第1章 第一印象は大事だよ!
第1話 その勇者、大地に立たず!
ケロケロケロ……。
のどかにカエルが鳴いている
「ぎゃああああ~~!! やっべぇーーーー! うわ~~。まさかこいつが? ええーっ、何よコレ! 信じらんない!」
はぁ? これって本当に勇者?
これがそいつの第一印象、まったくもって残念だよ。
そう、ここはとある異世界、その名も『ド
いや、なんか違った気がするよ。ええっと、あ、そう!
ド田舎じゃなくて『ドイナシャ』だった!
悪気はないよ! 素で間違えたんだよ!
でも名前を間違うのも当たり前だよ。だって、周りは一面の田んぼだよ。ここは田んぼに囲まれた丘の上。つまり、田んぼのド真ん中なんだ。
しかも、目の前にあるのは目のやり場に困る裸の田吾作像。
これがこの国の初代王様。
誰かが腰ミノを盗んでいったらしくて下半身丸出しで下品さが際立っている。
誰だって目を細めて「うわ~~なにコレ?」って言いたくなるフリチン石像だよ。
でもここが勇者との待ち合わせ場所になっているんだもん。
これを見るためにここに来たわけじゃないんだもん。
魔王の侵略を受け、いまや世界は危機に瀕している。
世界秩序を守るために選ばれし女神が天界から降臨し、誰が一早く魔王を討伐するかという通称「女神レース」が開幕したばかりなんだ。
そして、この変態の像……じゃなかった。
この国王の像の前で胸元の開いたドレスから健康的ながら大きめで目立つ美乳を弾ませながら、今まさに絶世の美女神がカタカタと身を震わせているんだよ。
その女神は誰もが絶句するほど美しい。
そして魅力抜群なんだ。
宝石のような青い瞳、鼻は高く、ちょっと童顔っぽいけど基本は整った顔立ち、それに深紅の麗しの唇が色っぽくて、美しすぎる。その容姿に男どもはメロメロさ!
お尻に届きそうなさらさらの金髪ロングヘアが陽光にキラキラ輝き、細い腰のくびれから始まる魅惑のヒップラインと妖艶な脚線美は神々すら虜にするんだ。まさに神界一と称賛されるのも納得のスタイル抜群の女神なんだ。
ほら、彼女がそこにいるだけで、肥をまいたばかりの田畑から漂ってくる濃厚な田舎の香水すらもフローラルな香りに変わる。それほどの美しさ。
でもその美しき女神は、愛くるしい瞳に長いまつ毛も優雅に……、とても不満そうにぷくっとほっぺたを膨らませたかと7想うと、グワっと目玉をひん剥いていきなり天を仰いだんだ!
「これは無いワ~~~~~!!」
突然、頭を抱えて絶叫した美しき女神……それが、このボクだよ!
「え~~~~、マジ信じられないんですケド〜〜!」
これってジョークじゃない?
白昼夢ってこれのこと?
あ~~初めて見たかも。
え、これってまさか現実だった?
足元で「くくっ……」と悔しそうにうめいてパッタリ倒れている男がいる。これがボクがレンタルした勇者、今やHPは2だよ。いくらなんでも弱すぎだろ!
「規格外の勇者のレンタルを頼むね!」って確かに言ったけどね。うん。ある意味、見事に規格外の勇者だけどね!
チュウ! チュウ! チュ~~~~!
そいつの頭上でぴょんぴょんと小動物が軽快に跳ねまわって髪の毛をぐしゃぐしゃにしている。あれはネズミというか、ハムスターみたいな姿の可愛いモンスターだ。
「ええーーうそでしょ、こいつのHPってどんだけ低いの?」
さっきの攻撃なら、そこいらへんの一般人でも削れて3割ってところだと思うんだ。仮にも勇者でしょ?
いくら勇者でも「レベル1なんだもん仕方がないよ」ってレベルじゃない!
「なんなんだコイツ! えいっ、女神パワ~~~~! 初期情報を取得っ!」
ボクはその愛くるしい片目を指でぐいと大きく開いて叫んだ。これ瞳が乾燥するから嫌なんだけど。
すぐに目の前に半透明のハートが浮かんだかと思うとチリチリチリと音を発しながらその鏡面に倒れている男を映し出した。
うん、この世界でも正常に機能している、これを透かして見ると対象者の健康状態とか様々な情報がわかるんだよね。
『状況:手出し無用の一対一の勝負中』
――――ハイ、勝手に始めちゃったやつね。
『状態:かなりヤバい。死にそう』
――――なるほど見た目どおりだね。
『ダメージ:かなりキツイ。急所攻撃による特大ダメージ』
――――うん、わかってた。
小ネズミの頭突きを見事に股間に食らって撃沈したんだもん。
ああ、ほら見て。
HPがついに1になった。
これは死ぬね。
「ほら、そのままだともうすぐ死ぬって! なんとかするんだよ!」
ボクは路上に倒れている自称勇者のHP&魔力ゲージを見てハラハラさ。ピコンピコンと点滅するHPゲージが無性に不安をあおるんだよね。
緑色の魔力バーはちっとも減っていないくせに、赤いバーのHPの方は、既にあかぎれた手指のヒビ割れみたいな線が心細く明滅しているだけなんだ。
「がんばって立ち上がるんだよ! 立つんだよ、勇者なんでしょ!」
指が動いて……、さあ長い眠りから目覚めるんだよ。
きっとここからなんだよ。
ボクにそのスーパーパワー、奇跡の力を見せてくれるんだよね?
「ん……」
勇者は動いて、立ち上がら……ない。
ぱったり……。
ほら見たか、こいつ力尽きたよ。
勇者大地に立たず!
「うぎゃーー、役立たずだぁ!」
ボクは思わず両手で頬を押さえ唇を尖らせた。
その時だ。
死んだと思った勇者の指がピクリと動いたんだ……。
おおっ、まだ生きてたよ。
「そのままじゃ本当に死ぬんだからね! そんなに弱いなら、どうして自信満々で一対一の決闘なんか選ぶんだよ!」
HPゲージの上で数字が無情に『HP1、1、1、1……』と点滅しているんだってば!!
この世界の誓約による一対一の戦いだから、いくら女神でも手出しできないんだぞ。
だから、瀕死の勇者に回復魔法をかけることもできないんだよ!
もしもこの次があったら絶対にコイツには一対一なんて選ばせないぞ! そうだ! パーティー戦しか選べないっていう呪い(オプション設定)をかけちゃうんだから!
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