4 それぞれの絶望地獄 暴虐のシスター
第11話 それぞれの絶望地獄 1 奪われた魔力、暴虐のシスターたち
ドワーフ解放後も闘いは激しく続いた。戦地キャンプの中、金髪に緑の瞳を持ったシスター服を着た少女が、戦場で傷ついた兵士たちの傷を魔法で癒し続けた。
「シーマ様ぁぁ!!」
「ありがとう、ございますぅ!!」
回復魔法が得意な教会の少女シーマは笑みを額に汗をかきながら癒しの魔法を使い続けた。普通の人間であれば腕一本の骨折を治すだけで魔力を使い果たす。しかし、生まれ持った膨大な魔力を持ち、シーマの才能は魔法に長けたエルフに匹敵していた。
そのため彼女は全身の骨折から、ちぎれかけた手足を元に戻すことができる。
両親や教会からも期待されたシーマは、期待に応えるべく兵士たちの傷を癒し続けた。
「はぁはぁ…」
魔力をだいぶ使い疲労が溜まり、足元がふらつく。
「きゃっ!!」
「ご、ごめんなさい、だいじょうぶ?」
純白の衣を着たジャンヌとぶつかり尻もちをつくシーマ。ジャンヌは白い杖を地面に突き刺して手を差し伸べると、ジーマは慌てて立ち上がり目の前に神に選ばれた高貴な少女がいて緊張していた。
「せ、せいじょさまっ!! 申し訳ありません!! お怪我はありませんか!?」
「大丈夫よ、それよりあなた、だいぶ疲れてるみたいだけど大丈夫?」
ジャンヌはシーマの疲れている顔を見て心配していた。回復魔法を使える者は希少であちこちに引っ張られて多忙を強いていた。中には兵士たちの無残な姿をみてその場で吐き精神を病んで、自殺する者が続き助けられる命が救えない状態が続いた。
「だい、じょうぶ、です…なんとか…」
そのまま無理をして歩くシーマを止めジャンヌは彼女を自分のテントに入れた。
聖女と崇められているジャンヌのテントは兵士たちの集団で使っているテントと違い広くて快適だった。中には食べ物や水が置かれシーマに分け与えた。
「あ、ありがとうございます…聖女様に恵んでいただき…」
「いいのよ、それと私の名前は聖女じゃなくて、ジャンヌよ」
「はぁ、はぁぁ…」
ジャンヌは緊張しているシーマに向け白い杖を軽く振る。すると、消耗していた体力が回復しまるで熟睡した後のように体が快適になった。
「え? あ、あの…」
「驚かせてごめんなさい、これは魔法の杖で…他の人には内緒ね?」
初めは遠慮していたシーマはその後もジャンヌと共に戦場で合い、しだいに互いに名前で呼び合う中になった。同年代の少女どうし戦場の僅かな時間に語り合い絆を深め、ジャンヌが兵を率いて戦場を駆け、シーマが傷ついた兵隊を癒し続ける毎日。
シーマはジャンヌと共にいた事から「第二の聖女」と呼ばれるようになり、教会の力が増してシーマの名は次第に人々の間で高まった。だがシーマ本人は名誉など気にしておらずただジャンヌのそばで役に立てれば良かった。
「どうか、この人と共にずっと一緒に…」
シーマは神に祈り続け、やがて戦争が終わり平和の時代が来た。だが、シーマにとっては地獄の始まりでしかなかった。
「嘘ですっ!! ジャンヌが謀反を企てているなんて、信じられません!!」
ジャンヌが国王であるブオウと聖女の座を奪ったヘルにより無実の罪で投獄された。
シーマはすぐにジャンヌの無実を訴え続けたがその声は自身が信用していた教会に裏切りられた。
「教王様!! なぜ、ジャンヌを助けようとしないのです!? 暗黒時代から人々を救った彼女がなぜ、投獄されなければならないのですか!?」
「シーマ、言葉を慎みなさい。これは、神が決めた事なのです。彼女はもはや我々の知る聖女ではない。あきらめなさい」
直属の上司で最高権力者である教王は教会の体裁のため何もせず、信用していた親や同じ教会にいる学友たちにも声をかけるが、彼女たちは皆ジャンヌを助けようとしない。
