第16話 見えたモノは・・・

「え・・・えぇっと・・・『メニューオープン』」



 すると私の眼前に・・・何も現れませんでした。



「あら・・・?」


 メニューの開き方はこうではなかった様です。やり方を変えてリトライしてみます。


「『メニュー』『オープン』『オープンメニュー』『コンフィグ』『開けゴマ』・・・・・・・」


 色々試してみますが結果は変わらず、メニューは出てきませんでした。


「ん~・・・あると思ったけど無いのかしら?」


 さおとめれいからしたらここはゲーム(キリッ とか言っちゃいましたけど、唯の妄想・勘違いだったみたいです。

 それが解ると、途端に羞恥心がこみ上げてきました。


「はっ・・・恥ずかしいですわ・・・」


 顔も熱くなってきたので、両手を当てて顔を隠します。


「う・・・うぅ・・・何が『ゲーム(キリッ』『メニューオープン(どやぁ』ですか・・・私の馬鹿ぁ・・・」


 思い出すとさらに顔が熱くなってきました。

 いっそ誰か私を笑ってぇ・・・。そんな事を考えて俯いていると、手の隙間から見えた自分の脚に不思議なモノが映りました。


「・・・あら?・・・あら!これってまさか!」


 そこに見えたモノは、まさに私が見たかったものでした。・・・でしたが



 状態:普通

 強さ:弱い

 使用可能:全



「・・・え?これだけですの?」


 見えたと思ったメニュー・・・いえ、ステータスですか?それはとても簡素なモノでした。


「ロマンスではもっと普通のメニューでしたわよね・・・?切り替えたら増えるとかありませんの・・・?ああっ・・・」


 見えていたステータスの切り替えとかできないかと試そうと思い、触ろうと手を伸ばそうとするとそれは見えなくなってしまいました。


「消えちゃいましたわ・・・何でですの・・・」


 ・

 ・

 ・


 私はその後色々試し、結果またステータスを見る事に成功しました。


「指の隙間から見ながらメニューやステータス的な事を言えばよい・・・ですのね」


 見方は至極単純でしたが普通はやらないような動作なので、今回見えたのは運が良かったのかもしれません。


「しかし指の隙間から見る・・・ですか、まるで『狐の窓』みたいですわね」


 私は転生前の早乙女玲子供時代に流行った『狐の窓』という指組をして、部屋の向こうを覗きます。

『狐の窓』は怪談や噂話の類の物ですが、確か妖怪や人ならざる者が見えるという、日本のかなり古くから伝わっていた『まじない』の一種でもあるらしいのです。

 現代では話のネタの一種と化していましたが、実際に昔には何かあり、それが紆余曲折を得て伝わっていた・・・私はそんな風に考えてしまいました。


「火のない所に煙は立たぬ、ですわね・・・。しかし・・・」


(懐かしいですわ・・・ミカ姉様ともこうやって遊んでいた物ですわ。・・・え?)


 私は狐の窓の指組の隙間から部屋の中を見ていたのですが、そこに動くものを見てしまいました。


(え?え?ええ?)


