第4話 イチゴパンツをもう一度

 ボタンをポチッてみたけど、反応なし?

 「あれ? 間違ったかな? えいっ、えいっ!」


 『さぁて!! 女神レースに挑む君に解説しよう!!』


 「わッ! いきなりびっくりした! 音量MAXじゃん!」

 突然の声にドキっ!! としてボクは反射的に音量を絞ったよ。

 

 やがて目の前に鮮やかな映像が映し出された。 


 「あ~~、これって!」

 なぜかまた最初に見たやつだよ。無駄に力の入った映像入りの解説がまた始まっちゃったよ。


 えー、そこからですか? これ長いんだよ……。うんざりするよ。


 もしかしてバグったかな?

 ええい、スキップ、スキップ!


 『ーー魔王の侵略に苦しむ人々の願いが天界に通じた……チュルルン……世界の救済のため、百人もの女神が地上に舞い降り、誰が魔王を倒すかという女神レースが始まったのだ…チュルルン……』


 『何を隠そう、あなたはそのうちの選ばれし女神の一人……チュルルン……みんなから数日遅れで降臨したばかりのあなたは、この地上で勇者と契約を結び……チュルルン……共に魔王に立ち向かって、人々を戦乱から解放するので……チュルルン……』



 ……そう! たしかにそのはずなんだけどねっ!


 ルンルンと勇者との待ち合わせ場所に来てみれば、肝心の勇者がこれなんだよ! これっ!


 こえの入った両天秤を担いだ全裸の田吾作像のチン○○の真下に倒れているこいつが、ボクがレンタルした勇者だって!?


 うぐぐぐ、あのレンタル屋の親父に騙された! 女神を騙すとは、いずれ天罰が下るよ、あの親父!


 「くっ……」


 いかにもやられた、という感じで勇者がまたもわざとらしくうめいたよ。HPが1だけどしぶとく頑張っている。でもネズミは容赦なくステップを踏んでいるよ。


 どうもこいつはボクの注意をひきたいらしいんだ。

 訴えかけるようにボクを見上げている……。


 あ、もしかして何か負けた原因があるのかな?


 「まさか、ネズミアレルギーだったとか? だって一応勇者なんだし。いくらレベル1と言っても、普通はこんな最弱モンスターに負けるはずないよね」 


 いや、なんか違うぞ。

 目の前で、悩んだり怒ったり、百面相しているボクを見て、今、こいつ、押し殺すように密かにプッって笑わなかった?


 「その態度、良い度胸だよ!」

 こっちはお前のせいでこんな顔になったっての! 腕まくりして睨んだけど、こいつ、良く見たら肩をカタカタと揺らしてる。


 あ、やっぱりこいつ笑ってる!

 今にも死にそうなくせに、なに笑ってんのよ!

 

 「うーーん。そうか、やはりこれはもう見込みなしの奴だよ。ダメ勇者確定だよ!」

 こうなったらキャラ選択まで戻って交換しかないね。


 「よし! 気を取り直すぞ、チェンジしてこんどこそ使える勇者を雇えばいいだけじゃない!」

 こんな時は気持ちの切り替えが一番大事なんだよ。


 すぅーーはぁーーと大きく深呼吸してと……


 「そうそう、考えてみれば、これから伝説となる美しき女神の物語は、まだ始まってもいないんだもんね」

 スタートボタンも押してないから、このヘボ勇者の敗北も無効だよね。


 「というわけで、もう一度、勇者村へ戻ってやり直しっと……、ん?」

 女神の細い足首をガシっと掴んだ奴がいる。


 「ま、まて……」

 あの勇者である。ネズミウサギに勝利のダンスを踊らせ、地べたに倒れているこの男である。


 何故かその顔は真剣そのものだ。


 「何か用かい?」

 ボクはわざと冷たい目をしてそいつを見下ろした。


 そう言ってから、よくよく見ると……


 うわっ、こいつ凄く弱いけど、実は顔だけは凄いイケメンじゃないか! しかも、その横顔は天界にいるはずのボクの初恋のあの人になんとなく似てる!


 そう、まともに見たその顔は意外にもイケてるんだ。


 しまった、好きなタイプかどうかと言われれば、実は結構好きなタイプだよ、これ!


 天界でもあの人以外でこんなイイ男見たことないよ。おっと思わずヨダレが、じゅるっ……。


 「な、何をじっと見ているんだい?」


 あっ、わかった。

 もしかしてこのボクに一目惚れなんじゃないかな!

 きっと「俺を見捨てるな」とか言うつもりなんだ。

 そうでしょう、そうでしょうとも!


 こう見えてボクは正真正銘美の女神だし~~。

 絶世の美女だし~~。


 一目惚れしたのも分かるワーーーー。


 この美しさは罪なのよねーーーー。


 「お前、い……」

 勇者は見上げて何かを指差そうとしている。


 派手に破れたシャツの隙間からのぞいた背中、その筋肉の付き具合が男っぽくて妙にカッコいいんだ。

 その肉体をつくるのにどれだけ”無駄な”努力をしたのか。こいつの過ぎ去った鍛錬の日々が目に浮かんだよ。うん、可哀想だね。鍛錬してもこんなに弱いんだもん。


 「それで、なーに? 「イ」って? わかった! ボクの魅力に『イ、チ、コ、ロ』だって言いたいんでしょ? それとも『色っぽいな』とかかな?」


 「イ、イチゴとは……」

 「!?」


 「お前、そのエロい恰好で、下着はまさかのイチゴパンツとは、やるな見事なギャップ萌え仕様……」

 勇者は頑張ったけど負けました、みたいなやりきった表情で見上げたと思ったら、ふいにニヤけた。


 「さてはさっきから覗いていたッ? こ、こいつ変態だっ!」

 一瞬で耳まで真っ赤になった。


 勇者は無言でグーいいね!を出し、もう一度下からのぞき込んだ。


 さすがにプチっと切れたよ。

 目がすわったよ。


 「このアホ変態勇者がーーーーっ!!」


 「ブゲーーーーッ!!」


 強烈な女神キックを受けた勇者が丸太のようにゴロゴロと丘の下まで転がって行った。


 「あ、しまった! あいつHPが1だっけ?」

 死んだかな?

 ボクは口を塞いで息を飲んだ。

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