それどころか「ジャンヌを助ければあなたの立場が悪くなる」「今、聖女はあなただけよ、あの悪魔のことは忘れないさい」と第二の聖女であるシーマの立場しか考えていない。
もはや皆、「第二の聖女と同じ学び舎にいた」「シーマを育てた自分達親族は貴族の地位を手に入れて快適に暮らせる」「あの落ちた女でなくシーマこそ本物の聖女だ」と、シーマを利用する事しか考えてなかった。
「なんで、こんな…」
周りからどう言われ止められようが孤独にジャンヌの無実を訴え続けたシーマ。教王は言うことを聞かないシーマ(教会のシンボル)に業を煮やして、シーマを牢屋へ投獄してしまった
「教王様! 何をされるんですかぁ!!」
「おまえが悪いのだよシーマ。ただ、信者どもを引き付ける教会のシンボルになっていれば、死ぬことはなかったろうに…」
教王であるガエルが手にしている白い杖を掲げ、杖を見たシーマは叫んだ。
「それはジャンヌの杖!? 教王様っ!! それをどうしてっ!!」
「これから地獄へ堕ちる貴様に応える必要などない」
白い杖から邪悪な光が生まれシーマを包んだ。体から力が抜け牢屋の硬い床に倒れ、シーマはすべての魔力が抜かれてしまった。教王は牢屋を開け、そばにいたひ弱そうなシスター服の少女を連れて入る。
「きょ、うおう、さま…きゃぁ!!」
教王はファイヤボールをシーマに放ち、火の玉が体と服を焦がした。
「ほれ、やってみろ」
「は、はい…」
白い杖から光を受けた少女がシーマに向ける。すると、シーマの傷が治っていく。
「ふむ、さすがあの女がもっていた魔法道具マジックアイテム他人の魔力を奪い分け与えることができるのか…」
教王の持つ杖は魔法の杖で、ジャンヌが神から授かった物の一つだった。
頭で思った場所に転移する転移玉、持つ者にあらゆる術を与える魔法の杖、着ていればあらゆる攻撃や病からも身を守る純白の衣。
ジャンヌを陥れるのに協力した者同士がそれぞれ分け与えていた。魔力を抜かれたシーマはその後も杖の実験でボロボロになっていく。
「ぐぇぇ、きょ、うおう、さま…」
「大丈夫だ、すぐには殺さん。お前の魔力がどのくらいの人数に分けれるか確認しないとならないからな。おい」
「はい」
そばに控えていたピンク髪のシスター少女がシーマに向け魔法で攻撃する。魔力を無くしたシーマには逃れる術はなく、的にされ傷を癒されていく内に教王から奪われた魔力を与えられた少女が日に日に増えていく。
「はぁ、聖女さまもずいぶん汚れてんなぁ!!」
「そぉら、お顔を綺麗にしてさしあげますわよ、せ、い、じょ、さま~~」
シーマに妬みを持つ少女達が大量に水の魔法をシーマにぶつけた。シーマの魔力は本来なら回復魔法しかないのだが、教王が杖の力で彼女たちに攻撃魔法ができるように改造したため、シーマはひたすら的にされる。
「げほぉ!! やべぇ、でぇ…」
「あぁ、聞こえねぇよ!! クソがぁ!!」
「聖女だからって、調子のんなよ!!」
「あんたのせいで、私らが目立たないんだよ!!」
魔法だけでなく殴る蹴るなど暴行を加える少女達。彼女たちは親や周りからシーマと比較されて「お前はなんで聖女じゃないんだ」「聖女様を見習え」と言われ続け、そのストレスを発散していた。
(ジャンヌ…今、あなたはとても苦しんでいるんですね…私のこの苦痛より何倍も…)
誰も助けてくれず魔法と嫉妬のリンチに合いながらも、シーマは死ぬその時までジャンヌのことを思い続けた。教王による非道な実験で体も心がボロボロになり、獣のような悲鳴をあげようが、女としての尊厳を汚されてもひたすらジャンヌのことを思い続けた。
そのおかげでシーマは天国へ上り、今は生前の苦しみを忘れ教会の礼拝堂で祈りを上げている。そして、ジャンヌとの記憶も失っていた。
「シーマ…シーマ…」
紅蓮の瞳に映る生前の親友の過去を見て、ジャンヌはひたすら悔し涙が流れた。唯一、心から許せた友が自分のせいで外道たちに好き勝手された怒りが彼女の中で広がり、地獄全体が揺れた。
