40 物資運搬

 ザルツブルク王国の国王に仕官して将軍になった俺だが、今のところ味方からは英雄扱いされるわけでなければ、頼りになる味方とも思われていない。


 魔王。

 大魔王。

 決して逆らってはならない。

 自分と家族の命が大事であれば、絶対に刃向かってはならない。



 そんな感じで、散々な評価だ。


「ちょっとだけ落ち込むな」


 敵からそう言われるのは慣れているが、味方から言われるのはショックだ。



「現状、我々はこの国に対して、何ら貢献してないからな。むしろ混乱の元凶でしかない。

 ただし我々が実績を示せば、国の連中の見方も変わる」


「そんなものか?」


「自分になんの利も与えない者には無頓着。だが利益に寄与する存在は認めるし、褒めもする。人間とはその程度のものだ」


「ふーん」



 難しいことに関しては、チビ助に任せておこう。



「と言うわけで、まずは認められるための準備として、軍隊を作るぞ」


「軍隊を?分かった」


「作る理由は聞かないのか?」


「戦争で俺たちが役に立つって、教えるためだろ」


「その通りだ」


 俺に出来ることなんて、戦争で人を殺し、物を破壊することくらい。


 ただし大戦時代は、大佐にまでなったので、指揮官もこなせる。

 肝心の指揮に関しては、チビ助に丸投げのお飾り指揮官だったが、部隊運用を全くできないわけじゃない。



「まずは通常の歩兵部隊の錬成を行う。幸い、地下秘密基地には武器弾薬が大量に保管されている、あそこの備蓄分を使うとしよう」


「了解」




 俺たちがコールドスリープをしていた、帝国の地下秘密基地。

 あそこには大量の武器弾薬が備蓄されている。


 魔導ライフルの弾なら百万発以上。通常のライフル弾も一千万発以上。

 他にもライフル、魔導ライフルはもちろん、野戦砲に、銃弾の製造機械、その他諸々があった。


 大戦末期は、すべての物資が不足していた帝国軍にとって、あの基地にある物資は、喉から手が出るほど必要な物だった。

 なのに、大戦で使われることなく終わってしまった代物だ。


 前線で戦っていた俺としては、なんであんなところで物資を腐らせていたのかと、激しい疑問だ。


 個人レベルでは使いきれない量だが、軍レベルで使えば、ひと月もたたずに消費してしまう。

 それでも前線にあの物資が届いていれば、首都陥落の時間も、もっと稼げていたはずだ。


 物資を隠していた将軍連中を、撃ち殺してやりたい衝動を覚える。



 そんな風に思う俺に、チビ助曰く、


「あの基地は帝国ライヒが首都失陥時に、臨時の軍司令部大本営が置かれるはずだったのだろう」


 とのことだ。


「だが、実際には首都陥落で帝国ライヒは降伏。

 基地は利用されることなく捨て置かれ、忘れ去られてしまったのだろう。

 ……千年もの間な」


 千年もあの基地で寝ていた俺とチビ助にとっては、なんとも微妙な話だ。



「だが、あの基地の物資が、千年後のこの時代で役に立つのだ。

 再び使われることになるのだから、結果的にはよかったとしておくか」


「そう考えた方がマシだな」


 どう考えてもベストとは思えないが、永久に忘れられたままよりマシだ。




 それから数日、俺とチビ助は地下秘密基地とザルツブルク王国王都の間を、何十往復もして、物資の搬出作業を行った。


 基地の場所に関しては、俺たちだけの秘密にして、レインくんたちにも教えるつもりはない。


 なので、2人だけでの作業となってしまった。



 幸いなことに俺とチビ助は空を高速で移動できる上、魔導量子ストレージを使うことで、物資の運搬をかなり楽に行うことができた。


 ただし、魔導量子ストレージに収まりきらない野戦砲の搬出作業では、野戦砲をパーツごとに分解し、砲身を俺とチビ助が2人で抱えながら、空を飛んで運ぶ羽目になった。



「今更だが、補給部隊のありがたみが分かるな」


 大戦時代であれば、鉄道に車があり、大量の物資を動かすことができたが、この時代の環境ではそうもいかない。



 早く、まともな軍隊を用意しよう。


 そう、思わされた。

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