第13話 ー第1章おわりー

 周囲に焼け焦げの臭いを残し、尻ロボ102号は大爆散したようだった。これでもう危険はないよ。


 「もう終わったよね?」

 「ああ、でもあれは一体何だったんだ? ロボって書かれていたけど、何か知っているか?」


 「きっと魔導ロボって奴だよ。まさか魔王軍が自律型の魔導兵器を開発しているなんて知らなかったよ」

 ボクは破片を拾って女神の目で鑑定してみたよ。


 やっぱりそうだった。


 これは魔力をエネルギーにして動く自律型の機械兵だ。言ってみればゴーレムの一種なんだけど、土や岩なんかで作られるゴーレムよりもずっと機械的なタイプだ。


 「これはメカと魔法を融合させた特殊技術なんだよ」


 魔導ロボがあるなんて、神から配布されたこの世界の情報にも書かれていなかったし、何か神々すら知らない変化がおきているかもしれない。


 「ところでマダナイ、それは何? 何か拾ったの?」

 ふと気づいたら、マダナイが尻ロボの破片から何か拾っている。その顔ときたら戦闘シーン以外では見たことがない真剣な表情なんだ。


 「マダナイ一体どうしたの?」


 「いや……ちょっと待ってくれ。これは……」

 マダナイは拾ったものを手に取ってじっくり見ている。


 「やはりこれはノイスヴェルゲン鉱のクリスタル片か?」


 「それって何よ?」

 「ノイスヴェルゲンという街の地下鉱脈だけで採掘される特殊な魔石を精製したものなんだ。そんなものがどうしてここに?」


 「ふ~~ん、それって魔石の一種なの?」

 マダナイの手にあったのは拳大の赤い宝石の欠片のようなものだ。


 「赤い石はあまり出回らないから知られていないが、人体に悪い影響もあるらしい」

 「危険な魔石と言うことだね……」

 確かに言われてみれば魔石のようにも見えるけど……。普通の魔石は青色っぽいけどそれは赤いんだ。


 「危険で特殊な魔石か……、鑑定してやるわよ。ほら貸して見なさいよ」とボクは手を差し出したよ。


 「頼む」

 「どれどれ~~、女神スキル! 鑑定だよ!」

 ボクの片目が光った。

 ぼや~~と石の表面に解析結果が表示されてくる。


 『ノイスヴェルゲン鉱クリスタル:魔王軍の侵攻で異空間に消えたノイスヴェルゲンの地下鉱山で採掘される希少魔鉱石を精製したもの。魔力量は通常の魔石と同等だが瞬間的な魔力放出量が極めて多く、充填した魔力の持ち時間が長い。これの純度の高いものは魔王結晶石の代用になる』

 魔王結晶石? 初めて聞くけどなんだか重々しい名前の石だよ。


 「なるほど、マダナイの言う通りだよ。危険かどうかは分からなかったけど、これって電池みたいなものだよ。きっと尻ロボを動かすのに使われたんだよ」


 「やはりそうか……」

 あれ、マダナイの反応が薄い。

 ちらりと見ると、マダナイが腕組みして何か考え込んでいる。


 ひゅ~、珍しい表情!

 なんだか理知的に見えてきたよ。まあ気のせいだろうけど。


 でも思わず見蕩れてしまったよ。 



 ーーーーーーーーーー


 「あーっ! あんたたち、そこでなにやっているんだ!」

 ボクたちが声の方を見ると周囲から冒険者風の連中が集まってきていた。


 緊急事態発生で、街を守るために冒険者の義務である強制任務に就いたんだろう。きっとさっきの爆発を見て様子を探りに来たんだ。


 「お前たちは何者だ! ここは立ち入り禁止のはずだぞ。こんなところで何をしている?」

 「魔王軍の攻撃が確認された! ここは危険だぞ! って、なんって場違いな格好なんだ! ヒラヒラのドレスだと?」

 冒険者のリーダーと思しき男が目を細めたよ。その背後にいる仲間たちもボクの方を見てヒソヒソ話をしている。


 「えっと……」


 何と答えたらいいか困ってしまったボクを見て、マダナイが前に出たよ。


 「俺は勇者マダナイ、こいつは連れの女神だ」

 いきなり間違いやがったよ!

 いや、わざとかもしれないよ。


 「女神エロ……」みんなの目が痛い!


 「違いますって! ボクは女神エルだって!」

 もうこの男ったら本当に失礼なんだよ。


 「ボクがエロいっていうなら、そういうボロボロ服を着ているあんただって相当じゃない? 勇者っていうより見た目はもう浮浪者だよ」


 「ゆ、ゆうしゃ様なんですか!?」

 その言葉を聞いて皆がざわめいた。うん、これはまあまあ良い反応だよ。


 「そうすると、まかさあっちが女神様か?」

 まさか、って何だよ。


 「しかし、あの姿はなあ……」

 「いやいや、どこかの夜のお店の女神なんじゃないのか?」

 ひそひそ……


 「あんたら聞こえてるよ。何が言いたいんだよ?」

 思わずポキポキと指の節を鳴らしちゃうよ。ボクの目が怖いよ!


 「みんな聞け。間違いなく俺が勇者でアレが女神なんだ」

 マダナイが体のホコリを払いながら言ってくれたけど、アレ扱いか……


 「そうよ、このボク、女神エルと勇者マダナイが魔王軍が送り込んできた魔導兵器をやっつけたんだよ!」

 えへんぷぃ!


