第28話 森の賢者を訪ねて
二人をうまく女神ハンナたちに押し付けたボクたちは、三つめの街に向かっているところだよ。
ローファたちを従える場面を見た “その次の街ジカイサクノマチ” の人々の歓迎ぶりは凄かった。
街を救った英雄女神としてボクたちを讃える祭りを毎年開くかなんてことになっちゃったし。マダナイの銅像を作る計画まで持ち上がった。もちろん断ったよ。
でもまあ、ローファと弟の竜は街の守護竜という立場でしばらく
二人の世話は女神ハンナたちが協力してあたることになったし、弟の竜も無理して人化しなくても良くなったから、かえって良かったかもしれないんだ。
雨降って地固まるってやつだよ(腹下って……だけど)。
ちょっと汚いけど。
隣を歩くマダナイはずっと無言だ。
こうしていると、ちょっとまともっぽく見えるんだ。
でも、何て言うか、もう少し女神に対するデリカシーさというものが欲しいんだよ。トイレから出て来て手も洗わずボクに触れるような奴なんだ。
それに、街を離れて既に二日め、朝から歩きっぱなしで、ちょっと足が疲れてきたんだけど、こいつ、休憩しようとか、大丈夫か? とか、ちっとも言わないんだよ。少しはレディに対する気遣いがあってもいいんだよ。
そんな事を思っていると、道の傍らに石の道しるべがあった。
右、ビックリギョ、左、山道と書いてある。
「次のビックリギョの街は、大昔にナントカ国の都だったという、ちょっと大きい街なんだ。少し前に街を占領していた魔王軍と勇者連合で大規模な戦闘があったらしい」
石柱の前で立ち止まったマダナイが説明した。
「へぇーーーー、それで? 森の賢者もその近くにいるのかな?」
ボクたちはビックリギョの街に行くついでに、街の近くに住むという森の賢者の家に寄り道して、例の石を調べるつもりなのだ。
「行ってみればわかるさ」
マダナイはそれだけ言って、また無口になった。
この石、竜の里を襲った女神と何か関係があるのかもしれないし、強靭な竜族に下痢させるほどの力を秘めた石だし、このまま持っているのは不味い気がするんだよ。
さて、現在のボクたちのレース順位はなんと78位まで上昇していたよ。一気に21組もの勇者・女神ペアを追い抜いたんだ。
ビリ争いをついに脱したんだ、凄いよね? と言いたいけど、実はこれにはからくりがあるんだよ。
前の街で療養しているのが11組、残りの10組はこの先のどこかで勇者が死んで、始まりの街から再スタートになった女神たちなんだよ。
つまり、最前線ではそれだけ強敵との戦いが始まっているってことなんだ。
魔王城へ向かうルートは一本じゃないから、その戦いがどこで行われたものかはわからない。
どの道を通って、どの街を先に解放するかは女神と勇者に任されているんだ。
先頭を行く女神たちも必ずしも同じ道を通っているわけじゃないし、それにどのルートが本当の正解かも終わって見なければわからないんだよ。
ーーーーーーーーーーー
「ねえ、この道で合ってる? 何だかどんどん山の方に向かっている気がするんだよ?」
今さらなんだけど、いつの間にか深い森に囲まれた道を歩いている。道もでこぼこして歩きづらいし、誰ともすれ違わないし、何か違う気がするんだ。
「ねえ、道を間違っていない?」
再び尋ねると、前を歩いていたマダナイがゆっくりと振り返った。
「女神エル、俺たちは森の賢者に会いにいくんだぞ? 忘れたのか?」
「それだよ。賢者は次の街の近くに住んでいるって言わなかった? この辺りに街があるようには見えないんだよ」
こんな深い森の奥に街なんかあるわけないよ。道も手入れされていない山道だしね。
「街はあるぞ。あの山の裏側にな」
そいつは当たり前のように正面にそびえる高い山脈を指差したよ。
「へはああああああ?」
変な声が出てしまったよ!
あの向こうって、めちゃくちゃ遠くない?
「街は山の陰にあるんだ。森の賢者の住まいはこちら側の山裾にある。たかが山一つ隔てているだけだし、地図で見れば、ほらすぐ隣だろう?」
そういって古びた地図を見せる。
ぐぬぬぬぬぬ……!
怒り爆発だよ!
「街が近い? いくら地図上で隣り合っていてもあんな高い山の陰にあるんじゃ全然近くないんだよ! どうするんだよ! 次の街で補充しようと思って、ボクは余分な食糧なんか買ってないんだよ!」
ボクはそう言って背負っていた袋を揺すった。
カラカラ……、うわーーーー非常に心もとない音だよ……
「ほら、残っているのは乾燥させたパンの欠けら程度だし、水も足りてないかもしれない」
「それは、お前が計画性もなく、美の女神とは思えぬ勢いで暴飲暴食してたからだろ? 俺の分は十分にあるぞ」
そう言って、十分中身が詰まっていそうな背荷物を見せびらかす。
「美の女神とは思えない? あんたが出発を急かすから慌てて食べただけだよ! そんな大食いしていないよ」
「化粧に時間をかけすぎるから、いつも食事の時間が足りなくなるんだろ?」
ぐっ、言葉が詰まった。
「ええと、食料不足の時はチームとして協力しあうのが当たり前じゃないかな? ほほほほ……」
「自分が食べる分は自分で持つ、お前が言ったのではなかったか?」
ぐぬぬぬぬぬ……!
そうだった。重い荷物を分担するのが嫌だったから、そう取り決めたんだけど、それがここにきて裏目に出たよ!
「ぎゃーーーー」と頭を抱えてしまう。これは非常事態だよ。
「そもそも次の目的地がこんな
「お、お前、相手は森の賢者だぞ? 森の賢者が都会に住んでいるとでも思っていたのかよ?」
マダナイは驚いたような、憐れむような目でこっちを見たよ。
「……都会に住む森の賢者だっているかもしれないよ? 森の賢者と言ってもいろいろだよ、性格もタイプも。この世界の森の賢者はどんなのかな? ほら、人の姿をしているとか、動物系とか、それとも精霊系なのかな?」
動揺し過ぎて目が回る。
「馬鹿な、森の賢者を知らない女神がいるのか……。いや、ここにいるか? まあどうでもいい、そろそろ着くころだ」
だって、ここに来る前の世界では森の賢者と言えば、大きな猿みたいな奴だったし、その前の世界では美しい妖精のような奴だったよ。
「ここだな」
マダナイが立ち止まった。
「はぁ!?」
二人の前には、あまりにも見事な”お菓子の家”がズズーーンと建っていた。カラフルなお菓子で彩られた屋根や壁、周囲にはふんわりとクッキーの甘い匂いまで漂っていた。
「いきなりメルヘンの世界かよ!! 場違いもはなはだしいよ!!」
ボクは思わず地面を踏み鳴らした。
食い物が無くなったらどうしようという、さっきまでの悲壮な思いはなんだったんだよ!
「暴れるんじゃない。うん、ここが森の賢者の屋敷に間違いない、表札に書いてある」
「あわわわわ……お、お菓子の家って? これはね、たいてい悪い魔女の家ってことでお決まりのパターンだよ?」
少し冷静になったら思わず足が震え出したよ。
ここに一体どんな凶悪な魔女が澄んでいるのだろうか? 人を捕まえて食うような奴だろうか?
「お菓子の家に住んでいるのが悪い魔女だって? そんな常識は初めて聞いたな」
そう言ってマダナイはピンポーンと呼び鈴を押して玄関の前に立った。
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