 それは部屋の暗がりから金の瞳を輝かせ私を見ていました。


 唯々ジッと・・・


 私は闇の中から見つめて来るその瞳から目が離せなくなりました。


 そうして暫く見つめ合っていたのですが・・・動きがありました。


 闇の中の瞳が少しづつ・・・少しづつ・・・近寄って来たのです。


 それでも私の体は固まった様に動いてくれませんでした。


 やがて闇の中の瞳は魔道具の光がギリギリ届かない位置にまで到達し、そこで動きを止めました。



 その時・・・



『カタッ』



 私の背後で音が鳴り、私は一瞬気をそらしてしまいました。すると次の瞬間・・・




 指組の隙間には・・・瞳が映っていました。




「きゃぁぁぁああ!!」



 私は驚きのあまりのけぞって、椅子ごと後ろへ倒れそうになりましたが、途中で椅子が止まりました。


「お嬢様・・・?」


「きゃぁぁぁああぁぁぁ??・・・ぁ?ノワール?」


「はい、おはようございます。驚かせてしまったみたいで申し訳ありませんでした。起きているとは思いませんでしたので・・・」


「い・・・いえ、早く寝た分早く起きてしまったのですわ・・・」


 超絶驚いてしまいましたが、どうやら暗闇にいたのはノワールの様でした。


「そうでございますか。・・・ところで、一体それは何を?」


「え?あぁこれですの?」


 私は相変わらず指組を続けたままで、その指組をノワールに見せる様に掲げたのですが、ある事を思いつきます。


「これはお呪いですわ。この指の隙間から相手を見ながら『オープン』と唱えると、その相手が自分を好きかどうかわかるのですわ」


「ほ・・・本当でございますか・・・?」


「因みに・・・こんなお呪いを聞いたのは初めてかしら?」


「初めてでございます!」


 どうやら『私が知らないだけで実はステータスの見方は認知されている』という事はなかったみたいなので、私はついでだからと実験をすることにしたのです。

 実験したかったのは『誰がやってもステータスが見えるのか』と『ノワールのステータスはどうなっているのか』の2つで、騙している様で悪いのですが試してもらうことにしました。

 ノワールは私のいう事を信じたのか、唯単に話に乗ってくれたのかは解りませんが、即座に私の指組を真似し始め「オープン!」と叫びました。


(・・・これは何も考えずに、私からの好感度が知りたくてやりましたわね。まぁ話が早くて助かるのですが・・・)


 やれやれ~と、ちょっとだけ満更でも無い気分になりつつ、私は実験の結果をノワールに問います。


「どうだったかしら?私がノワールの事をどう思っているかお解かりになって?」


「わ・・・わか・・・わか・・・。ええ、お嬢様は私の事が大好きとでました」


 ノワールはバレバレの嘘をつきましたが、実験としては成功の様です。


(結果は見えてない、ですわね)


 どうやらステータスが見えるのは私だけみたいです。これも理由が解りませんが、雑に『転生者だから』という事で納得しておくことにしましょう。


 実験の1つ目の結果が解ったので、続いて2つ目を確かめることにして、私は指の隙間からノワールを覗き見ます。


「さぁ、それではノワールは私の事をどう思っているのかしらね?オープン」


「そ・・・それは勿論、言葉に表せないくらい・・・」


 嘘から出たまことなのか、見えたノワールのステータスには自分にはない『好感度』という項目がありました。

 しかしその表示が何とも言えない表示で・・・



 状態:普通

 強さ:普通

 使用可能:黒

 好感度:やばい



「確かに・・・ええ・・・言葉もありませんわ・・・」


「はぃ・・・」


 言葉『に表せない』ではなく『が出てこない』といった感じでした。

 もしかしたら本当に言葉に表せないくらい好感度が高いのかもしれませんが、ステータスで表す表示としてはどうなのかと、ステータスを作った開発もしくは神様にでも抗議を申し立てたいところでした。


(やばいってなんですのやばいって・・・。そこは高いとか低いとかではありませんの!?)


 チラリとノワールを見ると、確かにその黒真珠の様な瞳からは『やばい』くらいの熱が感じられ、まるで『愛している』と言葉で言っている錯覚すら受けました。


「愛しておりますお嬢様・・・」


「って本当に言っていましたわ!?」


 錯覚ではなく、本当に聞こえた言葉でした。


 私はまるで頭痛が痛いといった感じになってしまい変な顔をしてしまいます。そして流石に最近暴走し過ぎではないかとノワールに注意しようと思い、ノワールの目をしっかりと見ながら話しかけました。


「ノワール、1つ言いたいことがあります。私の事を好いてくれるのは嬉しいのですが、流石に最近・・・」


「は・・・はい・・・お嬢様?」


 ノワールは咎めるような私の声のトーンにシュンとしていましたが、ある事に気付いた私はそれどころではありませんでした。



(ノワールの瞳は綺麗な黒・・・ですが暗闇に見えていたのは・・・)



 私が気づいたのは瞳の色です。今見ているノワールの瞳は黒ですが、狐の窓を通して覗いていた暗闇に見えた瞳の色は・・・金色でした。

 私は少し背筋が冷たくなるのを感じながら、部屋の中をゆっくりと見回しました。



 しかし・・・部屋の中に広がるのは闇ばかりで、私とノワール以外に存在するモノはいませんでした。



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。次は皆様お待ちかね、魔法の話ですわ!

 「面白い」「続きが読みたい」「深淵を覗く時、深淵もお前を覗いている」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると 見られてしまいますわ・・・


 マシェリーの一口メモ

 【狐の窓は実際にあるものですが、少しホラー要素を含むので、気になって調べようとするお方は要注意ですわ。一応言っておくと、調べる時は自己責任でお願いいたしますわ】


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