐き出し未消化物と共に蜘蛛の赤ん坊が増えていく。ギンはまだ気づいていないが、この森の支配者である蜘蛛は果実に卵を植え付け。何も知らず果実を食べた生物の体温で孵化する。そして、孵化した後は獲物の肉を食らい成長する。


「ぐぶぇぇ、ぐぇ…ぐ、ぐるじぃ…血が、血が…」


 体内で孵化してしまった蜘蛛の赤ん坊が胃や内臓を食べて、大量の血を吐き出す。


 目の前の敵は魔法で吹き飛ばせば終わりだが、体内にいる蜘蛛に対して無力だった。


「ぎぃ、ぎぃぃぃぃ!!!!! やめろぉぉぉ!!!!! たべるなぁぁぁぁ!!!!!」


 先ほどパンを奪った子供と同じことを叫ぶがどうすることもできない。散々他人の食べ物を奪ってきた少女は体内から蜘蛛に食われる羽目になった。


「いだぃ…やめろ…」


 魔法で自分の体を吹き飛ばすことなどできず泣き叫んだ後、ギンは体内から蜘蛛に頭から足の先まで残さず食われた。だが、これで終わりではなかった。


「っ!? な、なんで、わたし…? ぐぇぇぇぇ!!!!!」


 森の中で生き返ったギンは戸惑う暇もなくまた蜘蛛の卵を吐き出した。


 生き返っても体内に卵が残りすぐに孵化した蜘蛛の赤ん坊は、内臓を食らい大きくなり皮膚を内側から食い破って目や鼻など顔も食らう。


「やめろぉぉ!! たべるなぁぁぁぁ!!!!!!」


 食欲旺盛な堕落したシスターは、たった一人森の中で蜘蛛に食われ続けた。体内から蜘蛛に食われる恐怖と苦痛で自ら魔法の火であぶったりして体内の蜘蛛を攻撃しようとするが、逆に苦痛を自ら与えてしまうだけだった。


「ぐぇぇぇ、いでぇぇ…あづぃぃ…やべぇ、ろ…いだぃ、ぐるじぃぃ…」


 自分に魔法で攻撃して自害しても結局は生き返りまた蜘蛛を吐き出し食われる。


 ギンだけでなく、他の4人もそれぞれの地獄は始まったばかりだった。



 黄色髪の少女「イーロ」は薄暗い遺跡の中をひたすら破壊しながら進んでいた。


 「もうっ!! なんなのさぁここはぁ!!」


 壁を魔法で破壊して突き進むが一向に出口が見えずイライラしていた。戦争孤児で何の個性もなかったイーロは魔法を手に入れてからなんでも魔法で吹き飛ばすようになった。


 何も罪もない食べ物をねだる平民や教皇ガエルの暗殺で邪魔な門番を骨のかけらもなく吹き飛ばした。


 魔法の力があればなんだって壊せるし、邪魔な物はみんな消すことができる。そんな傲慢な考えのせいでイーロは何も考えない馬鹿に成り下がって目の前の石板に書かれた文字すら読めなかった。


「え~と、わかんない!! えいや!!」


 勉強嫌いで文字が読めず石板を破壊して奥へ進んだ。もしここに博識であるグリがいればこの先には決して進まなかっただろう。イーロが破壊した石板には「魔法封印の間」と書かれていた。


「ふぅ!! 外まだぁなのぉぉ!! もう!! ギン~~ グリ~~」


 石作りで何もない部屋に入るイーロ。仲間の声を呼び歩いていると、出入り口が突然閉ざされた。しかも、左右の壁がゴゴゴッッッと大きな音を立て迫っておりイーロを押しつぶそうとしていた。


「あれっ!? なんなのこれ? でもまぁ、これぐらい」


 イーロはいつもどうり閉ざされた扉に向け魔法を出そうと手をかざすが魔法が出ない。


「え? な、なんでぇぇぇ!? えぃ!! えぃ!!」


 ここが魔法封じの部屋だと知らないまま入ったイーロには既に助かる方法はなかった。


 魔法を封じられた少女では左右からくる壁を防ぐ方法などなく、壁と壁の間に挟まって悲鳴を上げるしかなかった。


「いやだぁぁぁぁ!!!!! ギンッッッ!!!!!! グリッッッッ!!!!! たすげでぇぇぇ!!!!!! だすげでぇぇぇぇぇぇ!!!!!! 」


 仲間の名前を叫びながら、潰されないように壁に手を押し付けるが非力な少女の力では何も変えることはできない。それどころか壁を押さえていた両腕が耐えきれず骨が折れた。


「いだぁぁぁぁぁ!!!!! う、うでぇぇぇぇ!!!!!! ぎぁぁぁぁぁ!!!!!」


 壁が胴体を押しつぶし肋骨や内臓が潰れ、顔の鼻が折れ悲惨な姿に変わっていく。さらに、体が押しつぶされたせいで肛門から汚物や血など噴き出た。


「ぐぇぇぇえぇ!!!!! ぐぎぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 絶望の叫びを上げる中、壁が完全に左右に閉じた。壁と壁の間からかつて少女だった物の残骸や血などが染み出てた。そして、圧死したイーロはギン同様に遺跡の中に生き返る。


「あぁ、あぁぁぁぁ…なんなの、ここ…どうして魔法がつかえないのさぁぁぁぁ!!!!!」


 圧死した恐怖と魔法が使えない絶望で叫ぶ。そして、イーロが生き返った場所は先ほどの壁の部屋とは違う部屋であるが、同じ魔法封じの間だった。


「ぐそぉぉぉぉ、ぐそぉぉぉぉぉ!!!!!!  で!? ぐ、ぐぇぇぇぇぇ!!!!!」


 クソクソと叫んでいると今度は天井が落下して圧死した。そして二度目に復活して魔法を使おうとするが、そこも魔法が使えない部屋で無駄に終わる


「ぐぞぉぉぉぉ!!!!! こ、このぉぉぉぉ!!!!! なんでぇ、なんでぇ、なんでぇ、魔法が使えないのさぁぁぁぁ!!!!!」


 子供のころからあこがれだった魔法使いになれて有頂天から、絶望に叩き落され親から玩具を取り上げられた子供のようにイーロは発狂して壁を蹴った。


 すると、壁一面から槍の山が伸びてイーロを串刺しにしてしまう。そこから、遺跡の罠に何度も、何度も受けてイーロは様々な死に方を受けることになった。


 毒蛇の巣窟で目を覚め、すぐに全身を噛まれ毒でのたうち回ってから死に。


 壁や天井が崩れて生き埋めになり、そのまま餓死して死に。


 魔法が使えれば解決できたことができない悔しさや死の恐怖で次第にイーロは動かくなっていく。


「いだぁぁぁ…まほう、わたしのまほう…」


 天井から迫る刃の大群から逃げる気力はなく、イーロは奪われた力を思いながらそのまま串刺しになった。

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