16 入市
目指していたイェーガーの街に到着した。
この街を治めている男爵はイェーガー男爵といい、街から取られた名前だそうだ。
ちなみに街の名前は、行商人から聞いた。
「僕たちは街の名前を知りませんでした」
「私もです」
レインくんとレイナちゃんは、ただの村人だったため、村の外に出ることが少なく、街の場所は知っていても、名前までは知らなかったそうだ。
そんなレベルなので、イェーガー以外の街に行ったことすらないそうだ。
「中世の人間の移動距離は狭いと聞いたことがあるが、まさかここまでとは……」
チビ助が呆れて天を仰いでいまう。
千年後の世界のはずなのに、完全に文明が衰退している。
本当にここは、未来なのか?
さて、そんな俺たちが辿り着いたイェーガーの街だが、城壁によって街は囲われ、城門から入らないといけない。
「次、お前はどこから来た?」
城門の前には列ができていて、門番たちが1人1人チェックした上で、入市税を取っていた。
入市税というのは、街に入るための税金で、1人当たり銀貨1枚。
「高いのか安いのか、全然分からん」
俺たちは山賊から巻き上げた資金があるので、4人分払っても、懐が痛むことはない。
が、この時代の金銭感覚がまだ分からない。
レインくんたちが住んでいた村には商店がなく、行商人が外から来た時くらいしか、貨幣のやり取りがなかったそうだ。
「僕たちの村だと、村人が街に行けるのは一生に1、2回、あるかないかです」
「生活必需品は行商が運んでくれたので、街まで行くことなんてないです」
ひょっとするとレインくんたちには、経済感覚がないかもしれない。
そんなことまで、考えてしまった。
城門前に並んでいる間、そんなことを話して時間を潰した。
「次……っ!」
ようやく俺たちの順番が回ってきたが、俺たちを目にした瞬間、門番たちの顔が引きつった。
「?」
はて、何かまずいことをしたか?
俺とチビ助は、顔を見合わせる。
「もしかして、黒髪黒目は悪魔だから、入ってはならない、とか?」
「ありえるな」
俺は、お伽噺に登場する魔王様と瓜二つの、黒髪黒目。
というか、お伽噺の魔王様は、どう考えても俺だ。
大戦では沢山殺しまくったからな。
そんな風に考えていた俺たち。
でも、違った。
「さぞや御高名な魔法使い様とお見受けいたします。
我々が至らないばかりに、庶民たちの列に魔法使い様を並ばせてしまい、申し訳ございません」
「へっ?」
魔王と怖がられるどころか、真逆だった。
門番たちは直立不動の姿勢になったかと思うと、全員で敬礼してきた。
「確かに俺とチビ助は魔法使いだが、見ただけで分かるのか?」
「もちろんでございます。その鎧は、まごうことなき、名品。さぞや名のある職人が作り出した代物なのでしょう。それに”魔法銃”まで持たれていれば、間違いようがありません」
「魔法銃?ああ、魔導ライフルの事か」
俺とチビは魔導甲冑に、魔導ライフルを装備している。
これらは高位の魔力持ちでないと使えない代物なので、確かに一目見れば魔法使いと分かる。
ついでにレインくんとレイナちゃんには、通常のライフルを渡している。
「こちらの2人は、魔法使い様のお弟子様か、付き人でしょうか?」
「一応、弟子になるな」
「左様でございますか」
俺たちに対して、やたら慇懃な態度をとる門番たち。
レインくんたちの村では、魔法を使える俺たちは恐れられつつも、敬われたものだが、ここでも同じ状況になった。
「アルヴィス様、魔法使いとは身分ある者でなければなれないもの。
都市の門番でも、疎かにはできないのです」
なぜ、ここまで慇懃な態度を取るのかと思えば、ここまで同道した行商人が教えてくれた。
「ふーん、そんなものか」
俺としては、そんな感想しか出てこない。
「魔法使いとは、知識がなければなれない存在だ。
我々がいた時代と違って、中世程度の社会では、ある程度の身分がなければ、知識を教わることができないのだろう」
チビ助先生は、そんな風に分析した。
「恐れながら、魔法使い様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?
都市に入るための規則ですので」
「俺は、アルヴィス・ガイスター」
「私はリゼ・ルコットだ」
俺とチビ助が名乗る。
すると門番が、さらに驚いた顔をする。
「か、家名持ち!貴族の方でしたか。
どうぞ、お連れのお弟子様方と共にお入りください!」
俺たちに対する態度が、さらにペコペコしたもの変わる。
「あれ、税金は?」
「貴族様から、入市税をいただくわけにはまいりません。
どうぞ、このまま門の向こうへお進みください」
「タダで入れるなんてラッキー。ついてるな」
門番に問題ないと言われたので、俺はさっさと街の中に入る。
「本当にここは、中世ではないか?
千年先の未来でなく、どう考えても千年前の過去だ……」
チビ助は、米神を押さえている。
あまり考え事ばかりしてると、禿げるぞ。
「い、行こう、レイナ」
「え、えっと、失礼します」
入市税がタダと聞いたからか、レインくんとレイナちゃんは、おっかなびっくりという感じで、街の中へ入っていく。
俺たち4人は、門人たちに最敬礼をされて、街の中へ進んでいった。
俺とチビ助は全く気にしないが、こういうことに慣れてないレインくんとレイナちゃんは、終始ビビっていた。
軍の閲兵式や、式典事で、大勢に敬礼されることがあったので、俺たちは慣れている。
なお、ここまで同行してきた行商人とは、ここでお別れとなった。
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