第12話 邂逅
ノワールによるお姉様呼びを拒否した翌日、私は珍しくお父様に呼び出されました。
「ノワール、呼び出しの要件は聞いていて?」
「いえ、聞いておりませんお嬢様」
何時もよりほんの少しだけ元気なさげにノワールは答えますが、そんなにお姉様と呼びたかったのでしょうか?
でも流石にノワールにお姉様と呼ばせるのは・・・解釈不一致によりNGですわ!
・・・っと、ノワールに対して語るのはまた今度にして、今はお父様・・・現オーウェルス家当主『クォース・フォン・オーウェルス』の呼び出しについてですわね。
クォース・フォン・オーウェルス・・・現オーウェルス家の当主で、強き者に媚び弱き者を虐げるプライド高く傲慢で、悪役令嬢の親に相応しい悪性を持つ人物。
そんなお父様が今の時期に私を呼び出すとは何の要件でしょう。
(考えられるとしたら最近のお茶会の事かしら・・・?でも流石にあれくらいの事に何か言ってくるような性格でもなかった筈・・・)
屯と要件に心当たりが浮かばないものの、呼び出されたからには行かねばならないのでお父様が待つ政務室へ向かいます。
政務室前に着くと一応軽く自分の身なりを確認し、それから扉へとノックをして声を掛けます。
「お父様マシェリーですわ」
『おぉ、入っておいで』
「失礼いたしますわ」
入室許可が下りたので私は政務室へと入ります。
「御呼びと伺いましたが、何か御用ですの?」
私は政務室へ入ると机の前に進み、そこへと座るお父様へと声を掛けます。
「ああ、取りあえずそこのソファーに掛けていなさい。パパもこの書類だけ確認したらそっちへ行くから」
「解りましたわ」
広い政務室内に作られた応接スペースにて待つよう言われたのでそちらへ移動し、スペースを区切る為に置かれたパーテーションの隙間からお父様の事をちらりと見ます。
クォース・フォン・オーウェルスは一見すると唯の娘好きなオジサンといった人物なのだが、それは自分に近しい地位の人物や家族に対している時だけである。
他の下級貴族や平民等の前でも明らか様に態度を変えたりはしないが、言動の節々に『こいつらと俺は同じ人種ではない』という様な感じが出たりして、裏では色々な事をやっているらしい・・・
と言うのがロマンスでの公式設定です。
転生してから接した限りでも、確かにその様な感じでした。
(ああしていると、人の良さそうなオジサンにしか見えないですわ・・・)
身長は程々に高く、程よく筋肉の着いた均整の取れた体つき。顔も中々に渋い顔つきをした
乙女ゲーで攻略対象として出てきそうな感じではあるのですが・・・
(ロマンスでは悪役令嬢の親、悪役貴族なのですわよねぇ・・・)
私が心の中でだけため息をついていると、書類を確認し終わったのかお父様が対面のソファーへと座りました。
「さてマシェリー、お前を呼び出したのは重大な話があるからなんだ」
お父様はソファーへ座ったと同時に、単刀直入に要件を切り出しました。
何時もならもう少し雑談をしてから要件を言い出しそうなものですが、それほどの話なのでしょうか?
私は少し身構えながら話に耳を傾けます。
「実はな・・・お前の婚約者が決まったんだ!」
「えっ!?」
「パパなぁ・・・頑張ったんだぞぉ!根回しやら色々な!いやぁ、他にも先方に婚約を申し込んでいた家があって・・・」
お父様はうんたらかんたら何か言っていますが、私の頭にはその言葉が入ってきていませんでした。
(成程!確かにそれは重大な話ですわ!)
