26 魔法使いのランク分け

 レインくんたちへの座学の一環として、魔法使いのランクについて説明した。



 魔法使いは、保有魔力量に応じてランク分けがされている。


 一番下が魔力なしヌルで、言葉そのまま、魔力を全く保有していない人間のことをさす。


 この上に来るのが、見習いアインス

 魔力を持っているが、魔法を使えないただの魔力持ちだ。


 この上が、初球魔法使いツヴァイ

 火の玉や光の玉を出したりと、初球の魔法が使える。

 と言っても、普段の生活がちょっと便利になる程度の魔法しか使えない。

 このクラスの魔法使いであれば、小さな村でも何人かいる。


 少なくとも千年前の世界では、そうだった。



 そしてこの上に、中級魔法使いドライ上級魔法使いフィーア一流魔法使いフンフと続いていく。

 このくらいになって、ようやく攻撃系の魔法を使用することができ、上に行くほど攻撃力の高い魔法を使える。

 あるいは、攻撃以外にも土木建築や回復魔法などもある。



 ただし、ここまでのレベルは、ただの魔法使いでしかない。

 千年前であれば、世の中に吐いて捨てるほどいる低レベルの魔法使いたちで、魔導科学が発達していたあの時代では、戦場で役に立たないレベルの魔法しか使えない。


 魔法を使うなら、ライフルの引き金を引いて人を殺した方が早く、手投げ弾を放り投げた方が、手早く多くの敵兵を殺傷することができる。


 魔法と共に、魔力を必要としない科学も発達していたため、あの時代の戦争では、このレベルの魔法使いは、完全に戦力外となっていた。


 魔法でなく、ライフルと手投げ弾を渡して戦わせた方が、圧倒的に役に立つ。



 この上に来るのが、魔術師メイジ級。

 この段階にきて、ようやく飛行魔法が使用可能になる。

 戦略魔導歩兵となるためには、魔力量の関係から、最低でもこのランクより上でないとなれない。


 このレベルの魔法使いになると、千年前でもそれなりに貴重な存在になる。

 一般に高位魔法使いと呼ばれるのは、空を飛ぶことができる魔法使いとされ、このランクから上の魔法使いの事をさすことが多い。

 だが、実際の魔法使いの中では、中位魔法使いと言った方が正確だ。



「大戦時に帝国ライヒが保有していた戦略魔導歩兵の数は、おおよそ2500。

 数千万の人口を抱えていた帝国でも、この程度の数しか存在しなかったことが、戦略魔導歩兵の貴重さを物語るな」


 そう付け加えて説明するのは、チビ助改め、幼女先生のリゼ先生だ。


「むろん、全ての中位魔法使いが戦略魔導歩兵になったわけではない。

 だが、中位魔法使いの時点で、既に貴重な存在なのだ」


 チビ助先生は、座学の一環としてレインくんたちに、そう教えた。



 この魔術師メイジ級の上には、上級魔術師アークメイジ級がくる。


 単純に魔術師メイジより保有魔力量が多いだけの違いしかないが、魔力量の差が明確に違うので、区別されて呼ばれている。



 そしてこの上に、魔導士ウィザード級がくる。


 魔導士ウィザード級になると、下位戦術級の大規模破壊魔法が使用可能で、早い話が大量殺戮できる魔法を使える。


 単体で戦局を覆すことができる魔法を使えるため、近代までの戦争では、強力な存在だった。

 あくまでも、昔は強力だった、だ。


 これと同時に、魔力量の関係から、老化が普通の人間より遅くなる。

 百年以上生きている魔法使いは、魔導士ウィザード級以上の魔法使いで確定だ。



 この上に、上級魔導士アークウィザード級がくる。


 上位戦術級の大規模破壊魔法の使用が可能で、1人いるだけで、中世までの戦争であれば、片が付いくほどの魔力を持つ。



 大規模破壊魔法は戦局を変えるばかりか、下手すれば戦争の決着自体ついてしまう。

