第12話 それぞれの絶望地獄 2 荒れる辺獄
教王ガエルによりシーマから奪った魔力で魔法を悪用する5人の少女達。
男勝りな銀色の短髪少女ギンは、農村の村娘で出稼ぎと性格矯正のため教会に入れられた。しかし、厳格で厳しい教会の生活はギンに合わず何度も問題を起こす問題児だった。
「あぁ、くそぉ!! メシつまんだだけだろうがぁ!! ここから出しやがれぇ!! 」
教会の質素な食事生活にストレスをため込み、反省部屋と言う名の牢獄に何度も入れられた。これ以上は教会の品を落とすため、使い捨てにはちょうど良いと教王の実験に使われ魔法が使えるようになり、性格はさらに荒くなってしまった。
小柄で黄色髪のイーロは魔法使いにあこがれる戦争孤児だった。絵本で活躍する魔法使いに憧れたが、魔法の血がなければ魔法が使えない現実に挫折して教会の下働きで苦痛の毎日を過ごしていた。何日も洗っていないシスター服を着て上級聖職者たちの洗濯物を洗い、畑の作物を空腹の中運ぶ毎日で理不尽な教会や世界を壊したいと破壊願望を抱いた。
「やだぁ…こんな生活も、世界も嫌だ…」
だが、ガエルの実験により魔法の力を得ると絵本で憧れた魔法使いになれた興奮と破壊願望が混じり、魔法で破壊することが生きがいとなり地獄に堕ちても変わらない。
「おらぁ!! メシよこせぇ!!」
「はっはは!! 吹き飛べ、吹き飛べぇぇぇ!!」
辺獄に作られたエルフたちの集落に堕ちたシスター達が略奪をしていた。
「ぎぃやぁぁぁぁぁ」
「あじぃぃぃぃ!!!!」
エルフらをギンが放った風の刃ウィンドカッターや、イーロが放つ巨大な火球ファイヤボールによりエルフらは燃やされた。
本来なら魔法の扱いに長けているエルフ達の方が有利であるはずだが、ギン達の奇襲に加え辺獄での生活で疲労しているせいで、統率が取れず次々と細切れ死体や焼死体が作られる。
「この、化け物めぇ…」
次々とエルフを襲い二人に向け、後方で弓を構えているエルフがいた。
「あら、耳長の貴方も化け物じゃない」
弓矢を構えていたエルフの首が床に落ち、緑髪で眼鏡をかけたグリはさっきまで生きていたエルフの頭を踏みつけた。
「魔法が使えるからって、調子に乗らないでほしいわ」
魔法が使える高名貴族の令嬢だったグリ。魔法の血がグリの代で魔法が潰えてしまい、魔法が使えない彼女は親から教会に捨てられるように入れられた。
どうして、自分だけ魔法が使えないのか? いつしか、魔法が使えるエルフ達に対しての怒りや嫉妬が増加したが孤児院のジンバイと違い、ひたすら勉学に没頭して教会ではそれなりの地位を手に入れた。だが、魔法が使える年下の平民がちやほやされて偉そうな顔をして自分を見る目が屈辱だった。
だから、教王の実験を噂で聞き自分から志願して魔力を手に入れてから、エルフ達の首をこれまで落としてきた。
「はぁ、まったく。暴れるだけしか能がないイノシシの面倒なんていやなのに…」
グリはエルフの頭を蹴り飛ばし自らも参戦してエルフの首を風の刃で切り落とす。
「ギン、イーロ。暴れて食糧庫を壊したらダメよ。暴れるなら集落から逃げ出した奴らを的にしなさい」
「え~~?」
「逃げてるやつら、うろちょろして狙うの面倒だよ!!」
ギンが口をとがらせ、イーロが文句を告げた。グリは脳筋二人に舌打ちして、この二人の頭を切り落とそうかと殺意が沸いた時。
「ぎぃぁぁぁぁ!!!!! 」
「う、腕がぁぁぁぁ!!!!!」
集落の周囲で逃げ出したはずの者たちが血を流し倒れていた。手足は刃物で切られたのか、傷口が綺麗だった。原因は見えない糸がエルフらを逃さないように集落周辺に張られており、ピンク髪の暗殺者が両手の糸で次々と手足を切り落とした。
普段から感情を表に出さないピンク髪のピーは、戦時中に捕虜となった女性が生んだ子だった。捕虜となり性的な玩具とされ、生まれたピーはすぐに捨てられ親の愛情を知らないまま教会の暗部に引き取られ、ガエルの指示に従い暗殺を繰り返してきた。
「お父さん!!」
「あなたぁぁ!!」
「にげろぉぉ!! 俺のことはいいから、お前たちだけで、も…」
糸の壁で足を失い倒れた父親が、母子に向け逃げるように叫んだ。だが、ピーがほんの少し指を動かしただけで、父親の首が地面に転がる。目の前で愛する者の無残な姿を見て母子は泣き叫んだが、その二人も次の瞬間にはバラバラの肉塊となった。
「しね、しね、しね」
悲惨な生まれとガエルの実験体にされたピーにはある一つの執着があった。幸せそうに暮らし笑顔を振りまく親子に対しての嫉妬や憎悪。自分にはない幸せを目にすると次の瞬間には、今のようにバラバラ死体ができあがっていた
