第13話 緑の魔王 グウェル

 六人の魔王と藍の聖女イリスに登場する攻略対象が1人『緑の魔王』、彼は魔王であると同時にファースタット国の王族でもあるという人物です。

 細かい所は省きますが、緑の魔力・・・森属性を持った彼は、森属性という名前は可愛らしいが威力は可愛らしくない魔法でファースタット国を守護する魔王。

 攻略対象に彼を選び進めて行くと、腐った貴族を粛正し国を生まれ変わらせ、新王国の初代国王になる人物です。


 それが今私の目の前で、私の事を観察する様に見ているお方です。


「なんだグウェル、そんなにマシェリー嬢を見て。そんなに興味深々か?」


「それはありがたい事ですグウェル殿下。どうです?ウチのマシェリーは可愛いでしょう?」


 私が気づくぐらいなので貴族社会で揉まれているお2人にも当然気づかれ、そんな軽口を言われますが、グウェル殿下はさらりと流し聞き捨てならない言葉を話します。


「そうですね。ところで、本日は急に呼ばれたのですが一体何用だったのです?オーウェルス家の方と何か予定でも?」


 どうやらグウェル殿下はこの集まりが何か知らない様ですが、リカード王太子は私と婚約させる事を話していない?

 何故でしょう?と思っていると、リカード王太子がその種明かしをしました。


「そうだ。実はな・・・ここにいるマシェリー嬢がお前の婚約者となった!どうだ?驚いたか?」


 どうやらサプライズで事実を伝え驚かせる為の様でしたが・・・王族としてその様なノリでよいのでしょうか?


「・・・は?」


(よろしくない様ですわよリカード王太子!グウェル殿下ガチ切れトーンですわよ!?)


 ゲームでのグウェル殿下の性格は少し融通の利かない真面目な性格でしたが、どうやらそれは今もその様でした。


「父上、それは本気で言っているのですか?」


 グウェル殿下は私を一瞬チラリと見ながらリカード王太子に言いましたが、一瞬見えたその視線は・・・


「本気だとも。マシェリー嬢ならば、恐らく精霊の儀で魔力・属性共に素晴らしい結果が出るだろう。だから森属性という微妙な属性がでそうなお前の不足を補ってくれそうだし、家柄器量共に不足もない。良い選択だとおもうのだが?」


 私が一瞬気をそらしかけた内にも話は続いていたので、私は集中して話を聞きます。・・・今後の事もありますし、聞き逃すのは不味いと思うからです。


「・・・確かにそうかもしれません」


 話している内容は『魔法について』みたいです。

 これは確かに、精霊の儀を受けていない今のグウェル殿下にはクリティカルな内容かも知れません。

 原作が終了する前、ロマンスの世界が『魔法=貴族としての資質』という様な風潮である今は、『使い勝手は微妙』『攻撃に使うにも威力がない』とされる森属性、これを授かるであろうと目されているグウェル殿下は微妙な扱いを受けていて、しかもそれはリカード王太子が『使い勝手が良い』『攻撃にも魔道具の充電にも使える』と人気の雷属性であることも拍車をかけている・・・らしいです。

 正直原作前の話は、ゲーム作中の会話や設定資料集、開発陣のインタビュー等でしか知ることが出来ないので、知っている情報で推察するしかない事も多いのです。


(本当にそうでしたのね。まぁこの後の魔王グウェルを知っている私としては、『不遇だった森属性でしたが、僕は魔王らしいです』みたいなラノベ展開を見ている様で、ちょっとだけドキドキハラハラですわ。まぁ下手をしたら私、ヤラレ役として登場してしまいますけど・・・)


 そんな事を考えていると、再びグウェル殿下に一瞬視線を向けられました。



 その後、不承不承といった感じでしたが、「これからよろしく頼みますマシェリー様」とグウェル殿下に挨拶をされ、親2人が少し話したところで顔合わせは終了という運びになりました。

 その内時間を取って、国王陛下への報告や私と殿下の合う時間を作ったりするそうですが・・・まだ国王陛下も知らない話ですか?


