第15話 見えたモノは

 魔力とは、精霊の儀を行い認められた者だけが授かれる力。それ故に魔法が使える者は尊き者、すなわち貴族なり。・・・というのがロマンスの設定であり、私の認識でもありました。

 ロマンスでのプレイヤーの分身となる『藍の聖女イリス』、彼女の設定は『平民でも稀な魔法が使える存在』でしたが、それでも魔法が使えたのは精霊の儀を済ませてからとプロローグで語られていました。


 そんな物語の重要なファクターである魔力が私に見えている・・・?


「ノノノノワール、い・・・いくら何でもそれは有り得ませんわ!!」


「私も有り得ないとは思います・・・ですが思い当たるとすればそれくらいしかないのです」


(そんな!いくら私が転生者だからって!・・・転生者だから・・・って?)


 私の存在の半分程を占める悪役令嬢ましぇりーに価値観や常識が引っ張られていましたが、よくよく考えると『あり得なくはない?』という考えが私の中にでてきました。


(そもそもがさおとめれいの存在自体が有り得ないモノでしたわ。ましぇりーはいつの間にか、さおとめれいであった事を忘れて・・・いえ、違いますね・・・これはきっと・・・)


「ふぅ・・・ノワール」


「は・・・はい?なんでしょうか?」


 つい先ほどまで焦っていた声音が急に落ち着いていたので、呼びかけられたノワールは不思議がっていましたが、私はそれに構わず言葉を続けます。


「今日はもう休みますわ。ですが明日の朝食までにお腹が減るかもしれないので、軽食をテーブルの上に置いておいてほしいのですわ」


「まだ日も落ちていませんがお休みになられるのですか・・・?」


「ええ、色々と頭を整理したいのですわ。だからこの話の続きは明日にしましょう?あ、お父様やお母様に何か言われたら、婚約の事を1人でゆっくり考えたいからもう休んだとでも言っておいてほしいですわ」


「畏まりました」


 ノワールは私の言葉に了承し、行動を始めました。まずは私の着替えから進める様で、私の服を脱がしてきます。

 私の着替えが終わると、ノワールが部屋の外に控えている他の使用人の所へ行こうとしたので、私は声をかけてベッドへと行く事にしました。


「それでは軽食の準備等を言づけてまいります」


「ええ、私はベッドに入りますわ、おやすみなさい。あ、貴女も明日までに先程の話を自分の中で整理しておいてほしいですわ」


「畏まりました。おやすみなさいませお嬢様」


 ノワールが短く挨拶を済ませるのを聞き届けると、私はベッドへと潜りこみ目を瞑り頭の中で色々な事を考えます。


 そして気が付くと、私はいつの間にか寝ていました。


 ・

 ・

 ・


「んん・・・あら・・・」


 目を覚ますと窓から見える外はまだ暗く、大分早い時間に目が覚めたことに気付きました。


「無理矢理もう一度寝るべきかしら・・・?」


 まだノワールもこの部屋に作られた待機スペースで休んでいるだろうし、もう一度寝ようかと思ったのですが私のお腹が『きゅ~』と鳴き声を発しました。


「あら・・・。ん~軽食でも食べながら、寝るまで考えていた事でも整理いたしましょうか」


 私はこのまま起きる事にして、ベッド脇に置いてあったランタンの様な光の魔道具を起動させ、静かに軽食が置いてあるテーブルまで移動します。

 テーブルの上にはサンドイッチが置かれていたので、水差しからコップに水を注いでからサンドイッチを食べ始めました。


「美味しいですわ。こういう所は、悪役でも貴族令嬢に転生出来て良かったと思いますわね・・・もぐもぐ・・・」


 もし奴隷転生物とかだったらハードな生活になっていたでしょうね等と、どうでもいい事を考えていましたが最初の目的を思い出します。


「いけませんわね。といってもまぁ・・・時間もあるし、ゆっくり考えてもいいですわね・・・もぐもぐ・・・」


 まだ頭が完全に覚醒していないのか、少し思考が緩めですが寝る前に考えていた事を整理していきます。先ずは・・・



(私の状態について、考えるといたしますか)