 魔導士ウィザード級以上の魔法使いは、その多くが大量虐殺者として歴史に名を残しており、高位の魔法使いとは、死とともにある存在と呼ばれた。


 真に高位の魔法使いは、大規模破壊魔法を扱える、魔導士ウィザードから上の魔法使いとなる。




 この上に来るのが、賢者マスター級。


 百年に1人と言われる魔力量を有し、老化が完全に止まっている不老の存在だ。

 魔力の関係から、体の耐久性も異常で、心臓や首を刎ねても、頭だけで生きている場合がある。

 おまけに上位戦術級の大規模破壊魔法を、複数回行使可能。


 高位魔法使いは、いずれも人間の形をした化け物だが、化け物の中の化け物が、賢者となる。

 そして賢者マスタークラスになると、歴史上の扱いが魔王認定される有様だ。


 何しろ、賢者マスタークラスの人間で、大量虐殺をやらかしていない者は、まずいないので仕方ない。




 そんな賢者マスターより上に位置する、真正の化け物が大賢者グランドマスター


 魔法使いの最高位に位置する存在で、数世紀に1人と言われる魔力量の持ち主だ。


 その魔力量は測定することができず、完全なる人外の化け物。

 存在しているだけで、周囲に死を振り撒き、歴史上では大魔王様扱いされる。






「この大賢者グランドマスターが、俺とチビ助だけどな」



 ちょっと遊び心を込めて、レインくんとレイナちゃんにウインクしてみせる。


「「……」」


 だけど、2人とも無言だ。


「不老ってことは、師匠とリゼ先生は、死なないんですか?」


 しばらく沈黙があったが、再起動したレイナちゃんが質問してきた。


「年を取らないので、寿命による死はない。

 だが、怪我などで死ぬ可能性はある。

 といっても、体を全て木っ端微塵に吹き飛ばすくらいする必要があるがな」


「それって、本物の不老不死ですよ」


 レインくんに、そんな風に言われてしまった。


 でも、チビ助も俺も、それは違うと笑う。


「いいや、千年前の大戦では、百年どころか千年以上生きてきた、賢者マスター大賢者グランドマスターも、その多くが死んだ。

 爆薬で体を吹き飛ばされれば、跡形なく消滅だ」


「そうそう、敵国の高位魔法使いの多くは、俺とチビ助が殺しまくったからな」


 俺とチビ助は、祖国にとって英雄だ。

 殺して回った人数もあるが、それだけでなく、敵の大火力である高位魔法使いを、大量に殺して回った実績があるからだ。


「大規模破壊魔法を使える高位魔法使いは、長い詠唱を戦場のど真ん中で続けなければならない。

 魔法が発動すれば、戦線に穴を開けられるほどの被害が出るが、詠唱している間に、空から襲撃して殺せば、それでおしまいだからな」



 大戦初期までは、大規模破壊魔法が戦場に与える影響は巨大だった。


 だが、俺とチビ助が、敵の高位魔法使いが長い詠唱をしている間に、空から率先して殺していったことで、大規模破壊魔法の優位性が崩れた。

 いくら巨大な火力でも、撃たれる前に術者を殺してしまえばいい。


 高位魔法使いの周辺は、専門に守る部隊が存在して、防御が固かったが、その防御を食い破って、高位魔法使いを殺せばいいだけだ。



「もっとも、その後は敵国も同じ方法で、帝国ライヒの高位魔法使いを次々に殺していってね。

 戦略魔導歩兵部隊に玉砕命令を出して、死なば諸共で、帝国の高位魔法使いたちを爆殺していったせいで、そのほとんど殺されたよ」


 高位魔法使いが戦場で与える影響力が大きいため、彼らの多くは戦場に駆り出された。

 だがその結果、帝国と敵国の高位魔法使いたちは、ほぼ全てが死亡。


 帝国でも敵国でも、戦略魔導歩兵は貴重な戦力だが、それ以上に補充のきかない戦力が、大規模破壊魔法を使える高位魔法使いだった。

 戦略魔導歩兵の部隊を交換にしてでも、高位魔法使いを1人潰せれば、お釣りがくる。


