第20話 赤の魔王『フレッドバーン・レッド・ブラッド』
会場の全員が「え!?」となっていたところに、扉が開く音、ついで足音が聞こえました。
その音に、全員がバッと階段の上に視線を向けます。
そこに居たのは・・・『赤』でした。
赤く燃える火がそのまま髪や瞳に宿った様な『赤』。
お母様やマルシアも赤色の髪や瞳をしていますが、その『赤』と比べると、赤っぽい色?と言ってしまいそうになる、それほどまでに本能すら認めてしまうような『赤』でした。
皆様同様に私も動けずに固まっていたのですが、私の心の中ではこんな思いも浮かんでおりました。
(うわぁ、生で見ると凄いですわね!ゲームの表現と段違いですわ!)
私の心の中では『ただのロマンスファン』が顔を見せていました。
それもその筈、魔王とはロマンスをプレイした者が絶対に関わる、云わばメインキャラクターです。
時に戦い、時に共闘し、時に愛を育む・・・最後のは早乙女玲としてはちょっとあれですが、魔王はもう一人の主人公と言っても差し支えないキャラクターなのです。
しかもあの方、赤の魔王は、プレイヤーが恐らく一度は攻略するキャラクターで、
(赤は一番攻略もしやすいし、ユニットとしての能力も火力が高くて使いやすい、正に相棒でしたわ・・・)
私は時に火力として、時に肉壁として使っていた相棒の事を思い出し、懐かしむ目で赤の魔王を見ていたのですが、それに気付いたのか赤の魔王と視線が合った気がしました。
(不味いですわ・・・)
私は不自然にならない様に目線をそらしますが、赤の魔王は階段の上からずんずんと階段を降り、私のいる方向へと歩いてきました。
(ゲームでは良かったのですが、ここは現実。故に不用意に接触すると・・・)
私の頭の中には『死』という文字が浮かんできましたが、それはどうも私の周りにいる人にも言える事の様でした。
カタカタと音が聞こえたので無意識にそちらを見てしまうと、顔面蒼白になったお父様が居ました。
クロスブレー侯爵の方もチラリと見ると一見何もなさそうでしたが、よく見ると体が強張り緊張しているのが解りました。
(現実の赤の魔王はヤバい奴ですの・・・!?)
現実の赤の魔王の事を私より知っている方々がこんな状態なのを見て、私は「マルシアの推しだからワンチャン来てくれたらいいですわね」とか思いながら招待状を送った事を後悔しました。
そんな事を考えている間に、赤の魔王は大分近くまで来ていました。
(あ・・・私終わりましたわ)
と思っていると、私と赤の魔王の間に1つの影がスッと入ってきました。
(ノワール!?)
その影・・・ノワールはそのまま私の前に立ち、赤の魔王と対峙しました。
「ノ・・・ノワール!」
いけませんわ!と、ノワールを下がらせようとしたその時、ノワールは何かを赤の魔王へと差し向けました。
武器!?そんな・・・無理ですわ!と、思わず駆け寄ろうとしたのですが、それは杞憂でした。
「赤の魔王様、こちらお飲み物でございます。赤ワインですがよろしかったですか?」
「あー、すまねえが酒はいい。水かお茶、ジュースはねえか?」
「畏まりました。オレンジジュースでよろしかったでしょうか?」
「ああ、それでいい」
「畏まりました」
そう言うとノワールは、素早くアイテムボックスから飲み物が入ったグラスを取り出し赤の魔王へと差し出しました。
「こちら厳選されたオレンジの、絞りたてジュースとなります」
「お、嬢ちゃん良い魔法もってるな。っと、ありがとな」
「・・・いえ」
ノワールは赤の魔王へと飲み物を差し出すと、私の方へ近寄り横へとつきました。
そのノワールに続くように赤の魔王も私の方へと近寄って来て、声をかけてきました。
「おう、招待してくれたようで悪いな。暇だから来させてもらったぜ。知っていると思うが俺の名はフレッドバーン・レッド・ブラッドだ。よろしくな、え~っと・・・」
「私はマシェリー・オーウェルスと申します赤の魔王フレッドバーン・レッド・ブラッド様。気軽にマシェリーと御呼びくださいませ」
「おう、よろしくなマシェリー。俺の事はそうだな・・・フレッドとでも呼んでくれ」
意外・・・意外でしょうか?赤の魔王フレッドは私にこんな風に声をかけてきました。
(良かったですわ・・・大体ゲームの通りじゃありませんの・・・)
私はゲームで接した性格通り、言葉遣いや礼儀にうるさくない頼れる兄貴系の男、フレッドに安心しました。
ロマンスでもイリスに対してこの様に最初からフレンドリーで攻略難度が低く、チョロバーンや我らがお助けヒーロー等と呼ばれていたものでした。
(でも何でそんなフレッドがここまで恐れられているんですの・・・?)
