15 ライフルを撃とう

 千年後のこの世界には、魔導科学によって作られた人工生命体である魔獣モンスターが、野生で繁殖し溢れている。


「グギャー」


 前回遭遇したのはダークサーベルキャットだったが、今回遭遇したのは、チビ助と同じくらいの大きさをした化け物だ。


 顔が醜いので、化け物だ。

 人の形をしているが、顔があまりにも不細工すぎる。

 きっと、この魔獣を作り出した魔導科学者も、ブサイクだったのだろう。



「モテない僻みが募った結果、あんなものを作ってしまったんだな」


 名前はゴブリンと言うらしい。


「お前は何を言ってるんだ?」


 チビ助に呆れられたが、俺の中ではゴブリンも、ゴブリンを作り出した魔導科学者も、どっちもブサイクで確定だ。



「ゴブリンは、この世界ではごくありふれた魔獣です。

 一般人でも大人なら、倒せるくらいです」


 そう説明するのはレインくん。


「ふーん、そうなのか。

 でも、一般人でも倒せる弱さって……そんなのを作り出した千年前の魔導科学者は、何を考えていたんだ?」


 魔獣を作り出したのは、千年前の魔導科学者に違いない。

 ただ、俺とチビ助はあんな魔獣を知らないので、俺たちがコールドスリープに入った後に作られたのだろう。


「軍の実験施設で作られた試作生物か、あるいは赤の大国であれば、あのようなものを作っても不思議でないな」


「確かに、赤の大国ならやりかねないな」


 大戦時に俺たちの祖国と戦っていた国の一つが、赤の大国。

 あの国はひたすら人海戦術を使ってくる国で、兵士全員にライフルを渡すことができないのに、非武装の人間まで動員して敵軍に突っ込んでいく、頭のおかしな国だった。


 俺たちの祖国が、ライフルや野戦砲、戦車などを動員して、数万、数十万人の屍の山を築き上げた。

 だが、数の暴力は凄まじく、最新鋭の装備を持った部隊でも、数に飲み込まれて潰された。


 俺もチビ助も、うんざりするほど赤の大国の兵士を殺した。


 あの国なら、ただの肉壁にしかならないゴブリンを、大量に作っても不思議でない。



 そんなゴブリンが、俺たちの前に現れた。


 数は十数体。

 頭の悪そうな顔で、ギャーギャー喚いている。


 手には錆びた剣や槍を持っていて、中には弓を装備しているのまでいる。

 ただ、俺たちが殺した山賊とあまり変わらないな。



「とりあえずレインくんとレイナちゃんの2人は、渡したライフルを使ってみようか。

 目標は動く敵に弾を当てること」


 魔導ライフルでなく、ただの一般兵用のライフルだ。

 俺とチビ助の予備武器としてあったので、2人に渡しておく。


 簡単な使い方もレクチャ済みなので、2人ともライフルを撃つくらいはできる。



「わ、分かりました」


「は、はい」


 2人とも緊張しながら、返事をする。



「気張らずに行こうか。危なくなったら、俺が全部殺すから」



 というわけで、俺は2人にあまり緊張しないように言って、ライフルを撃たせてみた。



 ライフルを構えて、狙いを定める。

 そして引き金を引けば、爆音とともに弾が発射される。


 レインくんの弾が、ゴブリンの右腕に命中。

 レイナちゃんの方はハズレ。


「最初から命中させるのは難しいから、胴体を狙うように。慣れてくれば頭を狙ったほうがいいけど、無理はしないように。じゃ、どんどん撃とうか」


 攻撃されたと分かって、ゴブリンたちがギャーギャー叫んで、俺たちの方へ向かってくる。


 まだまだ距離があるので、全然問題ない。


 その後、双子の兄妹がライフルの練習を続けた。


 パンパン音がして、火薬のにおいが辺りに漂う。

 ゴブリンの血の香りが風に乗って、鼻腔をくすぐる。


「人間の血と匂いが違うな」


 ライフル初心者の2人だが、何発かはゴブリンに命中しているし、地面に倒れて動かなくなっているのもいる。


「お、レイナちゃんは頭を撃ったか」


「ただのまぐれ当たりだな」


 ゴブリンの頭が弾け飛んで、中身が飛び散る。


「ウウッ……」


 初心者には、この絵面は厳しいらしい。

 俺とチビ助は、ゴブリンどころか人間のこういった死体を見慣れているので、何とも思わない。



「はい、そこまで。あとは俺がやる」


 練習の時間はお終いだ。

 2人はゴブリンを5体以上倒したが、まだ10体以上生きている。


 爆裂弾1発で爆破してもいいが、それでは面白くないので、俺は通常弾でゴブリンを撃って行く。


 狙いを定めて、パンパンパン。

 連続で撃っていくが、慣れているので簡単だ。


 そもそもライフルで戦うには距離が近いので、頭を狙って撃つのが簡単すぎる。


 俺が1発撃つたびにゴブリンの頭が弾け飛んでいき、10秒と経たずに、全てのゴブリンが頭を失って、地面に倒れ伏した。



 血と肉片、その他いろいろが、辺りに転がっている。

 血に関しては地面に吸収しきれず、赤い水たまりを作っていた。



「う、おええー」


「ううっ、うああっ」


 その光景に、兄妹2人が吐いてしまう。



「ありゃ、人間じゃないのに、どうしてこうなる?」


 戦場に慣れてない兵士がこうなるのはよくあることだが、ゴブリンの死体でもこうなっている2人を見て、俺は少し驚いた。


「人間でなくても、これだけの数の生き物の頭を吹き飛ばせば、こうなるのだろう」


 チビ助先生が説明してくれる。


「ふーん、そんなものか」


 説明はしてくれたものの、俺もチビ助もこういう感覚とは無縁なので、実感がわかない。


「う、オエエーッ」


 でも、行商人も吐いているので、一般人としては、こういう反応が正しいのだろう。



 ただし、それはあくまでも一般人の話。

 俺は双子の兄妹には、ぜひとも戦略魔導歩兵として育ってもらいたい。


 それもお飾りでなく、戦場で戦えるように。


「大丈夫だ。何度もこういうことをしてたら、すぐに慣れるから」


 と言うわけで、励ましておいた。



「な、慣れる……!」


「……」


 だけどレインくんは、なぜか恐怖にひきつった声を出す。

 レイナちゃんの方は無言だが、小刻みにプルプル震えながら、首を左右に小さく振る。



「?」


「まあ、最初はこんなものだろう」


「そっかー」


 俺にはよく分からないが、チビ助がそういうなら、こんなものなのだろう。






 まあ、双子の事は今はこれでいい。


「ところでゴブリンって、高く売れるのか?」


 前回、ダークサーベルキャットが高く売れると聞いたので、行商人に確認した。


 レインくんたちと同じで、行商人もいまだ青い顔をしている。

 それでも、俺の質問には答えてくれる。


「ゴブリンは、ダメです。どの部分も売り物になりません。魔石も大したことがないので、回収しても二束三文にしかなりません」


「そっか」


 今回ゴブリンの集団相手に爆裂弾を使用しなかったのは、レインくんたちに普通のライフルを使った戦い方を見せるため。

 ついでに、死体の形を残しておくことで、売れないかと考えたからだ。



「ゴミか」


「ゴミだな」


 と言うわけで、俺とチビ助は、地面に転がっているゴブリンを、一瞬でゴミ認定した。

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