 あのレベルの魔法使いは、世界中でも百年に数人しか出てこない。

 まして、賢者マスター以上の魔法使いとなれば、百年に一度レベルの超貴重存在だ。


 死んでしまえば、補充の効くものでなかった。




「結果的に大規模破壊魔法を使える魔法使いが死に絶えてしまい、戦場で大規模破壊魔法が与える脅威が低下した。

 もっとも、高位魔法使いを戦場に出すくらいなら、野戦砲を10問揃えたほうがマシだな」


 クツクツとチビ助が笑う。


 悪い顔をしているが、それが大戦における教訓だ。


 高位魔法使いは貴重で補充が効かない。

 でも、野戦砲は高価でも補充が効くし、10門もあれば、下位戦術級の大規模破壊魔法に匹敵する破壊力を生み出せた。



 寒村で生まれ育ったレインくんたちは、野戦砲に関しては理解できてないようだが、


「簡単に言えば、小型の大規模破壊魔法と思えばいい。

 野戦砲は1発撃つだけで地面に大穴が開き、敵兵を纏めて数人、数十人と吹き飛ばせる」


 と、チビ助が簡単に説明した。






 それと、魔力量に関する話の続きがある。


「レインくんとレイナちゃんだけど、2人は少なく見積もっても、上級魔導士アークウィザード級、ひょっとすると賢者マスター級の魔力量を持っている」


 こけが俺とチビ助の見立てだ。


上級魔導士アークウィザード!?」


「それって、今の話に出てきた大規模破壊魔法を使えるって言う……」


「その通りだ。

 もっとも、大規模破壊魔法など、長ったらしい詠唱を戦場のど真ん中で、突っ立った状態で続けねばならん。

 あんな木偶の技を覚えても、使い道などない。貴様らには、戦略魔導歩兵としての訓練を続ける!」


「「はい、分かりました!」」


 チビ助が睨みつけると、レインくんとレイナちゃんは姿勢を正した。



「ただ、それより言いたいことがあってね。

 君たち兄妹は、そのうち成長が止まって、年を取らなくなるかもしれない」


「えっ!?」


 老化が止まってしまう。

 これは結構重大な問題だ。



賢者マスター級から上は、不老と言ったけど、ある一定まで体が成長すると、そこからまったく老化しなくなるんだ。

 普通は60や70を過ぎてから老化が止まることが多いけど、俺の場合は18から全く見た目が変わらなくなった」


「私の場合はこれだぞ!」


 俺は老化が止まるのが早すぎたが、チビ助は俺以上に、老化の止まった時期が早い。

 早すぎて、幼女から、まったく成長できなくなっている。



「俺って、これでも35歳なんだ。寝ていた千年を除けばだけど」


「35歳、全然見えないです」


「だろう」


 そしてレインくんたちの視線が、チビ助の方を向く。



「妙齢の女性の年齢を聞こうとするな。マナー違反だ」


「は、はいっ!」


 チビ助が睨むものだから、レインくんもレイナちゃんも、慌てて視線を逸らす。


「ただ、勘違いないように言っておくが、私は化け物みたいな年ではないぞ。

 100歳どころか、50も過ぎておらんからな」


「千年寝ていたのを勘定に入れなきゃ……ヘブッ」


 余計な事を口にしてしまったらしい。

 チビ助に鳩尾を殴られた。


 痛い。



「ま、まあ、君たち兄妹も、いつ成長が止まるか分からないけど、その時がいつかくると思っておいた方がいい。

 魔力は死ぬまで増え続けるから、2人なら確実に賢者マスター級まで増える」




 さて、今回の座学はこの辺りで終わりだ。


 自分たちが年を取らなくなると聞いたレインくんたちは、まだその意味をよく分かってないだろうが、そのうち理解するようになるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る