第5章 軍隊を作ろう

39 新任将軍は、皆から嫌われている

 俺たちの王国への仕官は、無事成功した。


 就職活動としては、これ以上なく派手なパフォーマンスをしたので、ザルツブルク王国の筆頭魔法使いである爺さん――名前はローレンツ・ホーエンベルク――が、熱心に国王を説得してくれたおかげだ。



「ぜひとも我が師には、筆頭宮廷魔法使いとして、この国の未来のために采配を振るっていただきとうございます」


 爺さんはそう言ってきたが、俺は魔法使いとしては、そこまで熱心ではない。

 千年前に師匠の下でイヤイヤ前時代魔法オールドを教え込まれた以外では、現代魔法モデムを使っての戦争しかしていない。


 戦争で使える魔法以外は、まったく興味がないので、壊して殺す以外に出来ることがない。



 なので、適当に軍の将軍職の一つを、老王から頂戴しておいた。


「こ、これほど心強い味方は他におらん。

 どうか、その力を敵国へと向けて欲しい。

 間違っても、我が国にだけは向けないでもらいたい。

 お願いします、絶対に味方には使わないで!」


 将軍職の任免は国王直々だったが、俺の前で咽び泣きながら老王が懇願してきた。


 ここはひとつ、安心させておかないとダメだな。


「ハッ、陛下の敵となる者は、尽く滅ぼし尽くしてごらんに入れます。

 敵ばかりか、味方であっても、ただ1人として、陛下に反意を抱く事すらなくなるでしょう」


「う、うむっ、心強い言葉だ……」


 なぜか老王の視線が明後日の方向を向いて、俺と目を合わせようとしなかった。

 それでも、俺の将軍就任はつつがなく行われた。




 でもさー、その後行われた将軍就任の式典は、絵にならなかったと思う。



 仕官する際に使用した創世魔法のせいで、俺の髪の毛先が魔力結晶化してしまった。

 あの後、チビ助に散髪してもらったが、髪が相当短くなっていた。


「ププッ、色男に磨きがかかっているぞ、戦友」


「ウルセー、こっち見るな!」


 散髪された後に鏡を見たが、ちょっと泣きたくなった。


 それからたいして日がたたずに将軍就任の式典が行われたので、俺は随分間抜けな面をして、式典に臨んだことだろう。


「忘れてしまいたい歴史だ」


 あの式典には、国の重鎮を始めとする多くの参列者がいたが、皆強張った顔をして並んでいた。

 国王がいる荘厳な儀式の場だったので、きっと俺の間抜け面を見て笑い転げないよう、必死に我慢していたのだろう。



「イヤなことは、酒でも飲んでさっさと忘れるか」




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




 ところで酒を飲んだら、夜中に暗殺者に襲われた。


 室内で襲われたので、魔導ライフルでなく拳銃をぶっ放して始末した。

 魔導ライフルだと、狭い場所での取り回しが悪いので、拳銃の方が役に立つ。


「戦友、どうして眉間を打ち抜いた。生かしておけば、背後関係を聞き出すことができたのに」


「ごめんごめん。でも、暗殺者なんて、たいしたこと知らされずに来るのが相場だから、これでよくないか?」


 まったくもって迷惑だ。

 チビ助に怒られてしまったじゃないか。


「それに生かして尋問しても、チビ助の尋問だろ。

 暗殺者が何かしゃべる前に、出血死で終わるだろ」


「否定はできんな」


 俺もチビ助も、尋問なんてまともにできない。

 以前やった山賊は、最終的に酷い姿になったので、やるだけ時間の無駄だ。



 それにしても高位魔法使い相手に戦う場合、暗殺者を使うというチープな手段があるが、こんな古典的な手を取ってくるとは思わなかった。





 そして翌日の朝食には、毒を盛られた。


 だが、俺とチビ助の所有する演算結晶は、毒物の検出が可能なので、問題なくスルー出来た。


 大戦時代には祖国の英雄扱いされた俺だが、目立つということは、暗殺の対象にもなる。


 毒物関係で暗殺されたらシャレにならないので、俺とチビ助の演算結晶には、毒物検出の魔法が装備されている。



「そこのメイドのお姉さんも、一緒に食事をどうかな?」


 ところで、俺の朝食を持ってきたメイドさんを誘ってみる。


「申し訳ございませんが、私はただの使用人です。食事の席を共にするわけにはまいりません」


「ああ、これはお願いじゃなくて、命令だ。この食事をお前が食べろ」


「ヒィッ」


 睨みながら命令すると、メイドさんが腰を抜かして床に座り込んでしまった。



「も、申し訳ありません、この子が何か非礼を犯したでしょうか?」


 メイドの上役と言えばメイド長かな?

