第30話 当日

『上手く行ったな!』


『ええ、チョロかったわね』


『後は金や宝石の受け取りだな』


『だね。それについては・・・』


 閉じられた扉の向こうから、薄っすらと光と音が漏れる窓のない暗い部屋。そんな場所に私達4人は足と手を縛られた状態で横たわっていました。

 ご丁寧に口も布で塞がれていたので、私達は会話を交わす事も出来ませんでした。


「ん~っ!んんん!んん!」


「んんっ!んっ!んんん!」


「んん・・・、んんんん・・・」


 しかし何かしゃべらずにはいられなかったのか、赤・黄・青の3人娘は何かを喋っていました。・・・まったくもって何を言っているのかは解りませんでしたが。


(ふぅ・・・しかし大変な事になりましたわね・・・)


 私は1人静かにこんな事になった経緯を思い出します。


 そもそもは今日の朝・・・


 ・

 ・

 ・


「お嬢様・・・忘れ物はございませんか?あ・・・少しお召し物が乱れております。そう言えばイイ物があるのですがこちらをお持ちになって・・・」


「ノワール・・・大丈夫ですわよ。忘れ物もないし服の乱れもパッと直せる程度ですわ」


 マルシアのトリム家の領地にある街へ遊びに行く当日の朝、私は馬車の前でノワールに捕まっていました。


「しかしやはり心配で・・・あ、こちらだけはお持ちくださると・・・」


「はいはい、解りましたわ」


 昨日の夜によく言い聞かせたので大丈夫かと思ったのですが、出発直前になりノワールは再び心配になってきたらしく、今生の別れか!?とばかりに私へと食らいついてきました。