未だに固まっている周りの方々を見て考えていると、赤の魔王についての設定を1つ思い出しました。
(あー、そういえば・・・フレッドは女子供には比較的優しいけど、大人の男性やお母様みたいな女性にはあまり優しくないんでしたわね)
フレッドは本当に硬派な兄貴という感じの人物で、唯一つの難点を除いては魔王とは思えないような人物なのです。
なので私やノワールは比較的安全でこの様に会話を交わしたり出来るのですが、他の方となると危ないかもしれないので、呼んだ張本人としてどうにかする事にしました。
(となると、考えておいたプランで大丈夫そうですわね)
一応フレッドが来た時用に考えていたプランがあったのでそれを実行しようかなと思ったのですが、その前に一応あの方を紹介しておくべきかなと思い、私は会話を続けていたフレッドにあの方を紹介する事にしました。
「うふふ・・・フレッド様ったら・・・。あ、そうですわフレッド様、紹介したい方々がおりますの、よろしいですか?」
「うん?いいぜ?」
「ありがとうございますわ」
私はすぐ傍にいた方、グウェル殿下をまず紹介します。
「フレッド様、こちらファースタット王家のグウェル殿下ですわ」
いきなり赤の魔王に紹介されてグウェル殿下は驚いてこちらを見て来たので、私は注意点をそっと囁きます。
「な・・・成程。・・・マシェリー嬢より紹介に預かったグウェル・ファースタットです。よろしくお願いします赤の魔王様」
「ファースタット王家の人だったか、挨拶が遅れちまってすまねえな。赤の魔王を冠させてもらってるフレッドバーン・レッド・ブラッドだ。フレッドと呼んでくれたらいいぜ、よろしくな」
注意点である『過度に偉そうに振る舞わない事』を守ってくれたようで、グウェル殿下は無事にフレッドと交流する事に成功しました。
グウェル殿下もまだ幼いので大丈夫だとは思いましたが、念には念を入れると共に、こう接すれば大丈夫という事を教える為に言ったのですが、上手く行ったようです。
続いて私はグウェル殿下に断ってその場を離れ、ある人物の元へとフレッドを連れて行きます。
目当ての人物を見つけてそちらへと歩いて行くのですが、割れる割れる・・・それはまるでモーゼが海を割ったかのように人波が割れ、目的の人物まで一直線の道が出来ました。
「え・・・?え・・・?」
その人物・・・マルシアは「え?こっちにくる?なんで?」と言った表情をしていましたが、私は止まらずにマルシアの元へと辿り着きました。
「フレッド様、こちら私の友人マルシア・トリムですわ」
「おう、よろしくな。マルシアって呼んでもいいか?」
「よっ・・・よろしくおねがいします!まるしあ・とりむです!ぜひまるしあってよんでくだしゃい!」
フレッドにマルシアを紹介すると、マルシアは推しである赤の魔王に話しかけられてガチガチになっていました。
まぁこうなってもおかしくないですわよね、と思いつつも、私にはまだやる事がある為こう言います。
「実はフレッド様、こちらのマルシア様ですがフレッド様のファンですの。ですからお話し相手になってあげて下さらない?」
「ふぁっ!?」
「そうなのか、ありがとな。何話していいか解らんがいいぜ」
「ふぁっっ!!」
「ありがとうございますわ。あちらにテーブルとイスがありますので、良ければあちらでお話ししてあげてほしいですわ」
「おう、行こうぜマルシア」
「ふぁ!ふぁい!」
私はフレッドについてテーブルの方へと歩いて行こうとしたマルシアの肩を掴み「グッドラックですわ」と囁き華麗に去ります。
そして両親やグウェル殿下がいる階段近くへと戻ってきました。
(さてお次は・・・)
私は次にやろうと思った事を実行しようとある人物の前に行き話しかけます。
「少しよろしいでしょうかクロスブレー侯爵様」
「な・・・なんじゃマシェリー嬢」
「実はクロスブレー騎士団長様と一度でいいからお話ししたいと言う友人がおりまして・・・、よろしければ少しだけでもいいのでお話をしてあげてくださいませんか?」
その人物とはシーラの推しである、ファースタット騎士団第一軍団長バルディッシュ・フォン・クロスブレー侯爵です。
(赤の魔王に続き、来ないと思っていた騎士団長も来てくれたなら、あの子達に紹介しない手はないですわ!)
