47 オーク殺しの英雄たち
チビ助がなぜ紡績機なんて作ったのかと一時期思ったが、理由は簡単だった。
この時代の織物業は全て手作業のため、100人分の軍服を用意するのは、なかなかに手間がかかる。
ならばと、紡績機を作ったそうだ。
その延長で、ミシンまで作っている。
紡績機で金儲けしているのは、その副産物だそうだ。
兵士の着る軍服は高級品で、頑丈にできている。
やたら高いのは、雨風によって兵士が風邪をひくのを防ぐため。
体力が低下した兵士は戦場でのパフォーマンスが下がるので、風邪なんて簡単にひかれては困るのだ。
ところで、紡績機で稼いでいるのはいいが、100人の兵士をそのまま遊ばせておくわけにはいかない。
軍隊は維持するのに、金がかかる。
何もしていなくても、食っちゃ寝して食費がかかるし、怠けていればただの役立たずに成り下がってしまうので、定期的な訓練を欠かせない。
しかし訓練をすれば、武器弾薬が飛んで行く。
「閣下、これが今月の食料代なのですが……」
黄色髪に事務方面のことを任せているが、差し出された書類の額を見て、思わず苦笑いした。
「軍隊って、やっぱり金食い虫だな。
今は備蓄があるからいいが、弾薬を生産できる体制を早く整える必要があるな」
こういうことは全部チビ助に投げてしまいたいが、現状チビ助の方も手一杯なので、部隊の面倒は俺が見ないといけない。
一応、国王にせびって軍事費も出してもらっているが、それだけだと心もとない。
と言うわけで、治安維持の名目で山賊の拠点を襲撃して、壊滅させる。
ついでに拠点内にある物資を押収して、軍隊の維持費の足しにする。
この際、多少兵士に略奪させることも許可する。
鍛えた軍隊とはいえ、ガス抜きがないと不満を持つ。
お偉いさんは、兵士が略奪することを嫌う風潮にあるが、ガス抜きをしない兵隊が暴走すれば、目も当てられないことになる。
適度な息抜きを兵士に与えるのは、必要な処置だ。
もちろん略奪ばかりさせて、軍隊としての秩序より、略奪目的の犯罪者集団になられては困るので、この辺は適度なさじ加減が必要だ。
また、この世界では人間の犯罪者だけでなく、モンスターが存在する。
文明が崩壊する以前の千年前の時代、最高度に発達した魔導科学は、人為的に生物を生み出すことを可能にし、様々な生物兵器が生み出された。
俺やチビ助が、
こいつらは、基本強力な害獣だ。
人間を襲う、狼やクマと同じ生き物だ。
そんなわけで、確認されたゴブリンの集落を壊滅させる。
発見されたオークの集落を壊滅させる。
その他のモンスターも、サーチアンドデストロイだ。
「さすがにオークは頭を撃たないと、1発で仕留められないか」
戦場を眺めていて気付いたが、オークはかなり頑丈で、体にライフルを何発打ち込んでも、動くことをやめない。
さすがに心臓辺りを撃たれれば動きを止めるが、見た目以上に頑丈だ。
そんなオークの集落を壊滅させた後、俺は兵士たちを前に鼓舞しておく。
「おめでとう諸君、これで君たちはオーク殺しの英雄だ。
騎士様でも、オーク1体倒すのに何人も集まって戦っているが、君たちはそんな騎士が集団でかかる相手を、集落ごと滅ぼした。
君たちは、この国の騎士以上に強力な兵隊だ!」
「よっしゃー、これで騎士たちなんて目じゃないぜ」
「俺がオーク殺しの英雄か。故郷に帰ったら、村の連中が驚くだろうな」
「それもこれも閣下のおかげです。俺たちは地獄の果てでも、閣下にお供します!」
現金なもので、オークを倒したことで兵士たちは大盛り上がり。
この時代では、オークを倒せることに特別な意味があるようで、兵士たちはこの日の出来事を喜んだ。
「俺もオークを1体仕留めたぜ」
赤髪の奴も、顔をにやけさせて嬉しそうにしていた。
最初はやる気なしの男だったが、彼にとってもオーク殺しは特別な意味を持つらしい。
俺からすれば、オークと言われてもピンとくるものがないが、兵士たちが喜ぶのであれば、いくらでもオークを殺させよう。
そうすれば、部隊の士気が爆上がりだ。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
「オーク殺しの部隊。たった100人で、既に5つのオーク集落を滅ぼしているだと!?」
「貴族の3男以下の、満足な職につけなかった能無し集団ではなかったのか?」
「魔王、奴の与える武器が強力なのだ!
このままでは、我が国は奴によって支配されてしまう!」
なお、俺の知らない所で軍の将軍たちが、雁首揃えて議論を行っていた。
俺は知らないが、チビ助はその情報を入手していた。
チビ助、様々だ。
「どうせ軍の将軍など無能の集まりだ。奴らには勝手に慌ててもらえばいい。手を出してくるようであれば、反撃すればいいだけだしな」
チビ助は悪い顔をして、クククと笑う。
そんなチビ助を見ていると、俺まで笑顔になってしまう。
「物理的に消していいのか?」
「状況によるが、手段の一つとして用意しておこう」
軍内部での争いか。
それが戦争に発展するのもいいかもしれないな。
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