「ノワールさん、大丈夫ですよ・・・?」


「そうですとも、我らにお任せください。お嬢様に苦労はさせませんから」


 ノワールが私から離れずに話が進まないからか、本日付いて来る使用人と護衛の方でしょうか、2人の女性が話しかけてきました。

 するとノワールは私に断ってからその2人の方へと近づき・・・


「そんな事は当たり前でございますよ・・・?」


 と口調は静かでしたが、顔をズズイと近づけてメンチを切っていました。


「貴女方の仕事はお嬢様に苦労をさせないことを前提に、お嬢様の行動を事前に予測してその・・・・・・・」


「は・・・はい・・・」


「はぁ・・・はい・・・」


 ノワールはメンチを切った後、お嬢様の使用人とは何たるかと持論を新人2人に話し始めましたが、これをずっと続けていると私は出発出来ません。

 なので私はノワールに捕まっている2人を、強引に馬車の方へと押し込むことにしました。


「ノワール、そろそろ私達は出ますから、後は帰って来てから教えてあげなさいな。ほら2人共、行きますわよ」


「はい!行きましょうお嬢様!」


「行きましょう行きましょう!」


「あっ・・・お嬢様!」


 私は馬車へと2人を押し込み御者の男性に出発する様に声をかけた後、窓を開けてそこからノワールに声を掛けました。

 すると恨めしそうな声でしたが「行ってらっしゃいませ」とちゃんと挨拶をしてくれたので、私は手を振った後に窓を閉めて馬車の座席へと腰を深く降ろします。


「ふぅ・・・やれやれですわ・・・」


「ノワールさん、お嬢様の事が好きすぎですね・・・」


 私がようやく出発できたと胸を撫で下ろしていると、使用人の女性が少し引き気味にそんな事を言ってきました。


「まぁそうですわね・・・。ですけど、好かれている本人としては悪い気はしませんのよ?」


「は・・・はぁ・・・」


 使用人は少し返事に困った様な様子になり、微妙な感じで相槌を打ちます。ちょっと惚気っぽかったかしらと反省をしつつ、話題を変えて話しかけてみます。


「そう言えば貴女達、今回の私のお供は試験ですって?あ、名前は何というのかしら?」


「そうですね、ですのでよろしくお願いいたします。あ、私はレッ・・・レイラと申します」


「私はイニエラと申します」


 赤い髪でスラッとした使用人がレイラ、黄色い髪でガッチリした体型をした護衛がイニエラだそうですが・・・


「レイラとイニエラですの・・・貴女達って割と前から家にいらっしゃるの?」


 私は以前にも見たことがある様な2人にそう尋ねます。


「私は3日前位にカークラット家の紹介でオーウェルス家へと来させていただきましたね」


「私も同じくです」


「そうですの・・・?」


 2人はそう言いましたが、どうも私の記憶に引っかかるのです。なので少し思い出す様に考えてみるのですが・・・


(イマイチ思い当たりませんわね・・・。あ、もしかして転生前の記憶の方かしら?)


 私はロマンスで登場したキャラクターかしら?とそっちの方向で思い出してみますが・・・どうも思い出せません。という事はモブキャラでしょうか・・・?

 改めて2人の事をジッと見て、そう言えばいた気がするなぁ・・・という気がしてきました。


(ロマンスでも何らかの試験に受かって採用、それでモブとして登場したって感じかしら?)


 本来のロマンスでは私がトリム家の領地街へ遊びに行く事もなかったでしょうから、ロマンスでは別の試験にて受かったモブ使用人でしょう、私がそう考えていると、馬車の動きが止まった気がしました。


「あら・・・?」


「あ、着いたみたいです」


「・・・思ったより早かったですわね!」


 実際に馬車に乗っていた時間は30分足らず、それで目的地へ着くとは、交通の便だけならば現代日本以上といった感じです。


「オーウェルス家の力ですよお嬢様。平民や下級の貴族ですと流石にもっと時間がかかります」


「ああ・・・成程ですわ」


 現代日本でもそうですが、便利は金と権力で買えるという事ですね。

 思わずファンタジーでも現実を知ってしまいましたが深くは考えないことにして、目的地へ到着したのなら馬車を降りる事にします。


「さぁ、降りますわよ」


「「はい」」


 普通ですと、目的地へ到着したと同時に使用人や護衛は行動を開始し、私が何かを言う間でもなく察して先回りして動いて行くのですが・・・


(ん~・・・)


 一応新人だからと『降りる』と声をかけてアピールをして行動を促したわけですが、その後の行動が2人はイマイチでした。

 2人は降りると私が言った後直ぐに行動したのは良いのですが、馬車を降りた後トリム家の屋敷の方を見ていました。

 普通だとここで私に手を貸して馬車の乗り降りのエスコートをするのですが、2人はそれをしなかったのです。


(行きがあんな感じだから大丈夫だと思ったのかしら・・・?)


 ここはマイナス点ですわね、と心の中でメモをしつつ、私はひょいっと軽やかに馬車を降ります。


「一応聞いておきますが、馬車に忘れ物はありませんわね?」


「あ、はい。大丈夫です」


「・・・はい、大丈夫でした」


「よろしい、ではついていらっしゃい」


「「はい」」


 ポカをしまくるとフォローも出来なくなるため2人へと確認をすると、案内に出てきていたトリム家の使用人へと挨拶をして移動を開始します。


 オーウェルス家程ではないもののそこそこ広いトリム家の屋敷を5分程歩くと、目的地へ到着したのか案内人が立ち止まりました。


「こちらの部屋にてマルシア様、サマンサ様、シーラ様がお待ちでございます」


「ええ、案内ご苦労様ですわ」


 案内人が扉を開けてくれたので部屋の中へと入ると、すでに3人が揃っていてお茶を飲みながら何かを話していました。

 私は3人に近づきながら声を掛けます。


「皆様、御機嫌よう。お待たせいたしましたわ」


「あ、マシェリー様、御機嫌よう。全然待っておりませんよ!」


「お姉様御機嫌よう。私も今来たところです!」


「うふふ・・・御機嫌ようマシェリー様・・・。私もついさっき来たばっかりです・・・」


 3人と挨拶を交わすと、「取りあえずお茶でも一杯飲んでから出かけますか?」と聞かれますが、私はそれに対して首を横に振ります。


 何故ですって?だってどうせなら外でお茶を飲みたいじゃないですか!


