第4章 王国への仕官

33 魔法使いの伝説

「ちょうどいい機会だから、魔法使いの伝説を話しておこう」


 戦場を後にした俺たち4人は、空を飛びながら、この国の王都を目指している。


 ただ、王都までは簡単な座学をするだけの暇があった。



「これは俺の魔法の師匠が言っていた話だけどな……」


 そこから俺は、この世界における創造神話。つまり神と言う存在の話を始めた。


 魔法使いが定義する、この世界の創造神。

 それは始まりの魔法使いとされている。


 始まりの魔法使いは、創世魔法と呼ばれる神代の魔法を用いることで、自らの体を砕き、それを元にしてこの世界を作り上げた。


 始まりの魔法使いが用いた創世魔法は、3つの魔法からなり、それは”創造の為の破壊”、”破壊の為の破壊”、”創造の為の創造”から成り立っていた。



「俺の師匠は、千年以上生きた大賢者グランドマスターで、魔導王と呼ばれていた。

 創世魔法を研究し、究極的には創世魔法を使うことで、争いのない世界を作り出すことを目的にしていた」


「師匠の師匠。魔導王って、凄い人なんですね」


 レインくんが感心の声を上げるが、俺は首を横に振る。


「いや、あの人の事だから、どうせ世界諸共自分自身まで消し去って、誰もいなくなった世界こそが、争いのない世界と考えていたと思うぞ。

 大賢者グランドマスターなんてのは、どいつもこいつも性格破綻者しかいないからな」


「……」


「俺とチビ助を見れば、よく分かるだろう」


「あ、はい。そうですね……」


 俺の師匠も、頭のイカレタ人間だった。



「もちろん、師匠も俺たちと同じで大量殺戮者だ。

 千年以上生きている間に、どれだけ殺したかは知らないが、1万人は軽く超えているだろうな。

 一時期は自分の国を作って、生贄の儀式もしていたらしいし」


「「……」」


 レインくんとレイナちゃんは、何も言わない。

 でも、顔を見ただけで何が言いたいのか分かる。


 俺の師匠のことを、完全なダメ人間と思っているな。



「安心しろ、俺も師匠の事は頭のイカレタ、ダメ人間だと思っているから」


「師匠まで、そう思っているんだ」


「物凄く酷そう……」


 俺の言葉に、レインくんとレイナちゃんが追従する。



 ちなみにチビ助は、すでに聞いたことがある話なので、興味がないようだ。



「さて、そんな師匠曰く、魔力と言うものは生物が死んだ際に体から放出され、近くにいる別の生物に吸収される性質がある。

 人が死んだときに放出される魔力の量は、他の生物が放つ魔力より多いそうだ」


「これに関しては、千年前の現代魔法モデムの研究でも、確認されていることだ。

 魔導科学による科学的根拠がある」


 俺の説明に、補足を入れるチビ助。

 補足どころか、さらにチビ助が説明の続きをする。



「そして死体から放出された魔力だが、これは周囲にいる生き物の中でも、特に魔力量の多い生き物に、吸収されやすい性質を持っている。

 古来より、戦争や疫病、飢餓などで大量の死者が発生すると、その周辺に魔法使いが生まれることが多い。場合によって、高位魔法使いが誕生することもある」



 チビ助の次は、再び俺の番だ。


「ところで魔力量の多い人間に、死者の魔力が集まりやすい現象だが、これに関しては魔法使いの伝説がある。

 師匠曰く、世界を創造した始まりの魔法使いだが、彼は世界を作り出すために世界中を魔力で満たしたが、その魔力は再び一つに戻ろうとする性質を持っているそうだ」


 俺は、レインくんとレイナちゃんの方を見て、ここからは真面目に聞けと意思表示をしておく。



「魔力は再び一つに集まろうとする。

 全てが始まりの魔法使いから始まったから、再び元の場所に戻ろうとするかのようにな。

 そして、この影響を特に強く受けるのが高位魔法使い。

 大賢者グランドマスターは、その最たるものだ」


 俺はレインくんとレイナちゃんの様子を、よく見ておく。


「さて、ここまで話せば一つの考えに思い至る。

 魔力はひとつに戻りたい。

 死んだ人間の魔力は、高位魔法使いに集まりやすい性質を持つ。

 そうなると高位魔法使いはもとより、大賢者グランドマスターと呼ばれる人間の形をした化け物は、自分の魔力をさらに増大させるために、自然と人間を殺すようになるんだ」


「師匠?」


 レインくんが不思議そうな顔をしているが、俺は話を続ける。



「これはあくまでも伝説だ。

 ただし、大賢者グランドマスターだった俺の師匠は、歴史を通して殺戮を行ってきた魔法使いだ。

 他にも歴史に名を遺す大賢者たちは、大なり小なり殺戮を行っている。

 俺とチビ助も、大量殺戮をやっている側の魔法使いだ。

 たまに聖人面して、死病に侵された人間たちの面倒をみる奴もいるが、奴らも死の溢れる場所に自然と身を置いている」


 俺は一呼吸おいて、レインくんとレイナちゃんの目を見た。

 口の端が自然と曲がって、今の自分が笑っているのを自覚できる。


「いいか、高位魔法使いは、本能的に死と殺戮を求める。

 大賢者グランドマスターともなれば、その本能が自分の生き様になる。

 レインくんとレイナちゃんも、賢者マスターに匹敵する魔力を保持しているからには、知らず知らずの内に、この本能に突き動かされていくようになる」


 それはつまり、殺戮をしていくことに、何の不満も不安も抱かなくなるという事。




 これが、魔法使いにおける伝説だ。


 程度の低い凡俗な魔法使いであれば、魔法使いとしての本能が発現することはないだろう。

 だが、大規模魔法を行使できる高位魔法使いになれば、確実に殺戮の本能に突き動かされるようになる。

 大賢者グランドマスターは、人の形をした化け物である以上、殺戮を自らの生きざまにしてしまう。




「君たち2人は、俺やチビ助、あるいは師匠と同じ側に立つ魔法使いだ。

 今は違和感があっても、いずれこの領域にたどり着く。

 そのことを覚えておくといい」

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