第3話 縛りプレイが崩壊しそう!
うん、もうこれは大ピンチだよ!!
ひどい勇者をレンタルしちゃったよ。
ボクって今回は戦闘系女神として降臨したわけじゃないんだ。それなのに勇者がヘタレだったらどうすりゃいいの?
ボクって、美貌、スタイル、衣装、どれを取ってもまさに神話級、超絶に美しいんだ(主観が入ってます)。
だってほら、美と慈愛の女神なんだよ。
前に派遣された異世界では色々やらかしちゃって「今度やったら戦女神に問答無用でクラスチェンジじゃ!!」とエライ神様ににらまれた。だから、うん、この世界では出しゃばらないぞ! と心に誓ったんだよ。
服装だって慎重に選んで来たんだよ。
戦闘には不向きの胸元セクシーで純白ひらひらの、大人の女神様仕様の超セクシーなミニスカートドレスをチョイスしたってわけなのさ。
今回の世界では美しさ勝負なんだもん!
だから力仕事は一切しないんだもん!
ちょっとした縛りプレイってやつだね?
超前衛タイプの荒くれ剣士プレイはもうこりごりだからね。
絶句するほど美しい外見が最大の取り柄の癒し系女神ってのが今回降臨する際に自分に課した設定なんだ。
「勇者! 治癒と魔法防御はボクに任せて!」、「背中は任せたぞ! 俺の子猫ちゃん!」って感じさ。
前衛担当のカッコイイ勇者とそれを後ろから支える麗しの女神って感じのラブラブパーティーによる冒険の日々を夢見てやって来たんだ。
それがどうだい?
いきなりお先真っ暗だもん!
最初から縛りプレイが崩壊しそうな、大ピンチだもん!
ええ、はい、たしかに今回の派遣メンバーを決める選考会では面接官の神々の前で「がんばります! 冒険が今から楽しみです!」って笑顔で言いましたよ。だって女神レースに参加しなくちゃ、より上位の女神になれないんだもん。
でも、この勇者がパートナーってある意味凄い冒険だよね!
冒険し過ぎてて、旅に出る前にエンドクレジットが流れてきた感じだよ。
ああ、目の前が暗くなってきた。
ホント、この先どうやってコイツと一緒に魔王討伐の旅をしろって?
相手は魔王なんだよ。
今回の任務はね、「ま、お、う、討伐」なんだよ!
「あのーーーー、さっきの戦いっぷり、まさか何かの冗談? それともどこか具合が悪かったのかな?」と引きつった笑顔で恐る恐る声を掛けてみた。
腹下りで力がでないとか……。
お腹がすいて力が出ないとか……。
「実は勇者じゃなくて、書類を拾っただけのただの通りすがりとか……? 本当にレンタル勇者なのかい?」
ばったりと倒れているだけだったそいつが突然眼をぎらっと光らせ、「俺は勇者だ」って感じでグッと親指を立てた。その意味のない勇者感があまりにも寒々しい。
「きぃーーーーっ!」
こいつーっ! ボクは思わず頭を抱えて仰け反っちゃったよ。
ボクとしたことがつい女神にあるまじき奇声を上げてしまったよ。
だって瞬殺だったんだもん!
……………………………………………………
「遅くなっちゃってごめんね~~! 待ったかな? あなたがボクの勇者だね?」と息を弾ませ、乙女走りで駆け寄った美しき女神。
その輝く瞳には丘の上に立つ雄々しき背中が映っていたんだ。
あ、逞しい後ろ姿だね!
もしかしてカッコいいかも!
そんな期待に胸が高鳴ってもうドキドキだったよ!
さわやかな風に前髪をなびかせ、その勇者が振り返ろうとした時だ。草やぶからチュウって小さなネズミが現れたんだ。
その瞬間、軽快なリズムとともに「敵が現れた」って感じのBGMに切り替わって、勇者が正々堂々、一対一の勝負を選んだよ。
<ーーラウンド1、ファイトッ!!ーー>
それの結果がコレだよ。残念だよ!!
バンバン! 僕は拳で地面を叩いた。
試合開始と同時にネズミの頭突きをまともに股間に食らって勇者撃沈! たった3秒で終わったよ。
……………………………………………………
目が点……。
え~~っと、そんな勇者いるの?
いやいや、ふざけろ!
ネズミに一撃でやられる勇者ってなんじゃそりゃあ!!
「ぐぬぬぬぬ……!」
こんなのとパートナーを組んで女神レースに参加してもすぐにゲームオーバー、天界へ強制送還だよ!
もちろん、そんなの我慢できるわけないよ!
こう見えてもボクはついこの間、とある異世界を滅亡の危機から救ったばかりなんだよ、エヘンぷいなんだよ。
神々の称賛を受け、鼻高々で一流女神への階段をスキップしながら爆上がり中の美しき女神こそ、この美と慈愛の女神であるこのボクなんだよ!
それがこれか!
自信満々だった鼻高々の鼻が一撃でぽっきりと折れたよ!
「こんなのがレンタル勇者? ボクのパートナー?」
思わず額に手を当てて空を仰ぐ。
澄み渡る青空がすがすがしいけど、ボクの気持ちはさっきからテンション駄々下がりだよ。
まさに暗雲が立ち込めてきたよ。
ああ……。自信満々に「このアタシについてくれば大丈夫さ!」と言った矢先、視界不良でいきなり悪臭漂うドブに落ちたあの時の幼女女神チルッタの気持ちが今になってわかったよ。
「うーーん、この世界の勇者って、みんなこんなポンコツなのかな? いや、もしかしてこの勇者が後衛向きなだけとか? 二人とも後衛だったらどうなるの?」
前衛になる人を探すしかないかな?
いやダメダメ。今からそんなことをしてたらさらに遅れちゃうよ。他の女神たちはとっくに好スタートを切って、絶賛ばく進中だというのに、こっちはまだスタートすらしていないんだよ。
そう思ったら、ピコン! と音がして目の前に光るパネルが現れた。
ほら、やっぱりね。
スタートを強く意識したから、今の状況を知らせるパネルが目の前に浮かんだんだ。
出現した半透明なパネルがすうっと切り替わって、新たなウインドウが目の前で明滅し始めた。
そこには女神レーススタート前の説明書きが書かれている。
そしてその説明を全て読み終えるまで半透明で押せないのが女神レースへの参加申請ボタンだけど、説明は既読だからね、ボタンはいつでも押せる状態になっている。
『スタートしますか?』だって。
やっぱりちゃんとボタンを押さないと女神レースへのログインがされないんだ。読んだだけでは申請したことにはならないんだね。
うん、そうだよね。
でも物は考えようだよ。
まだボクたちはスタートすらしていないってコトなんだよね。これってまだキャラメイク段階みたいなものじゃない? やり直しが効くんだ!!
よかったわ~~~~。
こいつを作り直す……のは無理そうだから。そうか、なーんだ。勇者を交換すればいいだけじゃない?
だとすると、今はスタートボタンは押さないでおくのがやっぱりベストだよね。
「戻る」ボタンは……。
これかな?
「えい、ポチッ……」とボクは可憐な指先で画面にタッチした。
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