 それを3人に言うと、「確かに!」と4人の心は1つになり、早速街へ繰り出す事になりました。

 普段なら馬車を使う所なのですが、今日はゆっくり街を散策しながら遊ぼうとなり、私達は少数の使用人を引き連れて街の方へと歩いて行きます。


「そういえば皆様、今日は何時も連れている使用人達ではない様ですが・・・どうしたんですの?」


 私は歩きながらの雑談として、気になった事を話題にしてみます。


「あー・・・どうも父がマシェリー様の家の事を聞いたみたいで・・・何やらこちらも併せて新しい人を試すとか・・・」


「私の所もですお姉様」


「うふふ・・・私の所もです・・・」


「あー・・・そうですの・・・ごめんなさいですわ」


 私が悪いわけではないのですが、何となく謝っておくことにします。

 どうもそれぞれの家の父親同士が話題作りの為か、私の家に合わせて新しい使用人を雇ったみたいでした。

 貴族ゆえか使用人はステータス的な考えでもしているのでしょうか?不思議な考えだなぁと思いつつ私が歩いていると、その新しい使用人が私に耳打ちしてきます。


「お嬢様・・・実は私、今回の為に隠れ家的なお店をいくつかチェックしてきております」


「へぇ・・・」


「よろしかったらどうでしょうか・・・?」


「そうですわね・・・」


 ポイント稼ぎの為に調べて来たのでしょう、レイラがそんな事を提案してきました。

 私は少し考えましたが、これがもし当たりの店を引き当てていたならお父様へとアピールポイントとして報告してあげられる、そう思い提案を受けてみる事にしました。


「いいですわ、案内してくださる?」


「お任せください!」


 その様子が気になったのか、3人の令嬢達が話に加わってきます。


「どうしたんですかお姉様?」


「実は私の使用人が隠れ家的なお店を知っているらしいのです」


「へぇ・・・私も自分の家の街とはいえそこまで詳しくないですからね、ちょっと期待です」


「うふふ・・・そういう店って当たり外れがありますから、ちょっとワクワクしますね・・・」


「それ解りますわ!だからこそ案内をしてもらおうと思ったのですわ!」


「うふふ・・・流石マシェリー様・・・解っていらっしゃる・・・」


「お姉様!私も解りますよ!」


 私達は雑談を続けながらレイラの案内に従い街を進みます。

 そうしてしばらく歩くと、何やら雰囲気があるお店へと辿り着きました。


「ここですお嬢様方」


「「「「おぉ~・・・っぽいっぽい!」」」」


 私達は声を揃えて頷き、4人が4人とも「これは期待できるかも」と思いながら店の中へと入って行きました。


「いらっしゃいませ・・・どうぞ開いているお席へ・・・」


 店の中へと入ると結構渋めの店主がお出迎えをしてくれ、年上好きのシーラはそれだけで評価が高そうな感じでした。

 私達は「うふふ・・・」と怪しい目つきでほほ笑むシーラの背中を押し、外観からでは想像できなかった綺麗なテーブル席へと座ります。


「レイラ、貴女達もそちらに座って好きなモノを頼みなさいな。流石にずっと立たせておくのもあれですわ」


「ありがとうございますお嬢様」


 使用人達の採用試験でもありますが、流石にこの様な店内で色々してもらうのも違うかなと思いそう指示を出すと、私達は早速メニューを確認して飲み物と軽くつまめる物を注文します。


「お待ち堂様・・・」


 注文してそこまで待つこともなく商品が出され、中々当たりではないですか?等と会話をしながら私達は飲み物を飲んだり、軽食をつまんだりします。



 やがて私達は・・・意識を失っていました。



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。 

 「面白い」「続きが読みたい」「おっとぉ・・・?」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると ・・・


 マシェリーの一口メモ

 【貴族とは面倒な生き物故に貴族マナー等が色々あるのですわ。着替え然り馬車の乗り降り然り。自分で出来たとしても人に任す事が多いのですわ。】

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