私の頭は高速で思考を始め、早乙女玲としての記憶・・・ロマンスの記憶を引っ張りだします。
「いやぁ本当に頑張ったかいがあった!でもその甲斐あって王子と・・・」
そう、
そして・・・
・
・
・
私はあの後、早速これから顔合わせだとお父様に言われ、考え込んでいた思考を中断させられました。
流石にいきなり過ぎではありませんか?と言ったのですが、軽い顔合わせだから大丈夫と言われ、無理矢理支度をさせられました。
ですが、いざ出発!となったところで、私はお父様にある提案をしました。
(そしてそれは受け入れられ、提案通りに私はお父様と別の馬車に乗っている・・・と)
私は『少し1人になって心を落ち着けたい』と提案をしたのです。それは勿論本当の事でもあるのですが、もう1つ理由があって・・・
「ノワール、大丈夫ですの?」
それはノワールの事が気がかりだったからです。
先日解った通り、ノワールは私を慕って・・・吃驚するほど慕ってくれております。そのノワールが私の婚約話をいきなり聞いてしまったのです、気にならないはずはありません。
「なにがですかおじょうさま」
そしてその懸念は当たり、ノワールはいつも以上に表情乏しく・・・無表情と言うよりは『虚無』といった感じでした。
「わたしはもんだいありません」
「そ・・・そうですの」
(確実に問題ありそうな感じですが、どうしたものですわ・・・」
ギュッと抱きしめてもいいのですが、直ぐに王城へ着くので暴走でもしたら困りものですわ・・・等と考えている内に、馬車は『ゲート』を通り王城近くへと転移していました。
(あら・・・初転移ですわ。特に揺れとかありませんのね)
ロマンスにはゲームの都合上か解りませんが、離れた地点へと転移できる装置『ゲート』というモノがあります。
ゲームではシナリオを一定進行させたら解放されるシステムですが、現実となった今はそんな事は関係なく使用出来ました。
(オーウェルス領から首都まで一瞬、現実に体験すると凄すぎですわ)
誰が考えたのか知りませんが、凄いですわぁ・・・と考えていると馬車は止まり、扉が開きます。
「さぁおじょうさま、いきましょう」
「え・・・ええ、解りましたわ」
未だノワールは虚無状態ですが、役目はキチンとはたす様です。
私はノワールに介助され馬車から降り、案内の為に現れた騎士の後に、お父様達と続きます。
暫く王城内を歩き、漸く目的地へと到着したのか騎士が立ち止まり振り返ります。
「こちらにて王太子と殿下がお待ちしております」
「ご苦労」
お父様はそう言って扉をノックすると、直ぐに中から声が掛かり入室します。
私もお父様に続き部屋の中へと入ろうと思いましたが、その前に案内をしてくれた騎士にお礼をしていきます。
「ありがとうございましたわ騎士様、職務頑張ってくださいませ」
「いえ・・・ありがとうございます」
騎士の方も礼を返してくれ、流石騎士礼儀正しいですわ、と思いながら部屋の中へと入ると、部屋の中には数人の人がおりました。
(格好からするに騎士が3人と使用人が2人、それと・・・)
「やぁ、よく来てくれた。とりあえず座りたまえ」
私が部屋に入ると、騎士でも使用人でもない方・・・王太子『リカード・フォン・ファースタット』様が声をかけてきました。
「はい、失礼いたします」
「はい、失礼いたしますわ」
お父様と私が王太子様に勧められた席へと座り、王太子様達へと対面すると、王太子・・・リカード様が口を開きました。
「改めて・・・よく来てくれた。知っていると思うが私は王太子のリカード・フォン・ファースタットだ。そしてこちらが息子の・・・」
リカード様は自己紹介をすると、隣に居た緑の髪をした少年・・・殿下へと視線を移したので、私もそちらを見ました。
(この方が・・・)
「グウェル・ファースタットです。よろしくお願いします」
(この方が緑の魔王グウェル・・・)
私はこの時初めて『ロマンスにおける攻略対象の1人』に出会ったのです。
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マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「婚約者!」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。
☆や♡がもらえると 婚約者が、断罪されますわ!
マシェリーの一口メモ
【ロマンスはRPGパートもありますので、転移機能は必須なのですわ。一応飛空艇や魔導船等もありますわよ】
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