「あぁぁぁ!!」
「おいぃ!! そいつはら私の獲物だぞぉ!!」
既に死体だらけの集落のエルフの中、ギンとイーロが獲物を横取りにしたピーに文句を吐き出した。
「…」
「ごらぁ!!」
「無視するな!! ぶっ飛ばすぞ!!」
ピーは何も言わず、集落に張っている糸を回収する。その無言の行動がイノシシ(ギンとイーロ)に火を注ぐことになり、味方同士の潰しあいに発展しそうになところでグリが止めに入る。
「やめなさい。ピーあなたも少しは返事ぐらい返しなさい」
グリの言葉に不満なイノシシ(ギンとイーロ)と、何も示さない感情を失った人形ピー。この問題だらけの少女達の中、参謀でストッパー役のグリは辺獄に堕ちてから何度目かわからないため息をついた。
同じ教王の実験体として、何度も暗殺や破壊工作と汚い仕事をしてきた仲間でもある。しかし、リーダーであり一番力のあるアガは自由気ままで何もしようとしないため、必然手的にグリがまとめ役になるが、一度もチームとして機能したことはない。
隣国の要人を誘拐した際、護衛が邪魔だとイーロの巨大な火球ファイヤボールが要人事黒焦げにしてしまった事もある。
敵国の機密情報を入手するため隠密行動をしていたが、酒臭い敵司令官の色気を使った作戦ハニートラップでは、酒の臭いと頭や胸を触る司令官に我慢できずギンが魔法で半殺しにして騒動を起こしてしまった。
さらには、仲の良い家族がターゲットとなると憎悪と怒りにかられたピーが皆殺しにしてしまい、任務を果たせない時もあった。
ひたすら破壊とせん滅を繰り返し、ガエルの小言を何度も聞く羽目になったグリはそのストレスの矛先を魔法が使える平民やエルフ達の首を落とすことで発散していた。
「ぐげぇ、ぇぇ…」
「本当、首を落としたはずなのになんで生き返るのかしら?」
首を落としたはずのエルフが、元の姿に戻り生き返る。グリが不思議に思いながらも、次々と生き返るエルフ達の首を落とす。未だに自分たちが地獄に堕ちたことに気づいておらず、彼女たちはひたすら種族を問わず食料の略奪と虐殺を楽しんでいた。
「いいわねここ♪ 何度殺せて、また新記録更新ができる~~♪」
グリ達と離れた別の集落でアガは虐殺を楽しみながら食料の強奪をしていた。
何度も生き返るこの世界で、殺しては再生するまで待ちそしてまた殺してを繰り返し虐殺した数は既に百は超えていた。
「やめろぉ…やめてくれぇ…俺たちの畑を、荒らさないでくれ…」
アガに武器を持って立ち向かった農夫らが血だらけになりながらもアガの背後にある畑を守るため必死に訴えた。
「うわぁ…野菜ばっかじゃん…ちっ」
アガは農夫たちが汗水流し育てた野菜たちを見てがっかりした表情を浮かべ舌打ちをした。
「それがないと、俺たちは…飢えてしまうんだぁ…」
「せっかく、ここまで育ったんだ…」
「たのむ…」
一度殺されてもなお畑の野菜たちのために涙を流す。緑少ない辺獄の環境で必死育てた野菜は彼らにとっては子供同然だった。
「ふ~ん、これそんなに大事なんだぁ…いいよ、私野菜嫌いだから」
アガはそう言うと集落から出て行った。赤い髪の悪魔が立ち去り、農夫たちは安堵の息をこぼし隠れていた家族たちが姿を現した。
魔法を使う襲撃者から皆の生命線である畑と野菜を守った父や夫に駆け寄り、妻や子供たちは喜びを分かち合う。
「あなたぁ…」
「お父さん…」
「大丈夫だ…俺たちの畑は無事だぞ…さぁ、早く収穫を…」
体が再生して立てるようになるが、次の瞬間巨大な火の玉が集落を包み焦土と化した。
「私、野菜って大っっっきらいだから、い~らない!!」
野菜が嫌いだからと言う子供じみた理由で建物も畑も全て燃やしつくしアガは立ち去った。地獄ではあらゆる生き物は生き返る。だが、食べ物や水は消えれば元に戻らない。
次に農夫らが生き返ったとしても畑も野菜の種も全て失った彼らに待っているのは飢えと絶望しかなかった。
「あっははは!!!!! 最っ高!! いっぱい殺せて飽きないなんて!! とても天国だわここは!!」
狂った笑い声をあげるアガ。そんな彼女を紅蓮の瞳を持つジャンヌは怒りに満ちた表情で見つめていた。
「なんと愚かな…人はここまで堕ちることができるなんて…」
ジャンヌはそう呟き、親友の魔力を奪った堕ちたシスター達に向けついに椅子から立ち上がった。
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