(これってまさか・・・)


 私はロマンスのストーリーを記憶から引っ張り出し考えます。すると見えて来たのは幾つかのルートであった話で・・・


(成程・・・リカード王太子の設定が垣間見えましたわね・・・)


 設定と言うのはあまり良くないかもしれませんが、ロマンスの知識にて知りえるリカード王太子の野心家という設定と今後のストーリー、これについて思いを馳せているとお父様に声を掛けられました。


「それではマシェリー、帰ろうか」


「解りましたわ」


 お父様にそう言われたので、2人でリカード王太子様とグウェル殿下へと挨拶をすると、部屋の中に居た騎士が扉を開けてくれて、そのまま王城の入口へと案内してくれました。

 入口へ着くと馬車が待っていたので、来た時と同様に分かれて乗り込みます。


「お嬢様、御当主様と一緒ではなくてよろしかったのですか?」


 馬車が出発して直ぐにノワールからそう言われたのですが、お父様と一緒にいると何を言われるか解ったものではないですからね。

 流石にそのまま言うのはどうかと思ったのでやんわりとぼかしてノワールに伝えると、特に突っ込まずに納得してくれました。


「はぁ・・・しかしグウェル殿下と婚約ですのね・・・」


 私は数回向けられた視線を思い出し、ため息を吐きながら呟きます。


「はぁ・・・お嬢様が婚約・・・」


 私の対面でノワールも同じようにため息を吐いていたので、私はフォローする様に話しかけます。


「まぁ大丈夫ですわ。グウェル殿下は私を睨む様に見ていましたもの、その内何か理由をつけて婚約破棄でもしてきますわ」


「え・・・?」


 ノワールはそんな馬鹿なと言う顔をしていますが、これから先のストーリーやルートを知っている私はその事を知っています。

 グウェル殿下ルートならばラノベでよくある大勢の前での婚約破棄、それ以外のルートだと色々ありますが、普通に悪役令嬢の私が破滅して婚約消滅とかグウェル殿下自体が倒されて婚約消滅なんていうのもあります。

 それにグウェル殿下は私に対して、「恵まれた素質を持つにも関わらず、それに胡坐をかき貴族としての本来の役割も果たさぬ怠惰な悪徳貴族令嬢」と、この様に考えているらしいのです。

 先程の顔合わせの場でも、私に対して嫉妬や侮蔑といった感情を乗せた視線で見ていたので間違いないでしょう。


 何にせよ、私とグウェル殿下が結婚する未来はあり得ないのです。


 そんな事情を詳しく教える事はできませんが、私はグウェル殿下と結婚する未来はありえない事をノワールへと告げる。


「それにノワール、私は魔王になるのですわ。だからファースタット国の王族とは結婚いたしませんわ」


 それに何より私も結婚したいとは思いませんし、自由に生きたいので魔王に成ると決めているのですわ。

 魔王だから国には帰属しないという事ではないのですが、少なくとも今の私の選択肢としてはあり得ません。


「成程・・・そういえばお嬢様はそうでした・・・魔王・・・ふむ・・・」


 私の言葉を聞いてノワールは何やら考え込んだ様子になり、次に顔を上げた時には瞳に力が戻りキラキラと輝いていました。


「そうでございますね。私もお嬢様が魔王の座へと上る事を応援いたします。それはもう全力で!」


 以前私が魔王に成ると言った時は、「何を言っているんですかお嬢様?」といった感じでしたが、今は「早くなりましょうお嬢様!」といった感じにノワールはなっていました。

 それは恐らく、私が本当に魔王に成れば婚約話は確実に跳ねのけられる!との考えからなのでしょうけど・・・現金な考えですわねノワール。


「まぁいいですわ・・・。そう言えばノワール、私の婚約や結婚に対しては過剰に反応してましたが、サマンサが私にくっ付いていた事はよろしかったの?」


 私の心情がヤレヤレ・・・といった感じになったので話題を変えることにして、少し気になっていた事をノワールへと尋ねます。


「まぁ・・・お嬢様も若干嬉しそうにしておりましたし・・・それに・・・」


「それに?なんですの?」


「いざとなれば消してしま・・・いえ、なんでもありません」



 この使用人兼護衛、大丈夫ですの・・・?



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。

 「面白い」「続きが読みたい」「魔王より護衛が怖い」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると ノワールが、厄介オタクになりますわ!


 マシェリーの一口メモ

 【緑は風じゃないのか!?と思う方もいるかもしれませんが、どちらかと言うと風はお父様の翠色の方ですわ。最初は魔王の6色に地水火風を入れようと思ったけど、何となく色のイメージ的に違うなと思ったので緑は風ではなくなったそうですわ】

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