22 魔王の一団

 オーク集落を壊滅させ、街へ戻ってきた俺たち。

 ただ、城壁の上にはズラリと冒険者や騎士たちが勢ぞろいし、戦闘をいつでも始められる厳戒態勢にあった。


 弓に、クロスボウ、魔法銃、果ては巨大な金属でできているゴーレムまである。


「ほう、ゴーレムか。珍しいものがあるな」


「そうだな」


 見た目は、人間の出来損ないといった形をしている。

 二足歩行で、立っているだけで3メートルを超える高さは、それなりに威圧感がある。


 ただ、俺たちのいた時代だと、ゴーレムは時代遅れの産物。

 戦車や野戦砲が存在するので、動きの鈍いゴーレムはただの的でしかなく、使い道なんてなかった。


 ただ後日知ることになるが、あれは俺たちの知るゴーレムでなく、機動騎士と呼ばれる兵器だそうだ。

 内部には人が乗って、操縦している。


 戦車の人型版と考えればいいだろう。




 ところで、俺たちが街の近くにたどり着くと、城壁上の人たちが、皆してざわついていた。


「魔王だ、魔王が現れた!」


「今までに聞いたことのない爆発音が立て続けに起こり、森で巨大な黒煙が上がったぞ」


「オークなんてレベルじゃない、俺たちは復活した魔王に滅ぼされるんだー!」


 などなど。



 爆発音も黒煙も、全部俺とチビ助が戦闘で作り出したものだ。


 炎に関しては既に鎮火しているので、燃え広がって大規模な森林火災になることはない。



「みなさーん、大丈夫です。オークは全部始末してきましたよ」


 城壁上で騒いでいる人たちに向かって、俺は片手をヒラヒラ振りながら答える。



「バカ、オークどころじゃない。魔王の復活だ!」


 安心させようとしたら、なぜか大声で怒鳴られてしまった。

 理不尽だ。



「安心しろ、あれは魔王ではない。爆音も煙も、我々の戦闘によって生じたものだ」


 チビ助がそう言うと、それまで城壁の上で騒いでいた人たちが、一斉に静かになった。



 そしてしばらくすると、


「空の大魔王、殺戮の悪魔、黒の厄災、お伽噺の魔王」


 なんて単語が混じった言葉を、みんなが話し出した。


 全部俺の2つ名だ。

 昔は敵からそう呼ばれていたので、懐かしいな。



「本当に、お前たちが……あなた方が、あれをしたのだな?」


 そんな中、城壁の上には領主であるイェーガー男爵までいた。


「そうですよ」


 俺は領主に向かって、人好きのする笑みを浮かべて答える。


「……分かった。

 まずは、オーク集落の確認に人を送る。

 魔法使い殿たちには、念のためオーク集落まで同行を願えるだろうか?」


 せっかく集落から戻ってきたばかりなのに、また戻らないといけないのか。

 二度手間になるので、面倒臭い。


「オーク集落の壊滅が確認されれば、魔法使い殿たちの功績として、ギルドから報酬を出そう」


「分かりました」


 城壁の上には、ギルドマスターまでいた。

 お金をもらえるというのなら、話は早い。


 俺は即座に180度方針転換して、オーク集落まで戻ることにした。





 その後、領主が出した騎士と冒険者が数人。

 彼らと共にオーク集落の跡地へ行き、集落の壊滅を確認してもらった。


「これはヒドイ、人間のやることじゃない」


魔獣モンスター相手とはいえ、ここまでひどい殺し方をするなんて……」


 騎士と冒険者であれば、戦いに慣れてるだろに、そんなことを言われてしまった。


 オークの焼死体に、爆破されて体がバラバラになったもの。

 頭を銃弾で吹き飛ばされて、首から上がなくなっている死体など。


 上空から爆薬を投下して、まとめて爆破した連中もいるので、体の一部すら残ってないオークもいる。



 この時代の冒険者や騎士の装備は、剣や槍、弓といった中世レベル。

 どう戦っても、オークの体を吹き飛ばしたり、バラバラにできる武器ではない。

 魔法銃の火力は高いものの、それらの武器では、俺たちがやったような戦い方はできない。


 もしかすると俺たちの戦闘は、この時代の人間にとって、見慣れたものではないかもしれない。




 ただ騎士たちの言い分を、チビ助が笑い飛ばした。


「これが酷いだと?

 笑わせるな。戦争であればこの程度のことは、当たり前。狼狽えるような事であるまい」


 ニヤリと口が裂け、とっても悪い顔だ。


「そうそう、こんなの戦場では日常茶飯事だな」


 俺もチビ助と同意見なので、ニコニコ笑顔を浮かべておいた。






 後日、冒険者ギルドから、オーク集落討伐の報奨金がもらえた。

 さらに追加で、イェーガー男爵からも報奨金をもらえた。


「魔法使い殿たちのおかげで、我が街がオークの危機にさらされることなく済んだ。

 そのことに感謝しよう」


 イェーガー男爵はそう言って、俺たちを褒めてくれた。


「なに、我々としても一般人に被害が出るのは望んでいない。当然のことをしたまでだ」


 チビ助がそう言えば、男爵はハハハと笑ってくれた。


 なぜか顔が真っ白で、笑いに元気がなかったが、街に被害が出なかったから、本当によかったな。




 それと俺たちの事だが、冒険者たちからは、陰で魔王の一団なんて呼ばれるようになった。


 俺とチビ助にとっては、昔のあだ名が増えたようなものなので、特に気にならない。



「ううっ、この人たち、本当にお伽噺の魔王だった」


「私たちまで、魔王の仲間として見られてる……」


 魔王の一団には、俺とチビ助だけでなく、レインくんとレイナちゃんも入っていた。


 レイン君は泣きそうな顔をし、レイナちゃんは胃のあたりを抑えている。



「2人とも、この程度でビビったらダメだ。

 たくさんの人から、こんな風に呼ばれるようになっても、そのうち慣れるから」


「「……」」



 俺とチビ助は、昔は祖国の英雄であり、敵国から見れば戦場の大魔王そのものだった。

 たくさんの人に褒められ、同時に憎まれたので、群衆から賛辞と殺意を向けられるのに慣れている。


 これは、俺からレインくんたち兄妹に対するアドバイスだ。



「「……」」


 なのだけど、なぜかレインくんとレイナちゃんは、まったく元気になる様子がない。


 あれ、俺のアドバイスってあまり効果がなかったか?

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