50 前時代魔法と現代魔法 その2

(リゼ視点)



 私は大賢者グランドマスターであるが、戦友のように前時代魔法オールドを使うことはできない。


 優れた高位魔法使いの多くは、前時代魔法オールドの扱いに長けているが、私は生まれからして前時代魔法オールドに関わる機会がなかった。


 それに高位魔法使いであっても、戦略魔導歩兵の場合は、前時代魔法オールドを使えないのが普通だ。


 現代魔法モデムを使うためには演算結晶が必要になるが、演算結晶を装備した状態で前時代魔法オールドを使用すると、ノイズが発生して魔法が不発になる。


 優れた前時代魔法オールドの使い手であるほど、魔法を使おうとすれば自然に現代魔法モデムでなく前時代魔法オールドを使おうとしてしまい、その結果魔法が不発に終わってしまう。


 飛行中に演算結晶が不調を起こして墜落、なんて事態になりかねない。



 私が知る範囲で、前時代魔法オールドを扱い、かつ現代魔法モデムも扱える変態的に器用な人間は、3人しかいない。

 そのうちの2人は、とっくに墓場に入っているので、戦友は貴重なまでに変態的な人間の生き残りだ。




 さて、そんな私が魔法を使うとなれば、演算結晶を用いる現代魔法モデムしかない。


 腕に装備している魔導量子ストレージを操作して、技術者用の演算結晶を取り出す。


 演算結晶は、その特性として内部に書き込める術式の数に限りがあり、制限を超えて術式を刻むことができない。


 一応演算結晶の大きさを巨大にすれば、制限を増やすことができる。

 ただし、ある一定の大きさ以上にする場合、とてつもない労力と時間、経費が必要となる。

 それも一個人でなく、国家レベルの負担が必要になるので、演算結晶の巨大化は、非現実的な話だった。



 また、2つ以上の演算結晶がある場合、互いの演算結晶が干渉し合って、魔法が不発になってしまう。

 なので、1人で一度に使用できる演算結晶は、1個だけという制限があった。



 私たちがいた時代では、現代魔法モデムは誕生してから、まだ百年しか経っていなかった。


 有史以前から存在していたと言われる前時代魔法オールドと比べれば、生まれたばかりの魔法体系だ。

 数々の技術的問題点を抱えているが、時代の経過とともに解決していける見込みがあった。


 だから私は、コールドスリープから目覚めた時、この千年後の時代に、新たな現代魔法モデムの技術が存在し、それまでに存在した問題点の多くを克服していると期待した。



「なのに結果はこのていたらく。発展するどころか、中世社会にまで衰退するとは、目も当てられんな。無様だ」


 人類の歴史は間違った方向に歩みを進め、世界を滅ぼすような大戦争をしでかしたらしい。


 私がコールドスリープに入っている間に起きた出来事なので、らしいとしか言えない。




 それはともかく、私は取り出した技術者用の演算結晶を使って、現代魔法モデムを操る。


 今回行うのは、戦友が創世魔法を使った際に出来た魔力結晶を加工して、演算結晶に作り上げることだ。


 過去に同種の魔力結晶を用いて、私と戦友の演算結晶に加工したことがある。


 以前したことのある作業なので、初めての時より慣れた手つき行うことができた。



 私と戦友だが、私たち2人は、おそらく人類歴史上最も魔力を持っている人間だ。


 大戦時代に敵国の高位魔法使いを狩って回り、大賢者グランドマスタークラスまで何人も仕留めた。


 彼らの膨大な魔力は、私たち2人に色濃く取り込まれている。

 戦場を転戦するにつれて、私たちはさらに魔力量を増加させていた。



 さて、そんな戦友の魔力が元となって出来上がった魔力結晶。それを加工して生み出した演算結晶。


 見た目はただの綺麗な宝石に見えるが、ただの戦略魔導歩兵では扱う事ができない性能を持っている。


「少なくとも、賢者マスタークラスの魔力を持っていなければ、起動させることすらできないな」


 元がとんでもない魔力結晶なので、加工して作った演算結晶の性能も折り紙付き。

 サイズ制限からくる、書き込める術式の数に限りがあるものの、膨大な魔力を投入してやることで、普通の演算結晶とは比べられない性能を持つようになる。


「フフフ、私の弟子たちに贈るプレゼントだ」


 久々に浮かれた気分で、演算結晶を丁寧に作り上げていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る