14 前時代魔法と現代魔法
レインくんとレイナちゃんの双子の兄妹を加えて、街へ行くことにした俺たち。
俺とチビ助だけなら、空を飛んで行けばいいが、2人がいるのでそうはいかない。
と言うわけで、地面の上を歩いて移動となった。
途中で、荷馬車を引いた行商人と出会い、道を一緒にすることにした。
「これはこれは魔法使い様。
この辺りは魔獣が出没することもありますので、共に旅をできることに感謝いたします」
千年後のこの世界だが、
「魔獣って、もしかして俺たちの時代に、魔獣騎兵部隊が使っていた魔獣の事か?」
「恐らくそうだろうな」
千年前の世界では、馬に代わる存在として、魔導科学によって生み出された、魔獣と呼ばれる人工の動物が存在した。
魔獣は通常の生物に比べて、高い身体能力と強固な体を持っている。
俺が知っている魔獣には、ダークサーベルキャットと呼ばれる、全長3から5メートルの巨大なクロヒョウみたいなやつがいる。
あいつらは飛びかかるだけで、生身の人間を地面に押し倒し、体重でそのまま潰してしまう。
たまに頭からペロリと、敵兵を食べていた。
一般兵の使うライフル弾程度なら、体の表面の毛皮と皮で受け止めてしまい、致命傷を与えるには銃弾の飽和攻撃を浴びせか、爆薬で爆破する必要がある。
ただし、動きが素早いうえに野生の勘があるので、倒すにはなかなか苦労することになる。
そんなダークサーベルキャットに騎乗して戦う、魔獣騎兵部隊と一時期戦場を共にしたことがある。
興味があって、檻に入れられたダークサーベルキャットをなでに行ったことがあるが、俺が手を伸ばすと、腕ごと食われそうになった。
俺は魔獣相手に腕を食われるほど間抜けではないが、あんまり可愛げのある奴らじゃなかった。
「あいつら、千年後の世界で繁殖してるのかよ」
「私たちがいた時代の魔獣は、自然繁殖できなかったが、例外が生まれてしまったのだろうな」
幼女先生改め、チビ助先生がそう考察した。
「ま、出てきたら撃ち殺せばいいだけだな」
「そうだな」
普通の兵だと苦労するだろうが、俺とチビ助は戦略魔導歩兵。
扱う魔導ライフルは、一般兵の使う通常のライフルより火力が高く、魔獣相手に戦う能力がある。
「ハーハー」
「ゼーゼー」
なお、俺たち2人は雑談しているが、後ろを歩く双子の兄妹は、汗を垂らしながら、しゃべる余裕ゼロの状態だ。
旅を共にする行商人は、荷物を満載にした二頭立ての馬車に乗っているが、俺たちを乗せられるほどの空きがない。
なので、その後ろを俺たちは歩いている。
「ほら、2人とも早く歩かないと、馬車に置いてかれるぞ」
「クズクズするな、ノロマども」
俺もチビ助も馬車に遅れることなく歩いているが、双子はついてくるのでやっとという有様だった。
「む、無理です。こんな重たいもの持ちながらなんて」
「ハ、ハアーッ、わ、私、もうダメ……」
妹の方が足を取られ、こけそうになる。
「レイナ!」
慌てて兄の方が手を伸ばしたが、残念ながら妹の重さを支える事ができず、一緒に地面に倒れてしまった。
「グスグスするな、とっとと立ち上がれノロマども!」
すかさずチビ助が、怒鳴り声を上げた。
対して双子はムッとした顔をする。
「ほーら、2人ともそんな顔してないで、早く立つんだよ」
ちょっと茶目っ気を入れて、俺は魔導ライフルの銃口を2人の兄妹の方に向けてみる。
脅しじゃないぞ。ただのお茶目だから。
「わ、分かりました……レイナ、頑張るんだ」
「う、うん、兄さん」
2人は重たい腰を上げて立ち上がると、再び俺たちの後について歩きだした。
なお、この2人は、兄の方は重さ80キロの荷物を背負い、妹の方も60キロの荷物を背負っている。
「魔法使いなら、これくらい軽々背負って行軍できて当然なんだ、へこたれずについてくるように」
「これは行軍訓練を兼ねているのだ。この程度の事が出来ねば、戦略魔導歩兵どころか、一般兵にも劣るぞ!」
「は、はい……」
「わ、分かりました……」
2人に重たい荷物を背負わせているのは、軍隊式の訓練を軽く兼ねているから。
これくらいの重さには、早く慣れてもらわないといけない。
魔法使いの体は頑丈にできているので、このくらいの重量なら、1日中持って歩けなければならない。
少なくとも、軍に所属する魔法使いであれば、出来て当然のことだ。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
空を飛べばすぐだが、目指す街は歩きだと日を跨いでの移動になってしまう。
それから2日ほど、行商人と共に、旅が続いた。
ところで、旅の初日に魔獣の話なんてしたからか、魔獣に襲われた。
「ダ、ダークサーベルキャット!