 私の状態といっても病や怪我をしているとかではなく、心の状態についてです。

 どうやらさおとめれいは、ましぇりーと以前より確実に混ざっている、そんな状態にある様なのです。

 と言っても、特段不味いという訳でもなく、唯趣味嗜好が容姿相応に寄ってきているかもしれない、というだけです。

 少し前に発案した『マウント合戦より(略』ですが、あれもその一旦と言えるでしょう。


(まぁ不味いと言えば不味いかもしれませんが、流石にこれ以上はなる様になるしかないですわね)


 自分の趣味嗜好については転生前の早乙女玲であった時でもそうですが、年齢やその時の状況でも変わるモノでした。なのでこれについては流れに身を任せるしかないのです。


(もしかして、いつかは男とにゃんにゃんするのも抵抗が無くなってしまったりするのでしょうか・・・?うぅん・・・元は早乙女玲という男だった存在としては、そこはなるべく変わってほしくないなぁとも思いますわね)


 最後に少し怖い想像をしてしまいましたが、私の心の状態としてはこのような感じで、次は・・・



(これも私の状態と言えば状態ですが・・・魔力が見えた事ですわね)



 本題である魔力が見えた事について・・・なのですが、正直これは考えても解りませんでした。


(まぁ解らないのは当然とも言えますわね)


 私はロマンスの開発陣でも無ければ、この世界の神でもありません。なので、何故精霊の儀を行っていないにも関わらず魔力が見えたのか、何てこと解るわけがないのです。

 でも推察くらいなら出来るだろう?と思うかもしれませんが、所詮は元唯のアラフォーおじさん、又は元唯の悪役令嬢ですので、『転生者だから』ぐらいしか出てきません。


(これについてはノワールと話しても駄目かもしれませんわね)


 ノワールに考えを整理しておくように言いましたが、彼女も優秀な使用人兼護衛というだけで学者や専門の者ではありません。なのでやはり魔力が見える理由は解らないと思われます。


 ですが・・・


(確かに魔力が見える理由なんてものは解らないでしょう。しかし重要なポイントはそこではないのですわ。重要なのは・・・『魔力が見える事』なのですわ!)


 そう、重要なポイントは『魔力が見える事』なのです。

 私の『魔力が見えた理由』については、もう雑に『転生者だから』でもいいのです。『魔力が見えた=魔力が扱えるかもしれない』、こちらを見るべきなのです。


(もしかしたらノワールの話次第では魔法が使えるかもしれませんわ!)


 精霊の儀を行う前に魔法が使えるのは、普通に考えたら大きなアドバンテージです。更にそれが『普通は1つの属性を扱えるだけでもすごいのに、6つも属性を扱えると言うチートキャラクター』ならば尚の事です。

 もし本来の悪役令嬢であるマシェリーだったならば、『私凄い!やはり私は選ばれし者!貴族の中の貴族!』と周囲に自慢するぐらいでしょうが、転生者でもある今の私ならば・・・!


(それは正に魔王への大きな一歩になり得ますわ!)


 私はサンドイッチの最後の一口を口に放り込み勢いよく水を飲み干します。


「ぷはぁ~!やってやりますわ!・・・おっといけませんわ」


 魔法が使えるかもしれないと心が乗りに乗った私は声を出してしまいましたが、未だに夜は明けていないので静かにすることにします。


「でも整理していた考えはこのくらいですし、時間が空きますわね・・・」


 朝になって動き出すまでどう過ごそうかと考え、もう一度考えをまとめておくかと思い出しかけた時、私はある気づきを得ました。


ましぇりーからすればここは現実で、さおとめれいからすればゲーム・・・ですわね」


 考えを整理し始めた最初の方で考えた、2人の人間が混ざってきているという考えからこんな発想が出た訳ですが・・・



(もしゲームなら、メニューとか出ますわよね・・・?)



 私は現実なら有り得ない事を考え付いてしまいました。



「た・・・確かロマンスでは・・・」


 私は生唾を飲みこみながら、ロマンスではどういう風にメニューを呼び出していたかを思い返しながらそれを試してみます。


「え・・・えぇっと・・・『メニューオープン』」



 すると私の眼前に・・・



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。

 「面白い」「続きが読みたい」「み・・・みえっ!」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると 見えてしまいますわっ・・・!


 マシェリーの一口メモ

 【ノワールは使用人兼護衛ですので私から離れる事はあまり無く、私の部屋の一角に待機スペースという名の部屋もありますわ。一応ノワールの個室も別にあるのですが、帰る事はないらしいですわ。】


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