18 冒険者になってみる

 戦争がないと暇になる。

 山賊だって、どこにでもいるわけではない。


 山賊から奪った金銭はあるものの、それだけでいつまでも生活しているわけではない。



「……ということで、冒険者でもしてみるか」


 そう提案したのはチビ助。


「オー」


「分かりました」


「はい」


 レインくんとレイナちゃんは、もともと街で冒険者になる予定だったし、この時代の社会経験ができると思えば、なかなかに良い。


 ちなみに冒険者と言うのは、早い話が何でも屋で、小さな依頼だと逃げたネコや落とし物を探してくれ、街の外に行って薬草採取してくれ、なんて依頼をこなすらしい。

 他都市へ移動する商人の護衛もあれば、魔獣モンスターの討伐もやるそうだ。


「モンスター狩りか、暇つぶしには、ちょうどよさそうだ」





 と言うわけで、俺たち4人は冒険者ギルドへやってきた。


 冒険者ギルドは、顔に傷のあるオッサンや筋肉モリモリのマッチョマンたちがいて、全員が凶暴そうな人相をして、大剣や槍、ハルバートなどの武器を持っている。


 中には魔法使いっぽく魔導ライフルを……いや、違った。

 俺の勘違いで、ただの魔法銃を持った、魔法使いもいた。


 魔法銃というのは、魔導ライフルが登場する以前に活躍した銃火器で、魔法使いの詠唱をサポートし、銃口から魔法を放つことができる。

 銃火器登場以前の魔法使いは、杖を持って魔法を使い、杖の延長として生まれたのが魔法銃だ。


 ただし、詠唱が必要なので、魔法発動までに時間がかかってしまう。

 瞬時に魔法が発動する魔導ライフルと比べると、前時代の遺物でしかない。


「わお、現物なんて初めて見るぞ」


「前時代の遺物、ただの骨董品だな」


 俺とチビ助の感覚だと、あまりにも古い武器だ。

 骨董品としての価値はあるだろうが、実用的な使い道は全くない。



 そんな魔法銃を物珍しく見物しつつ、ギルドのカウンターへ向かう。



「冒険者の登録をしたいのだが、カウンターはここでいいのか?」


 代表して話しかけたのはチビ助。


「はい……でも、小さなお子さんは冒険者登録できませんよ」


「ああんっ!?」


 小さなお子さん。

 俺たちって、基本的に見た目は10代だからな。

 俺が一番年上に見えて、次にレインくんとレイナちゃんが来る。

 そしてチビ助に至っては、ギリギリ10歳に入れられるかどうかというラインだ。


 チビ助が眼光を鋭くして睨むと、ギルド内の空気が変わった。


「ヒイッ!」


「ウグッ!」


「ヌオッ!」


 周囲にいる厳ついオッサンたちが顔色を変えて、真っ青になる。

 まるで何千人という人間を殺してきた、イカレタ殺人鬼を目の前にしたかのように、小刻みに震えだす。


 見た目は厳ついが、小心者の集まりらしい。


「ヒ、ヒエエーッ」


「チビ助、睨んで受付のお姉さんを怖がらせるのは良くないぞ」


 受付のお姉さんまで怖がらせるのは、流石にダメだ。

 俺たちの手続きをしてもらえなくなる。


 俺は柔和な表情を浮かべて、お姉さんに怖くないよー、とアピールしておく。


「ふん、誰か子供だ。私はこう見えても妙齢の女性だ。

 とっくに成人しているので、子ども扱いしないでもらおう」


「は、はいぃぃぃっ!」


 チビ助が不機嫌でいると、受付のお姉さんは両手を上げて降参した。


「大丈夫ですよ。命を取るつもりはないので」


「は、はいぃぃぃっ!」


 チビ助が怖がられているので援護したが、なぜか受付のお姉さんが、さらに縮みあがってしまった。


「?」


「し、師匠、怖い、怖すぎるから!」


 ありゃ、俺は怖がられないように笑顔でいるのに、ダメだったらしい。

 レインくんにツッコミを受けてしまった。




 こんなことがあったが、その後ギルドマスターを名乗る人物が現れて、俺たちの冒険者登録をしてくれた。


「名のある魔法使い殿とお見受けするが、あまり問題は起こさないでいただきたい。

 受付嬢だけでなく、あの場にいた全員が肝を冷やしたのでな」


「分かった」


「ふん、私を子ども扱いするからいかんのだ」


 俺は素直に返事したが、チビ助がまだ不機嫌にしている。



「普通、ギルドマスターが直々に冒険者登録をすることはないって聞いていたのに……」


「でも、師匠たちだから当然なのかしら?」


 あと、俺たちと一緒に登録したレインくんとレイナちゃんは、後ろの方でそんなことを話し合っていた。




 とはいえ、こうして俺たち4人は冒険者になった。




「冒険者になれば、依頼は自由に受けてもらって構わない。

 しかし、中には命の危険を伴うものもある。

 後ろの2人はともかく、あなた方はどう見ても、普通ではないので問題ないだろうがな。

 ……それでも、自己責任と言う言葉だけは、覚えておいてもらおう」


「それはもちろん」


「分かっているとも」


 戦時中の軍人だったら、命の取り合いなんて当たり前。

 俺とチビ助は沢山殺しているが、逆に俺たちを殺そうとしてくる敵もいたから、そういうことは言われなくても分かっている。


 後ろにいるレインくんとレイナちゃんは、ゴクリと唾を飲んでいる。

 でも、この2人だって、俺たちの元に来る前から、街で冒険者になる予定だった。

 命の危険があることは、ちゃんと理解しているだろう。



「それとギルドの依頼の中には、護衛などの信用が必要になる依頼が存在する。

 これらの依頼を受ける場合は、ギルドが発行しているランクが、ある一定に達していないと受けることができないので、気を付けてもらおう」


「ふむ、ランクか。それはどうやれば上がるのだ?」


「具体的には、各種依頼の成功によって、ギルドがポイントを発行し、一定まで貯まると、ランクを上げることができる」


「なるほど」


「信用のない人間に、護衛依頼を任せるわけにはいかないので、そのための処置だと理解してもらいたい」


 そんな説明を聞いて、俺たちはギルドマスターの部屋を出た。




 なお、モンスターの討伐依頼に関しては、基本的に自由。

 強い相手も弱い相手も関係なく、討伐していいとのことだ。


 ただし、実力がないのに手ごわいモンスター討伐の依頼を受けた結果、依頼失敗どころか、そのままPTパーティーが全滅しても、自己責任とのことだった。


 冒険者ギルドは、仕事を持ってくる依頼人は守るが、労働者に過ぎない冒険者の命を守るための行動はしない。

 そういうことだろう。

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