 「やっつけた!? あんたたちだけで?」


 「倒したと言うのか! あの化け物を!」

 あ、冒険者たちの後ろからさっきの自警団の隊長さんが現れたよ。彼はボクたちを取り巻いた冒険者たちをかき分けて前に出て来たよ。


 「確かに魔導兵器の気配はないようだが、本当に倒したのか?」


 「ああ」

 「このボク、女神エルが率いる勇者パーティーに不可能はないんだよ!」

 鼻高々なんだよ!

 パーティーと言っても二人しかいないけど……。


 「そうか……」

 「……隊長、本当でしょうか?」

 「安全を確認するぞ! みんなで手分けして周囲を調査するんだ! 冒険者諸君は森の奥、落下地点付近の調査に当たってくれ!」


 「はっ!」

 「わかりました!」

 「森の奥だな? 敵がいたら合図するぞ」



 ーーーーーーーーーー


 「隊長、魔王軍の兵器の残骸があちこちにあります!」

 「こっちにもありました!」

 隊長とボクたちの前に尻ロボの破片が次々と集められてきた。


 「あ~、赤い石は見つけたら呼んでください。直接触らないようにね」

 「はっ!」

 ボクが指示すると自警団の青年は嬉しそうに答えた。まるで主人に忠実な犬みたいだよ。

 


 「見ろよ! 大物を見つけたぜ!」

 やがて発見された尻ロボの頭部を荷車に乗せ、冒険者の一グループが戻って来た。


 「おおっ! それは間違いなくあの兵器だよな!」

 それを見て不安そうに自警団の仕事ぶりをみていた野次馬たちの表情にもようやく笑みが戻って来た。

 どうやら人々はあの魔導兵器をボクたちが破壊したという説明にようやく納得したらしい。


 「勇者がやってくれたんだ!」

 「ありがとう勇者様!」

 「救世主だ!」


 滅多になく真面目な顔をして立つ二人の周囲に、いつの間にか人々が集まってきて、ボクたちの手を取ると次々とお礼の言葉を述べ始めたよ。


 「他の女神はさっさと出て行ってしまわれたというのに、女神様! この危機を予知して、わざわざ今まで村に残られていたのですな!」


 自警団の逞しい若者に混じって現れたのは村のお偉いさんだろう。風格のある老人がボクの手を両手でぎゅっと力強く握りしめてなかなか離さない。


 「え? あっ、そうだよ! そうなんだよね~~ボクの未来視の力だよ。オホホホ……」嘘だけど。


 やだ~~照れるよ。


 まさか単に出遅れているだけ、なんて言えなくなった。

 でもこんなに感謝されると気分が良いね。

 

 「いきなり割り込んでダメじゃないか、ボウ爺さん。今までどこにいたんだ? ホームレスの仲間と逃げたんじゃなかったのか?」


 あれ? この爺さんお偉いさんじゃなかったの?


 ホントどこから出て来たんだよ。まさかあの戦いの最中、ずっと森の中にいたんじゃないよね?


 「きゃーー! 勇者様!」

 「ステキーー!」

 「勇者! 勇者!」

 うわ~~、背後で黄色い声だよ。


 いつの間に集まって来たんだろ? 

 振り返るとマダナイが若い自警団の女の子に囲まれて頭を掻いているよ。

 軽装の革鎧を装備している若い子たちにキャーキャー言われて照れているようだ。顔だけはイケメンだからちゃんと仕事をすると本当はモテるんだよ。


 「ほらマダナイ、ボクたちも破片回収を手伝うよ!」

 女の子たちを押しのけ、殺しそうな目でにらんでやるとマダナイが青ざめたよ。



 ーーーーーーーーーー


 破片回収が一段落ついた頃、回収作業を手伝っていたボクの前に自警団を引きつれて隊長さんが姿を見せた。


 「女神エル様、このたびの防衛、ありがとうございます。自警団を代表してお礼申し上げます」

 隊長さんはさっと地面に片膝をついて、背後に集まっていた隊員たちと一緒に頭を下げた。


 「あははっ、いいよいいよー。そんな堅苦しいことしなくて! 勇者の肩慣らしにもなったからね!」

 ゴミ袋とゴミばさみを持ったまま、ボクは手を振った。


 「他の女神様が目の色を変えて村を通過して行ったというのに、ご自身のレースよりも我々を守ることを優先していただけるとは、しかもゴミ拾いまで手伝っていただいて」

 隊長は感激屋のようだ。


 ぐわっと開いた目に感激の涙を浮かべて笑っている。いや、ゴミ拾いっていうか……。マダナイがこの魔石は人体に悪影響があるかもしれないって言うから、全部回収しただけだし。

 

 ちょっと大げさすぎるけど、まあいいか。

 

 「感謝されるって良いもんだな」

 「この幸運の女神に感謝するんだよ!」


 「お前、今まで一言も幸運の女神だって言ってないよな?」

 「え? そうだったかな~?」


 「お前、自分の都合の良いように適当に効能を言っているだけじゃないか?」

 「……ん……」


 「あやしい! なんで俺の目をまっすぐみないんだ!」

 「あ、目にゴミが入った……」


 「ごまかすんじゃない、女神エル!!」

 「ごまかしてません。わざわざ言わなくたって幸運は女神の基本属性なんだよ! 一緒にいるだけでラッキーなんだよ」

 「うむ、確かに……。さっき目の前でスカートが風でめくれ上がったのはラッキーだったけどな」

 「あ~~、あんた一度死んでみる?」

 女神パワーを拳に集めてポキポキと指を鳴らしたよ。


 でも、こうして二人の女神レースは、この謎の尻ロボ討伐から始まったんだ!

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