3 敗北地獄へ堕ちた闘士
第9話 敗北地獄へ堕ちた闘士 1 無視される最後の忠告
「ザドジ!! 無謀に前に出るのはやめなさいと、あれほど!!」
「敵がいたから、つぶした。仕方ないだろ?」
拠点キャンプにて白い聖衣を着たジャンヌは、巨体の傭兵ドワーフ、ザドジに声を上げた。
「戦はむやみに戦えばいいのではありません!! 無用な闘いは味方も自分も傷つき最後にはすべてを失うのですよ!!」
激戦の中ジャンヌ率いる兵団はドワーフ達の保護のために、鉱山を占めている武装国家と戦っていた。国の中ではドワーフ達は武器製造の使い捨てにされ苦しんでいる。
逃げ出したドワーフ達の話を聞いたジャンヌはすぐさま、武装国家に対してドワーフ達の解放を訴え続けたが、返事は大砲からの砲撃の嵐だった。
交渉による道が途絶えジャンヌは兵を集めた。ドワーフの傭兵であるザドジを雇ったのだが彼の目的は同族の救済ではなかった。
「俺には闘いしかねぇんだよ…なんなら、ここで抜けていいんだぜ? 聖女さまよぉ?」
ザドジは軽い口調で答えるジャンヌの眉が歪む。血の気の多いドワーフの生まれであるザドジは金や女よりも闘いを求めていた。ジャンヌは悩んだがザドジは大きな戦力で彼が抜けてしまえば味方の犠牲が大きくなる。
「わかりました、次から気を付けてください...けれどこれだけは忘れないでください。無用な戦を続けていたら、味方だけでなく自分の全てを失うことを」
「はいはい」
ジャンヌはそのままザドジに背を向け、他の仲間たちと今後の作戦について話し合った。
数か月後、武装国家を疎ましく思っていた国と同盟を組み、ドワーフ達の協力でジャンヌ達は勝利した。のちに、「ドワーフの解放」と呼ばれるこの闘い。
あるドワーフがジャンヌの静止を無視して、敵国の人族たちを容赦なくなぶり殺した事実は伏せられた。
暗黒時代が終わり、平和な世界になって戦争がなくなりザドジは闘技場で闘い続けた。聖女ジャンヌに仕えた最強の傭兵の名のおかげで、他国の強豪たちと戦い毎日充実していた。
だが、急所攻撃や殺しができない闘技場の闘いは、命のやりとりをした戦場と比べるとお遊びでなくザドジは戦を求めた。そして、好都合なことにジャンヌがブオウとヘルにより裁判をかけられた。
ヘルの入れ知恵だが、裁判でジャンヌの印象を悪くするため戦争時代に敵を虐殺するよう命じたのはジャンヌであると証言した。ジャンヌが処刑された後、瘴気渦巻く世界で食料の奪い合いが起き、ザドジは最後まで戦いの中に身を投じてその人生を終えた。
「愚かな男…いや、そんな男を止められなかった私が一番の愚かだった…」
ジャンヌは何も考えず戦う猪の手綱を操れなかった自分に非があると反省して、指を軽く動かした。
無用な戦は、やがて全てを失う。
生前ザドジに何度も注意した言葉が書かれる。文字が消えジャンヌの紅蓮の瞳が巨大な闘技場を映した。
△
「あぁ、なんだここは?」
巨大な闘技場に、他の闘士たち混じりザドジが眉をひそめた。
「お、おい!! あれ見ろよ!!」
闘士の誰かが空を指差しザドジが見上げる。血のような紅蓮の空に白い文字で、
無用な戦は、やがて全てを失う。と書かれていた。
「なっ? あの女っ!?」
ザドジはすぐさまジャンヌだと気づいた。戦争時に敵を虐殺して楽しんでいたらいつもジャンヌが注意していたから分かった。だが、処刑された彼女がどうして? とお気に入りのハンマーを取り出し警戒する。
「ひやぁぁぁ!!!!!」
「お、おい? あれ、もしかして人か?」
闘技場の高い壁の上に設置された観客席に萎れたミイラが座っていた。
「「…たく、ない…」」
「「たた、かい…」」
「「たく、ない…」」
ミイラたちは僅かに体を動かすが席から動かない。いや、ミイラたちは席から一生動くことができないのだった。
「「かえせ…」」
「「おれの…を…」」
「「かえし、てぇ…」」
ミイラたちの声の一斉の声に闘士たちがおじげつく。
そして、ザドジ達のそばにある巨大な門が開き武器を持った白裸体の人間たちが迫る。
「はぁ!! ずいぶんと貧相な奴らだなっ!!」
ザドジはハンマーを振り上げ人間を押しつぶした。他の闘士たちもザドジに続き、手持ちの武器で正体不明の人間たちの頭を仕留めていく。闘士は本来なら頭部を狙うのは禁止されているが、彼らはザドジにあこがれ勝つためなら手段を選ばなくなった評判の悪い闘士たちだった。
「ザドジさん、あっちの方に門がっ!!」
「なにか書いてますっ!!」
「あぁ!? くそっ!! 馬鹿にしやがって!!」
白い人間たちが入ってきた門とは別にもう一つ開いた門があった。
門には「愚か者への最後の逃げ道」「武器を捨て逃げろ」と刻まれていた。
ジャンヌのせめてもの情けだが、それがザドジのプライドを刺激してしまう。
「だれがっ敗者だっ!! 舐めやがって!!」
ザドジが叫ぶと次の対戦相手が来た。白い巨大で斧を持った人間が地面を揺らし門をくぐる。
「ひぃ!? きょ、巨人?」
「びびんなよっ! おらぁ!!」
巨人の斧とザドジのハンマーがぶつかる。強力な金属音を鳴らし、互いの武器が火花を吹いた。
(これだぁ、この感触!! ここは、俺にとって天国だぁ!!)
既に地獄に堕ちているザドジは興奮して、巨人を押し返した。
「おらあぁぁ!!!!!!」
倒れた巨人の顔を潰し、ザドジに続き他の闘士たちが巨人に群がる。
「さ、さすがザドジさん!!」
「こんな、巨人をあっさりと」
巨人を倒し闘士たちはザドジを褒めた。この男についていけばうまくいく。俺たちは無敵だと
そう思ったのもつかの間、闘士たちの体に異変が起きる。
「はぁ、はぁ…な、なんだ? 体に、力がはいらねぇ…」
「武器が重い…」
巨人を倒した後、闘士たちが疲れたのか膝をつく。ザドジも疲労感で膝をつき、額の汗をぬぐった時、ザドジの手の平がしわだらけになっていた。
「なっ!! なんだ、これは!?」
ザドジだけじゃない、闘士たちの顔は10歳以上ふやけて、髪の色が白くなっている者もいた。突如、起きた自分達の体の異変。だが次の対戦相手が姿を現し、弱った体で武器を持ち戦う。
ザドジがハンマーを振るい敵を薙ぎ払うたびに、体中から力が抜けていく。
闘士らも白人間に止めを刺した時足腰の筋肉が衰え立てなくなり、武器が重く感じて捨ててしまう者もいた。
白い人間達の正体は亡者だった。この闘技場の亡者は孤児院にいた亡者とは違い、戦う者の若さを吸ってしまう能力があった。
何も知らず連戦を続けたザドジらの顔は完全に老けており、髪の毛が抜け立てない者もいた。
ここは、敗北地獄。
闘争本能のまま生きる者達が、闘いを捨てない限り全てを失ってしまう地獄。
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