38 王国への恐喝仕官

「ただいま」


 空から落下しながら、創世魔法”滅びの為の滅び”を使った俺。

 その後、再び飛行魔法を使って、王宮の謁見の間へ戻った。


 戻ってくると、俺の存在に気づくことなく、跪いて泣き喚いている人間が大量にいたが、そういうのは相手にせず、ツカツカ歩いていく。



「帰ってきたか、戦友」


「空の上はメチャクチャ寒かった。できればもう2度としたくないな」


 酸素が薄くて、氷点下の世界はもうこりごりだ。



 おまけに創世魔法で、普段使うことがない魔力を使った影響で、着ていた黒ローブが白い結晶と化している。


 高密度の魔力にさらされた物質が、魔力結晶化する現象があるのだが、それが起きている。


 さっきまでの柔らかな布の感触はゼロで、力を籠めればそのまま砕け散ってしまいそうだ。

 そうすると俺は全裸になってしまうので、下手に力を入れて、結晶化したローブを砕くわけにはいかない。



 それと違和感が髪にあったので、毛先に触れてみる。


 物凄くゴツゴツして、固くなっていた。


「ていっ」


 試しに引き抜いてみると、俺の髪の毛が、白く結晶化していた。

 これも魔力結晶になっている。



「なあチビ助、今の俺ってどんな見た目だ?」


「髪の毛の先が白く結晶化している。ただし、根元から完全に結晶化していないから、安心していいぞ」


「そっか。なら散髪しても、禿にならずに済むな」


「もっとも、ひどい髪形になるだろうがな」


「うわーっ」


 威力を絞ったうえで創世魔法を使ったが、この魔法を使うためには膨大な魔力を使わなければならない。

 範囲をさらに広げることもできるが、そうすれば俺の体全てが、魔力結晶になりかねない。


 始まりの魔法使いも、”滅びの為の滅び”を使って自分の体を砕いているので、俺も同じことになりかねない。



 ところで、俺はチビ助と話し合っているが、周囲は阿鼻叫喚の状況。

 大戦時の戦場に比べれば大したことはないが、皆大泣きしたり、狂った叫び声を出している。


「チビ助、この状況どうするんだ?

 事前の打ち合わせ通りにしたが、正気な人間がいないぞ」


「そうだな。私もここまでになるとは思っていなかった。

 戦友の魔法を、少し甘く見ていたようだ」


 今回はチビ助の考え通りにいかず失敗か?

 まあ、死ぬわけじゃないので、このくらいの失敗なら問題ないだろう。


 この後どうしようかと俺とチビ助は考えるが、いい案が浮かばない。



「い、偉大なる魔導の王よ。大賢者グランドマスターアルヴィス・ガイスター様」


 そんな風に悩んでいたら、王の横にいた老人が、俺の前に泣きながら跪いてきた。


「なにとぞ、偉大なる魔法使いである、あなた様の弟子にしていただきとうございます。

 我が命、富と財、経験、知識、あらゆるもの差し出しますので、あなた様の弟子にしていただけませんでしょうか」


 いい年した爺さんが、額を床にこすりつけたまま俺に懇願してきた。



 こういうのを知っている。


「爺さん、悪魔に魂を売るって知ってるか?」


「はい。魔法使いであれば、我が命を差し出してでも、魔法の深淵を覗くのは当然の事でございます」


 俺が生まれ育った大賢者の塔の魔法使いに、こういうマッドな人間がいた。

 トップである師匠からして、千年以上生きているマッドだったので、類が友を呼んだ結果、同族が集まってきたのだろう。


 そんな魔法使いたちと、目の前の爺さんはそっくりだ。



「そっか。命を差し出す覚悟もあるのか。

 ところで爺さんは、この国では偉いのか?」


「王の助言役を行っております。

 そして、この国の宮廷魔法使いの頂点に立ち、賢者の称号をあたえられております。

 もっとも、無能非才な私など、アルヴィス・ガイスター様の前では、ただの塵芥の魔法使いに過ぎませぬ」


「そうかそうかー」


 いまだに床に額をこすりつけたままの爺さん。

 なんだか自虐が入っているが、マッドな連中は、相手が自分よりも優れていると理解すると、途端に自分を貶めて、相手の関心を買うことに必死になる傾向がある。


「じゃあさ、俺とチビ助。あと後ろにいる俺の弟子たち。

 俺たち4人を、この国で雇ってくれ」


「ハッ、そのようなこと容易でございます。直ちに、王にその旨を認めさせます!」


 爺さんはガバッと起き上がると、鼻息を荒くして老王の方へ大股で歩いていく。


「王、王よ。我が師、アルヴィス・ガイスター様のご希望にて、ガイスター様御一行をこの国の宮廷魔法使い筆頭として迎え入れるのです。

 王、王よ、私の話を聞いておりますかな!?」


 じいさんが老王の両肩を掴んでガクガク揺するが、老王は泣きながらションベンを垂らしていて、目の焦点が合ってない。


 ありゃ、ダメだ。

 しばらく王様は正気に戻らないな。



「なあチビ助、これでなんとかなるよな?」


「うむ。どうやらあのジジイは、この国ではかなり重要なポジションのようだ。我らが国に仕官することに、問題あるまい」


「そっか、なら結果オーライだな」


「ああ。ただし、老王が正気に戻ってからだがな」


「それもそうか」


 ポックリ逝きかけている感じの老王だが、この後なんとか正気に戻り、俺たち4人を雇うことを認めてくれた。



 もちろん、円滑な説得のために、こう言うのも忘れてない。


「あの魔法を、王都に落とされたくないだろう?」


 俺が笑顔で言うと、老王は1も2もなく頷いて、快く迎え入れてくれた。



「王様を脅迫している」


「こんなの絶対に間違っている」


 なぜかレインくんとレイナちゃんが胃の辺りを抑えていたが、なーに、結果良ければすべて問題なしだ。


 現に、チビ助も笑っているからな。


 ハハハッ。

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