24 防殻

「師匠、次はどいつを始末しますか?」


「なんでも言ってください。たくさん殺しますから」


 レインくんとレイナちゃんが壊れた。



 前回山賊を殺させたのはいいが、その後2人でキャッキャッウフフをしたかと思えば、翌日からどんよりした暗い目をしているに、なぜか顔だけ笑っている。



 俺はチビ助の方を見て、無言で頷き合った。

 これだけで意思疎通完了だ。



「よろしい。本日は防殻の訓練を行うとしよう」


 てなわけで、本日はレインくんたち兄妹に、座学から始めることにした。



「殺しじゃないんですか?」


「安心しろ、お前たちヒヨコにはちょうどいい訓練だ」


 座学ではあるが、いつものように街の外に出て、そこで説明から始める。



「いいか、我々戦略魔導歩兵は、敵から攻撃されても自分を防御することができる、”防殻ぼうかく”を持っている。

 これは演算結晶が生み出す現代魔法モデムによるものだが、詳しい説明より、まずは実物を見た方が早いだろう」



 俺はチビ助から離れた場所に立つ。

 そしてチビ助が魔導ライフルを俺に向かって構えれば、次の瞬間引き金を引いて問答無用で撃った。


 パン、と小気味よい音がする。


「えっ!」


「リゼ先生!」


 先ほどまでイカレタ感じを出していた、レインくんたちが戸惑う。


 だけど、撃たれた俺は無傷で、その場に立っている。


「俺なら無傷だぞ」


 唖然としている2人に、笑顔で手を振る。


「いいか、これが防殻だ。

 魔導ライフルの強力な弾であっても、何発か防ぐことができる魔法の盾だ」


 パンッ。


 もう一度チビ助が、俺を撃つ。


「やっほー」


 俺は怪我一つなく、2人に笑顔を向けた。



「凄い、ライフルの銃弾が効かないなんて」


「私たちって、もしかして無敵なんじゃ」


 唖然から一転、2人が嬉しそうする。

 相変わらず、おかしな目をしたまま。



「確かに防殻は強力な盾である。

 ただし、術者が防御に集中していないと、効果が薄れてしまう。

 意識外から攻撃された場合、一撃で防殻を突破される恐れがあるので、決して万能の盾ではない」


「それに防殻は場所によって強弱があるから、うまい奴だと1発で防殻を貫通させることができる。

 俺も結構得意だけど、俺以上にチビ助は防殻破りの天才だから、1対1の撃ち合いになったら、俺でも勝てないからな」


 チビ助と俺は、防殻に関するレクチャーをした。



 ただ、今まで嬉しそうに笑っていたレインくんとレイナちゃんに、俺とチビ助も笑顔を浮かべて見返す。


「と言うことで、本日の訓練は防殻の実習。

 今からレインくんとレイナちゃんの2人は、俺たちが撃ち込むライフルに耐えて、頑張って防殻を維持しよう」


「えっ?」


「まさか、私たちが銃弾の的にならないといけないんですか!?」


「そうだよ、レイナちゃんは勘がいいな」


 理解の早いレイナちゃんに脱帽だ。

 俺は人好きのする笑みを浮かべ、レイナちゃんにライフルの銃口を向ける。


「ひえっ、そ、そんな!」


 さっきまで笑顔だったのに、レイナちゃんが及び腰になって、この場から逃げそうになる。



「大丈夫、俺もチビ助も防殻破りは得意だが、防殻の一番分厚い場所を撃つのも得意だ。

 運が悪いと死ぬこともあるが、2人が防殻の展開に集中してれば、死ぬことはない。

 ……そう、運が悪くなきゃね」


 俺は笑顔でレイナちゃんを、チビ助もレインくんに笑顔で、ライフルの銃口を向ける。


「とっとと防殻の展開に集中しろ。死にたくなければ、死ぬ気で抗え」


「う、うわあああっ」


「いやあああーっ」



 おかしくなっていたレインくんたちだけど、態度が一転。

 狩る側でいたつもりが、狩られる側に転落。


 俺とチビ助はレインくんたちを狙いながら、魔導ライフルで攻撃していく。


 もちろん、全弾命中なんてさせない。


 たまに足元や頭上を撃ってわざとはずしつつ、時に2人の体めがけてライフルを撃ち込む。


 全弾命中させるより、ハズレ弾がある方が、感情の起伏が大きくなって、より恐怖が出るそうだ。



「お前たちみたいなヒヨコが、粋がれると思うな。腐った性根を叩き直してやる!」


「レイナちゃん、さっき言ったよね。

 防殻があれば無敵だから、俺たちの攻撃くらい余裕でしのぎ切れるよねー」


「うわああーっ」


「いやああーっ」



 2人とも、いい声上げてくれる。


 命の危機に直面しないと、変に優越感に浸ったり、自分たちが無敵で万能な人間だと勘違いすることになる。


 恐怖を知らないバカは、戦場であっさり死ぬので、これも大事な訓練だ。




「……レ、レイナー」


「に、にいさーん」


 その日の夜、レインくんとレイナちゃんが2人して部屋に籠って、シクシク泣きながらお互いの無事を確認し合った。

 互いに傷だらけの子犬みたいになって、傷を舐めあう感じで仲良くしていた。


 ……うん、物凄く仲良くしていた。



「……どうでもいいけど、あの子たちなんで、あんなに仲が良すぎるんだ!?」


「人殺しの次は、死にそうな目に遭ったから、精神が変な方向に捻じれたんだろう」


「そうかー」



 戦場だと、いろんなタイプのおかしな人間に出会うので、レインくんたち兄妹も、そんな感じに育ちつつあるようだ。


 まあ、2人はまだ本物の戦場に出たことのない、ただのヒヨコだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る