第3章 戦争???

27 「戦争に行かないか?」「OK、もちろん行きます」

 とある日の事、


「戦争に行かないか?」


 と、イェーガー男爵から誘われた。


「OK、もちろん行きます」


 が、俺の答えだ。



 俺だけでなく、戦争狂のチビ助も、もちろん同意。

 レインくんとレイナちゃんは、俺たちに自動的に同行なので、2人の意思は関係ない。




「ワシの寄子であるヘーゲル騎士爵が、隣接しているワイグナー騎士爵との間で、領土をめぐる争いになったのだ。

 だが、事は騎士爵家同士の問題で収まらず、ワイグナー騎士爵の寄親である、ゲイル男爵が軍を出してきた。

 相手が男爵家となれば、ヘーゲル騎士爵の寄親である、ワシも無視するわけにはいかない。

 ワシが直々に軍を出して、事態収拾にあたることにしたのだ」


 以下、ナンタラカンタラ。



 俺としては戦争ができればそれでいいので、特に聞いていない。



「一つ質問をよろしいかな、男爵?」


「何かな、リゼ殿?」


「ゲイル男爵とワイグナー騎士爵だが、その貴族たちは、この国とは別の国に所属している貴族なのかな?」


「いいや、どちらも同じザルツブルク王国の貴族だ。

 とはいえ、同じ王国貴族であっても、領土で揉めるのはよくあることだ。

 その際戦争で片を付けるのが、貴族の流儀だ」


「ふむ、なるほど」


 難しい話はチビ助に丸投げ。

 俺は傍で、ウンウンと適当に頷いて、話を聞いているふりだけした。



 そうして男爵の前を辞して、俺とチビ助だけになる。


「戦友、この戦いだが私たちが思っている戦争とは、かなり違ったものになるぞ」


「戦争って言えば、普通は国家同士が派手に銃火器を撃ち合って、前進も後退もできないまま、延々と塹壕戦をやるものだよな」


「ああ、我々が経験した大戦はそうだった。だが、そんな高度な戦いは起らない。それどころか、たいした人死も出ないだろうな」


「?」


 戦争であまり人が死なない?