よりにもよって、とんでもなく凶暴な魔獣が出てくるなんて。それも群だと!」
行商人は大慌てだ。
襲ってきた魔獣の姿を見ると、俺の記憶にあるダークサーベルキャットと、姿かたちが全く一緒だ。
「やはり、魔獣が野生で繁殖してしまったのだな」
「駆除に失敗して、この辺り一帯に生息しているのか?」
行商人は大慌てだが、俺とチビ助は危険を感じない。
「ふ、2人とも、なんでそんなに落ち着いているんですか!
ダークサーベルキャットと言えば、剣や槍が通らなくて、ベテランの冒険者パーティーでも、全滅させられることがある危険な魔獣なんですよ!」
「私たちの住んいでた村だと、全滅してもおかしくないです!」
レインくんとレイナちゃんも、顔面蒼白だ。
そんな2人を見ながら、俺とチビ助は顔を見合わせる。
「あれが恐ろしいのか?」
「さあ、可愛げがないのは分かるけど」
そう言いながら、俺とチビ助はダークサーベルキャットの前に移動する。
着ている魔導甲冑の能力で低く浮かび、地面の上を滑るように移動する。
俺たち2人を前にして、ダークサーベルキャットはグルグル唸り声をあげ、威嚇してくる。
猫みたいな見た目のくせに、威嚇してくるなんて、本当に可愛げがない。
ただ、こいつらを見ていて思いついた。
「せっかくだから2人には、
「そうだな。ちょうどいい」
俺の考えに、チビ助も同意する。
「いいか、今から俺が
2人は俺たちをよく見ておくように」
「は、はいっ!」
俺が指示すると、兄妹は馬車の物陰に隠れながら、俺たちの方を見た。
危険はないので、馬車の物陰に隠れる必要はないが、あまり呑気にしているとダークサーベルキャットが噛みついてくる。
あと、行商人も一緒になって、馬車の陰に隠れていた。
「じゃあ、始めるか」
俺はチビ助に言って、魔法の違いを実演することにした。
てなわけで、俺は詠唱が必要になる、
『天上をあまねく照らしたまう輝ける太陽の黄金の一振り……』
パン、パンッ
俺の詠唱開始と共に、チビ助が魔導ライフルを構え、早速2発発射。
チビ助が撃った弾は、ダークサーベルキャットの目を貫通して、その奥にある脳みそを破壊した。
これで2匹が退場だ。
『我が前に立ち塞がりし諸々の万敵を尽く燃やし尽くさん……』
パン、パンッ。
俺は詠唱の2節目に入ったが、その間にさらに2体がこの世からご退場。
『振るう刃は正義をなし王道覇者の道とならん……』
パン、パンッ。
俺の詠唱はまだ終わらない。
なのに、チビ助は6体のダークサーベルキャットを始末している。
『今我が手元に呼び寄せ敵を屠る刃……』
パンッ。
弾倉(カートリッジ)の弾が切れたので、弾倉を交換するチビ助。
ただし手馴れているので、俺の長ったらしい詠唱の間に、すぐに交換が終わってしまう。
『輝ける太陽の一振り』
パンッ
最後の1匹も、この世からご退場になってしまった。
なんてこった、俺の詠唱がたった今完了したのに、まったく無意味だ。
『|炎天の炎の剣(フレイムフランベルジュ)』
ダークサーベルキャットが残っていないが、それでも俺は完成した魔法の名前を口にした。
直後、俺の手に燃える炎の剣が現れ、それを振るう。
振るうと同時に、その先にあった森の木々が上下に切れ、燃え上がった。
多分、20本ぐらいの木が切れて、燃え出したんじゃないか?
攻撃範囲と燃え上がる炎は派手だが、それだけだ。
俺は自分の魔法の効果を確認すると、そのまま双子の方を向いた。
「これで分かっただろ。俺が使ったのは
魔法の効果は御覧の通りだが、詠唱が完成するまで突っ立って、ブツブツ言っていないといけない。その間に襲われてお終いだ。
ライフルを持っている相手だと、何発も撃たれまくって、死体をズタボロにされる時間まであるな」
「一方、私が使ったのが、
魔導ライフルの弾には、あらかじめ魔法の効果が付与されていて、魔力のある人間が撃てば、通常のライフル弾より高い殺傷能力を持った武器となる。
詠唱を必要としないため、
「それに魔導ライフルは通常弾以外に、貫通弾に火炎弾、爆裂弾などが存在する。
例えば爆裂弾を使用すれば、このようなことができる」
チビ助が魔導ライフルの引き金を再び引けば、発射された銃弾が地面に命中。
直後爆発を起こし、先ほど倒したダークサーベルキャットの群全てを、灰燼に帰した。
「貴様ら兄妹には、私たちの指導の元、
爆発に飲み込まれ、黒い物体と化したダークサーベルキャットを背景に、チビ助は双子の兄妹に宣言した。
「ああ、ダークサーベルキャットの素材が……。牙も、毛皮も、魔石も高く売れたのに……」
なお、俺たちの横では、行商人が物凄く悲しい声を出していた。
「えっ、あれって高く売れたのか!?」
俺は、ダークサーベルキャットの死体を爆破したチビ助の方を向くが、目を逸らされてしまった。
なんてこった、残念だ。
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