赤の魔王に招待状を送った後に、どうせならシーラの推しでもある騎士団長にもおくってみましょう、と招待状を送ったのですが、騎士団長からの返答は微妙な物でした。
赤の魔王からも返答がなかった為、『あの子達に推しを紹介するのは無理そうですわね』と思っていたのですが、来てくれたのならば話は別、たとえそれがグウェル殿下の護衛で来たとしてもチャンスは逃しません!
私は了承しろ!と目に力を込めていたのですが、たかが小娘の眼力が聞くはずもなく、騎士団長からは拒否されます。
「話してあげたいのは山々なんじゃが、儂は殿下から離れられん。すまぬな」
そうかなとは思っていましたが、やはりといった感じの返答でした。
しかしここで諦める私ではありません。
「ならグウェル殿下も伴ってなら如何ですの?」
「う・・・うぅむ・・・」
騎士団長はチラリとグウェル殿下を見たのですが、その表情からするに『否』という感じではなさそうでした。
ならば攻めるのは・・・
「グウェル殿下ぁ?」
「な・・・なんだっ!?」
「ちょっとあっちのテーブルで話しません事ぉ?」
「えっ・・・あ、その・・・」
「ちょっとあっちのテーブルで話しません事ぉ?」
「い・・・いや、僕は・・・」
「ちょっとあっちのテーブルで話しますわよね?」
「そ・・・そうだな・・・」
「という訳ですわクロスブレー騎士団長様、グウェル殿下はあちらのテーブルに行きますが、その時私の友人が居たら話してあげて下さる?」
「それならよいじゃろう。しかしマシェリー嬢は末恐ろしいの、一瞬今は亡き嫁の事を思い出したわ」
「おほほ、ありがとうございますわ。さぁ、行きますわよグウェル殿下」
「ああ・・・、好きにしてくれ・・・」
私はお父様とお母様に、「後は任せましたわ。私は殿下と魔王様の接待をしてまいります」と言ったのですが、お父様とお母様はまだ魔王ショックから抜け出せていなかったのか、返事に力がありませんでした。
しかし返事をしたという事は了解したという事なので、私はサッサとその場を移動します。
途中でシーラを拾い、先程と同じような紹介とやり取りを繰り返した後にテーブルへ向かい、そこで私達は腰を下ろしました。
「さてグウェル殿下」
「なんだマシェリー嬢」
椅子に座ってグウェル殿下に声をかけると、若干警戒した様な感じで返答をされましたが私は気にしません。
すぐ横にいる騎士団長とシーラの様子だけ確認すると、私は立ち上がりました。
「ちょっと席を外しますが、このままここでお待ちくださいまし」
「は・・・?」
いきなり何を言っているんだ?といった顔をグウェル殿下はしましたが、私がフレッドの方に目線をやると、「ああ」といって理解してくれた様でした。
「そうだな、僕は待つとしよう」
「ありがとうございますわ」
グウェル殿下も、流石に好んで魔王とやり取りはしたくなかったようで、近くに使用人に飲み物を頼み休憩する体勢を取っていました。
「それではまた後で・・・」
そういうと私はその場を離れ、フレッドの方へ様子を見に行きました。
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マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。本日2話目ですわ。
読んでくださってる方にお1つだけ・・・昨日は1日100PVいっておりましたわ。これも皆様のおかげですの・・・ありがとうございますわ!
「面白い」「続きが読みたい」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。
次回予告をいたしますわ! 次回!お茶会!?
☆や♡がもらえると 優雅にお茶が飲めますわ!
マシェリーの一口メモ
【以前より騎士団長と言っていましたが、正確には第一騎士団団長ですわ。他にも第二~第六までの騎士団団長や騎士団総長もいますが、一般的に騎士団長と言えばこの方!と言われるほどにクロスブレー侯爵が有名なのですわ。】
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