 年増の中年メイド長が出てきたが、彼女のことは無視する。


「さあ、食べてごらん。ただの食事だから、何も問題ないよ?」


「ヒィッ、や、止めて、私は死にたくない!」


「ビンゴか」


 俺は毒の事は口にしてないのに、死ぬなんて言う。

 メイドが自白してくれたら、早速チビ助先生がやってきた。


「貴様には聞きたいことがある。質問に答えることができなければ、手足がなくなるので、知っていることは早急に話した方がいいぞ」


「そうだな。でも、ここは場所が悪いから、ちょっと移動しようか」


 俺は好きじゃないが、尋問が決定だ。


 このメイドは既に敵確定なので、俺はメイドの髪を乱暴に掴んで、その場から引きずっていく。


「ギャアアアーッ!」


 髪を掴んで体ごと引っ張るので、メイドが叫び声をあげるが、そんなものはお構いなしだ。


「や、止めて、知っていることは何でも話す。話します。だからお願い、私は死にたくない!」


 せっかくの朝食の場なのに、メイドが大声で悲鳴を上げ続ける。


 その場にいる使用人の皆様方が、青い顔して固まっているけど、無視して俺とチビ助は、メイドを連れて場所を移した。



「兄さん」


「僕たちも、ついてかないとダメだよな」


 あと、俺たちの教育効果が出てきたようで、レインくんとレイナちゃんも、ついてきてくれた。



 なお、その後チビ助先生の尋問を経るまでもなく、メイドが背後関係を話してくれた。


 なんとかって貴族の指示で、俺とチビ助の毒殺を企んだそうだ。



 なのでお返しで、その日の午後に問題の貴族の頭を、魔導ライフルで吹き飛ばしておいた。


 護衛の騎士だなんだがいたが、初手で問題の貴族の頭を吹き飛ばせば、それでおしまいだ。


「この男は、国王陛下より直々に将軍に任じられた、アルヴィス・ガイスター閣下の毒殺を狙った謀反人である。

 国家反逆の謀反人は処刑が決まりである」


 貴族を殺した後、チビ助がそう啖呵を切ったものの、貴族の護衛騎士たちが怒り狂って俺たちに剣を向けてきた。


 まあ、剣で向かってこられたところで、こっちは魔導ライフルを装備しているので相手にならない。

 ほんの10人ほどの騎士を、追加で射殺することになった。





 しかし、俺は大戦時代には英雄と呼ばれたのに、酷い扱いをされているな。


 この国の連中には、創世魔法を実演してみせたことで、有用性を示したつもりだが酷いものだ。



「神の意志に反する悪魔を滅ぼせ。この世に顕現した魔王に、裁きの鉄槌を下すのだ!」



 しかも、この国の連中は、俺のことを受け入れてくれないらしい。


 後日街を歩いていると、今度は宗教関係者からこんな罵倒をされてしまった。


「死ね、悪魔」


「世界を滅ぼす、悪の魔王め」


「聖戦だ、この戦いは神の御意志によるものである!」


 などなど、そんなことを叫ぶ連中に襲われてしまった。



 相手は100人くらい。


 教会騎士と呼ばれる、鎧兜に長剣で武装した騎士を筆頭に、ナイフや剣で武装した者。

 その後ろには、棒切れなんかを持った連中までいた。


 武器が足りなくて棒を持ってきたのだろうが、これは一体なんだ?



「ただの暴徒だな。鎮圧する」


「了解」


 俺とチビ助、それにレインくんとレイナちゃんの4人しかいないが、こちらは正規の戦略魔導歩兵が2人と、見習いが2人。


 常に肌身離さず装備している演算結晶を介して、現代魔法モデムを使えば、空中に浮かび上がることができる。


「卑怯な、空を飛んで逃げるな!」


「地上に降りてきて、正々堂々と戦え、悪魔ども!」


「おのれ、悪魔どもが。神の兵である我々を頭上から見下すなど、あってはならぬことだ!」


 地上にいる連中が叫び声をあげるが、無視だ。



「暴徒の鎮圧を開始する。各機攻撃を開始せよ」


「「「了解」」」


 チビ助の命令一下、俺たち4人は武器の照準を定めて、地上の連中を射殺していった。


 俺とチビ助は魔導ライフル。

 見習いのレインくんたちは、通常のライフルだ。


 相手は人間だが、躊躇わずに命令を実行に移すようになったレインくんたち。

 以前より成長した姿を見られて、嬉しいな。


「ギャアアアー」


「う、腕が、俺の腕がない!」


「司教様が!司教様が頭から血を流して、お亡くなりになられたー!」


 地上の連中は悲鳴を上げて逃げようとするが、逃げる前に続けて射殺していく。


 まだまだ教育の途中だが、教え子たちの成長が見れて、今日の俺は嬉しい。



 結果、地上にいた暴徒たちは、大半が死亡。

 取り逃がしが多少あったものの、これで俺たちにバカな真似をする連中はいなくなっただろう。

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