19 教育

(レイン視点)



 貧しい村から街へ出てきた若者の多くは、冒険者となって日銭を稼いで生活する。

 冒険者ギルドの依頼は、街中でできる危険のない依頼から、街の外で魔獣モンスターに遭遇する危険にさらされながら、薬草を採集する依頼もある。

 中には、直接モンスターを相手にする討伐依頼もある。


 基本的に街の中でできる依頼は、報酬が少ないため、生活をしていこうとすれば必然的に街の外に出て、モンスターの危険と隣り合わせになる依頼を受けていく必要がある。



 街や村の外は、モンスターが支配する世界。

 人の集落から離れれば、常に命の危険にさらされる危険地帯だ。




 なのだけど、僕とレイナの魔法の師匠になったアルヴィス様と、リゼ先生は、まったく危機感なんて持っていない。



「正規の訓練であれば、基礎体力を養い、座学を行うべきところであるが、現在の我々にそのような余裕はない。

 具体的には金がなければ、訓練を行うための人員、設備、物資、その他諸々が全て足りていない」


 リゼ先生がそう言いながら、魔導ライフルの引き金を引くと、遠くにいたゴブリンの頭が弾け飛んだ。


「おまけに、この時代では我が身を守る必要が、常にあるときている。

 そこで変則的であるが、お前たち2人には、身を守る術を早急に叩き込んでやる」


 またリゼ先生が引き金を引いて、ライフルでゴブリンの頭を吹き飛ばした。



「とりあえずは、ライフルで的を当てられるようにしないとな。

 それと拳銃ハンドガンは、ライフルが弾切れになった場合か、敵に近づかれ過ぎた場合にだけ使用するように」


「はい」


 師匠が拳銃ハンドガンを僕とレイナに渡しながら、言ってきた。


「というわけで、ライフルの扱い方からだ。

 既にお前たちには、照準の定め方を教えているが、動く敵に当てられなければ意味がない。

 ただの歩兵であれば、動かぬカカシを相手にしてもいいが、戦略魔導歩兵の基本は空中でのヒット&ウェイにある。

 高速で移動する中で、敵に弾を当てる必要があり……」


 そこからは、リゼ先生による説明が続いていった。



 その後、僕とレイナは、ライフルの引き金を引いてゴブリンを殺すこと。


 街に来るまでの旅でも経験したが、ライフルは引き金を引くだけで、ゴブリンを簡単に殺せる。

 こんな凄い武器は、お伽噺の中でしか聞いたことのない魔法の武器だ。


 そんな武器を、僕やレイナが扱ってもいいのかと思わされる。


 だけど、そんな僕たちの考えなんて、師匠もリゼ先生もお構いなしだ。


「レイン、貴様は上に狙いがそれやすい」


「はいっ!」


「レイナ、お前は度胸が足りん。そんなのでは銃身がふらついて、狙いが定まらん。

 いいか、女は度胸だ。女だからと、敵は容赦せん。

 私のように、常に堂々としていればよいのだ」


「はい、リゼ先生!」


「口での返事などいらん。態度で示せ!」


 パンッ!

 リゼ先生の気合の入った叱咤に、レイナは無言でライフルの引き金を引き、ゴブリンの頭を吹き飛ばす。


「次だ。1発当てた程度で浮かれるな。

 そのような浮ついた心でいれば、私が蹴り飛ばして、甘っちょろい考えを矯正してやる!」


 リゼ先生は、特にレイナに対して厳しい。

 同じ女性というのもあるからだろうけど……



「レインくんは考え事しない。

 そんなことしてると、すぐに殺されてお終いだから。

 ま、考え事してなくても、死ぬときは死ぬから仕方ないけど」


「うっ!」


 一方の師匠も、笑顔を浮かべているけど、目が全然笑っていなかった。

 僕は背筋に氷を流し込まれたような寒さを感じながら、慌てて自分の中の考え事を中断する。

 師匠とリゼ先生は、僕やレイナとは、完全に違う世界の人だ。


 お伽噺の魔王と悪魔。

 そんな人たちの前で、余計なことを考えていられる余裕なんてなかった。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




 街の外に出ればモンスターを的にした射撃の訓練を行い、街の宿に戻ってからも座学が行われる。


 そんな座学での一幕だった。



「2人には演算結晶を渡しておく。

 現代魔法モデムを使用するには、必ず必要な物であり、寝るときであっても肌身離さず装備しておけ。

 仮にだが、演算結晶をなくすようなことがあれば、その時は私がお前らの頭を撃ちぬく」


「「……」」


 まったく冗談でない、リゼ先生。

 目に本物の殺意が宿っていた。



「俺も銃殺するから」


「「ヒィッ!」」


 リゼ先生だけでなく、笑顔だが、まったく目の笑っていない師匠まで、同じことを言ってきた。


 僕もレイナも、全く生きた心地がしなくて、ただ震えることしかできない。



「分かったなら、返事をしろ!」


「「は、はいっ!」」


 僕とレイナに、逆らえるはずもなく、ただ言われるがままに頷いた。

 この2人といると、生きた心地ができないことが多い。


 いつか殺されてしまうのではないか。

 そういう圧力が、この2人にはある。



 それは僕とレイナだけが思っているのでなく、ここに来るまでに出会った多くの人たちが、師匠たちのことを恐れた。




 僕とレイナの師匠たちは、間違いなくお伽噺の魔王と悪魔だ。

 そんな人たちの弟子に、僕とレイナはなっていた。

 これが果たして、僕たち兄妹にといって良いことなのか、悪いことなのかは分からない。


 ただ、2人の機嫌を損ねるなんてできない。

 僕たち兄妹は、2人が教えてくれることを、必死に食らいついて吸収していくしかない。

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