 まったく理解できない言葉だ。


 俺は首をかしげる。



 俺が疑問を抱いている間に、チビ助は空を仰いで溜息をついた。


「それにしても、同じ国の貴族同士でも揉め事を起こしているとは。

 どうやらこの国は、まともな中央集権体制を確立できていないようだ。

 ここが千年後で、帝国の民の末裔が住む場所なのが信じられん」


 難しいことを考えているようだが、俺は戦争ができればそれでいい。

 難しいことを考えるのは、チビ助の担当だからな。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




 それから数日後、男爵が招集した軍と共に、俺たちは問題になっているヘーゲル騎士爵が治める領地へ行軍を開始した。


 行軍と言うが、俺の知っている行軍ではなかった。



「今回の戦で手柄を上げて、男爵様の目に留まる働きをしてみせよう」


「何言ってやがるんだ、お前が男爵様の目に留まる戦働きなんてできるわけないだろ。せいぜい、敵の1人に勝てればいいくらいだ」


「ワハハ、違いねえ。それでも久々の戦だ。血が滾って、興奮を抑えることができんぞ」


 集まっている兵士たちは、好き勝手にぺちゃくちゃおしゃべりしている始末で、隊列と呼べるほど整然とした列を組んでいない。

 みんな好き勝手に集まって、同じ方向に向かって歩いているだけの集団だ。



 おまけに、集まったのは兵士だけではない。


「そこの兄さん、この果物買わないか。ここらでは取れない、珍しい果物だよ?」


「そこの騎士様、滾られるようなら今夜私といかが?お安くしておきますよ。何なら、今からでもいいですけれど」


「おらぁ、領主様に呼ばれてきただけの農民だ。

 数合わせでついて来いって言われたんだけど……」


 兵士でなく、商人に娼婦、果てはただの農民までいる。



 そんな連中が、ダラダラと行軍の列に加わっている。


 商人は商品を満載した馬車に乗り、娼婦は馬車の中にいる。

 呼ばれてきただけの農民は歩きだが、武器として持っているのはただの鍬だ。

 それも金属製ですらない、木製だ。



「なんだこれは?これが軍隊?これが行軍だと?」



 間違っても、これを軍隊などと呼んではいけない。

 そして、軍人の集まりでもない。


「ただのサーカスのパレードだろ。それとも、祭りの行列か?」



 この集団を見て、俺はこいつらを撃ち殺したくなった。

 大戦末期の帝国軍は、戦闘訓練をろくにされていない素人ばかりの集まりと化していたが、そんな軍隊でもこの集団よりはましだった。


 自分の命が掛っている戦いに、誰もが悲壮な表情をし、ゲラゲラ笑いながらの行軍なんてするわけがなかった。


 なのに、ここにいる連中には、そんなものは微塵もない。


 熟練の軍人が、新兵の緊張を抜くために笑いとばすのはいい。

 だが、行軍中にダラダラしゃべる兵士がいれば、そいつは懲罰房送りにしてやる。



「し、師匠、抑えてください」


「ダメ、絶対にダメです」


 俺が本当に撃ち殺そうとしたから、レインくんとレイナちゃんに、2人がかりで止められてしまった。


「グヌヌヌッ」


 でも、許せない。

 この兵士未満の問題児の集まりが、軍人として許せないのだ!



 これでも俺は、元帝国軍の大佐だった男だぞ。

 実務のほとんどをチビ助に投げていたとはいえ、戦略魔導歩兵部隊を、かつては率いていたんだぞ!

 こんな程度の低い兵士がいれば、懲罰どころか、今すぐうち殺してやる!



「戦友、あまりカッカするな。

 この時代の戦争など、どうせこの程度の集まりでしかないのだ。

 まさに、中世の軍隊だな」


 俺は怒りのゲージがMAX。

 なのに、チビ助は平然としていた。


 いや、汚い蛆虫どもを見下すような冷たい目をして、兵士もどきの連中を見ている。



 だが、納得できない。


「おい、いつものチビ助だったら、素行不良の兵士は俺より先に問答無用で処罰しているよな。

 こんな連中なら、見せしめに何人か撃ち殺して、規律を教え込んでいるだろ」


 俺の言葉に、レインくんとレイナちゃんが、青い顔になって震えるが、そんなのは無視だ。


「生憎、私は戦友と違って、最初からこの時代の軍隊に期待を持っていなかった。

 期待していなかったものが出てきたので、さして落胆してないだけだよ」


「そうか……」


 どうやらかつての帝国軍みたいな軍隊を、俺はこの時代の軍隊に期待していたのだろう。

 だが、現実が思っていたのと違ったせいで、冷静になれていないのか。


 少し、頭を冷やさないといけないな。




 そんな俺の前で、チビ助は相変わらず冷たい目をしたまま言った。


「どうせ戦争になれば、我々がオママゴトと本物の違いを、この猿どもに教え込んでやる。

 今だけ、能天気にしていればいいさ。クククッ」



 あれ?

 俺より冷静と思っていたチビ助だが、俺よりキレてないか?


 どす黒いオーラを出してるぞ。



 その姿に、レインくんとレイナちゃんが、全力で逃げたそうにする。

 もちろんここで逃げれば、敵前逃亡未遂を理由にして、俺とチビ助によって酷い目に合うコースだ。

 銃殺はしないから大丈夫だ。

 でも、魔法使いの頑丈な体でも、1、2日は、足腰立たない状態になるだろう。



 それはともかく。


「なんだかチビ助の姿を見てたら安心してきたな。

 そっか、本物の戦争ができるなら、何も問題ないな」


「ククッ、そうだろう」


 俺は安堵から笑顔になり、チビ助も嬉しそうに笑う。


 まあ、チビ助の嬉しそうというのは、蛆虫どもを焼却して喜ぶ類の笑いだ。



 俺たちは、アハハ、ククッと、2人で楽しく笑い合った。



「ヒイイッ、絶対にろくなことが起こらない」


「私たち、どうしてこんな人たちに気に入られちゃったの」


 俺とチビ助は、これから先のことを楽しみにしているが、レインくんとレイナちゃんは頭を抱えていた。

 何か思い悩むことがあるのかな?


 あんまりストレス抱え込んでいると、頭が禿げるぞ。

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