地獄の主であるジャンヌの心と連動して、地獄の生き物や無機物たちが怒りに震えている。
そして、ジャンヌの怒りの矛先は親友の魔力を奪い貪った堕落したシスターたちに向けられる。
△
「たくっ、なんなのよここはぁ…?」
「空気も汚いし、あぁ~あの村、魔法で吹き飛ばそうか?」
「やめなさい、魔力の無駄でしょう」
銀髪で男まさりな少女ギンが地獄の風景に眉をひそめた。他にも、黄色髪で近くにある村に向け魔法を放とうと考える物騒な少女イーロ。そして、イーロに魔力の無駄だと咎めた知的な眼鏡をかけた緑髪のグリ。
彼女たちは教王の実験で魔力を手に入れシーマを魔法の的にしていたシスター達だった。
他にも、一番初めにシーマを攻撃したピンク髪で感情のないピー、そして長い赤髪を持ち清楚な雰囲気を持つ少女アガ。
「けど、うるさい教王…あのくそおやじがいないなら、好きにしましょうか」
シスターとは思えない口の悪さを出したアガが先頭を歩き5人が村に入る。
地獄の中で比較的安全な辺獄。見知らぬ場所で必死に作物を育て、家を建てて苦労して作られた村は数秒後、廃墟となった。
「おらおらぁ!! 魔法って本当に最高だなぁ!!」
「あっはは、ほらぁ~~逃げないと消し炭になるよぉ~~?」
ギンから放たれた風の刃、ウインドカッターが女子供の体を引き裂き、イーロが逃げ惑う人々の背後からファイヤボールを放ち、焼かれながら人々が倒れていく。
「食料があれば、他はどうでもいいわ。それにしても、ここは一体どこでしょうか?」
食料庫に蓄えられた食料を見ながらミドリはつぶやいた。
紅蓮に染まった空に、魔法でこれまで撃退した白く全裸の人間達。
まったく未知の世界だが、ミドリ達にとっては都合が良い。彼女たちに魔力を与えた教王であるガエルに要人の暗殺や近国に襲撃など荒事ばかりさせられていた。拒否すれば魔力を奪われるため、彼女たちは渋々従うしかなかった。
「や、やめてぇ…この子だけは…私たちはどうなってもいいからぁぁぁ!!!!!」
一組の家族の前にピーは立ちふさがる。必死に命ごいをして、手に抱く我が子を守るため両親が前に出る。ピーはかざしていた手を下ろし、親子は安堵の息を吐くが
「しね」
雷撃が親子を一瞬で黒焦げにしてしまった。突然の魔法が使えるシスターたちの襲撃に村を捨てて逃げる者がいるが、高い見張り台に上ったアガが水や火、風、雷撃など様々な魔法で、逃げるに人々を遠距離狙撃で殺害していく。
「ぐぇぇぇぇ!!!!!」
「やめてくれぇぇ!!!!!」
「くそぉ!! 魔法使いがなんでぇぇぇ、ぐぇぇぇぇぇ!!!!!」
「34…35!! まだ、いるわねぇ…それっ!! 新記録...んぅ? なんで心臓を貫いたのに動けるの?」
魔法による殺害の新記録を超えようと躍起になるアガ。途中で生き返った人々を見て手を止めるが、すぐに攻撃を開始した。
「44、45...いいわねぇ!! 何度でも殺し放題だなんて、ここは天国だわぁ!!」
アガの笑みが狂気に染まり、無力な村人たちは何度も死と生を繰り返しやがて動かなくなった。静まり帰ったところで5人は食糧庫で村人たちが血と汗を込めて育てた果実を貪った。
「んでぇ、くちゃ、ここどこだぁ? くちゃ グリ?」
「ギン、食べたまま話すのやめなさい…さぁ、わからないわよ」
「まぁ、いいじゃん!! ここなら魔法打ち放題だし!! いっぱい、ぶっ飛ばそう!!」
小柄な体でぴょんぴょん跳ねるイーロはひたすら魔法で暴れたたいと体で表現した。
シーマの魔力を奪い改造され外道に堕ちたシスター達。既に、地獄の主に目をつけられブオウやジンバイ以上の苦しみや絶望が決定していことに自分たちの体で知ることになる。
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