41 人を集める

 軍隊を作ろうということで、国王経由で軍部から人を割いてもらった。


 結果、俺は新たな人材を手に入れた。


 足がガクガクで、立っているのもおぼつかない爺さん騎士、オイゲン・シュルツ。

 赤髪と青髪をした青年騎士2人、ギュンター・ヴォルフとアレクシス・フォックス。

 お色気担当の女騎士、ザビーネ・クラウゼ。

 黄色髪のぱっとしない地味顔の中年騎士、ペーター・ノイマン。

 そして最後はお子様騎士、カミル・クライン。年齢はなんと12歳。



「よし分かった。軍部の奴ら、俺にまともな人材を回すつもりがないな」


 じいさんとガキは論外。

 女騎士なんてのも、まともな戦力になるわけがない。


 あとの3人が、この中でマシな部類だろう。

 あくまでも、マシなだけだ。


 黄色と赤髪は猫背。

 鍛えられた軍人であれば背筋は常に伸びているものだが、彼らは日ごろから鍛錬すらろくにしてないのだろう。


 青髪は背筋が伸びているから、鍛錬を怠っていないのは分かる。

 ぱっと見ではこいつが一番まともそうだが、中身も役に立つのかは不明だ。


「オ、オイゲン・シュルツ麾下6名。本日よりアルヴィス・ガイスター将軍閣下の指揮下に入ります」


「ああ、分かった」


「ゲホゲホ、す、すみません。ちょっと座って休憩を」


「……」


 俺の部下になった6人。

 代表して挨拶してきたのは、オイゲン爺さんだが、騎士なんてやめてさっさと引退したほうがいい。



「フアアーッ、やってらんねえ」


 赤髪のギュンター・ヴォルフは、俺の前で堂々と欠伸をして、やる気なし。


「ヴォルフ、将軍閣下の前で怠けた態度をとるな!」


 見かねて注意したのは、青髪のアレクシス・フォックスだ。


「へえへえ、お前さんは真面目だねえ。フアアーッ」


「このバカ!」


「ああん、俺はバカじゃねえぞ!」


「バカだろうが、相手は将軍閣下だ。自分の態度をわきまえて……」


 その後、青髪が怠けている赤髪にクドクドと説教を始めた。


 俺の前で呑気にじゃれ合いを始める辺り、この青髪も使えない予感がしてきた。



 俺は次に視線を向けた。


「ウフンッ」


 女騎士ザビーネ・クラウゼが、鎧の上からでも分かる胸部を強調しながら、俺に微笑んできた。

 褐色の健康的な肌に、豊満なボディーをしている。

 魅力的な女ではあるが、頭はバカそうだ。


 どうせ色仕掛けで、俺に取り入ろうと考えているのだろう。



 そんな女騎士からも視線を外し、最後の子供を見る。


「ここは学校じゃないんだが?」


 俺が欲しいのはまともな人材であって、子供ではない。


「将軍閣下、僕は子供ではありません。これでもクライン騎士爵家の当主です」


「へー、貴族の当主様なのかー」


「はい、父が早くに亡くなったため、世継ぎである僕が当主になりました。家には弟と妹もいて、僕が騎士として頑張らないと、弟妹を食べさせることができなくて……」


「へぇー、そうなんだー」


 初対面にして、いきなり家庭事情を話してくれた。


 うん、まったくもって泣ける話だ。

 まだ小さいのに、自分が働かないと弟妹達が食べていけなくて困っている。

 なんてお涙頂戴な家庭事情だろう。



 こいつ、軍人舐めているのか?

 ガキが騎士の真似事をして、ゴッコ遊びをするんじゃねえ!



「ヒヤッ!」


 無意識だったが、睨みつけてしまったらしい。

 殺気と言うほどではないが、多少の怒気が出てしまった。


 途端にガキ騎士は腰を抜かして、その場に倒れ込んでしまう。


 ガキだけでなく、俺を誘惑しようとした女騎士も、説教していた青髪とおまけの赤髪の騎士2人も、黙り込む。



「ヒーヒー」


 じいさんは、動悸に息切れを起こしている。

 俺が睨んだせいでそうなったのか、それとも年のせいかは不明だ。



 あと黄色髪も、喉をゴクリと慣らして緊張していた。

 影が薄いので、存在を忘れていた。




「6人ともよろしく頼む。

 現段階では俺から特に言うことはないが、いずれきちんと戦える兵隊にしてやる。だから、せいぜい今のうちに自由を満喫しておくといい」


 俺はそう言って、目の前にいるバカ6人に挨拶した。





 しかし、俺が作るのは軍隊。

 軍部の連中がまともな人間をよこさなかったので、その後国王を脅し……お願いして、さらに兵士を集めて回った。


 城門の門番に、衛兵の一部。

 さらに田舎から王都に出てきて就職活動をしていた、貴族家の三男以下の連中などなど。


 貴族の三男以下は、よほど裕福な家でない限り、王都に出てきて軍隊や官僚として就職することが多いそうだ。

 もっとも、軍隊も官僚も数が限られているので、就職活動からこぼれた連中を、立て続けに拉致……もとい、勧誘していった。



「り、理不尽だ!」


「一体何の権限があって、我が衛兵隊の兵士を引き抜くのだ!?」


「ぼ、僕は軍人になんてなりたくない。官僚になって、安全な後方で勤務するんだー!」


 兵士を集めて回る際、騒ぎが起きてしまったが、俺は国王の勅命で兵士を集めている。

 騒がれても国王からの勅命の一言で、全員を黙らせることができた。



 そんな俺に協力してくれるのは、いつものようにレインくんとレイナちゃん。


「師匠が人攫いを始めた」


「師匠だから仕方ないよ」


 2人は、そんなことを言っていたが関係ない。

 2人にも兵士集めに協力してもらい、俺の背後で、ライフルをこれ見よがしに見せびらかす仕事をしてくれた。


 この2人も、いい具合に染まってきているな。




 そんな感じで、俺は数日のうちに100人ほどの人間を集めた。


 こいつらを調練して、まともな軍人に作り変えてやる。


 なーに、問題ない。

 落第者はあの世行きになるので、全員死ぬ気で、俺の調練に食いついてくるだけだ。


 もちろん、比喩的な意味でのあの世でなく、本物のあの世へ直行だ。

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