11 空の大魔王と金髪の悪魔
その日の夜、俺とチビ助は、村の家の一つに泊めてもらい、1泊することにした。
辺りは、日が暮れて夜。
夜間の移動は危険だし、徹夜で動き回るほど、俺もチビ助も頭のおかしな人間じゃない。
なお、村人たちが気を効かせてく、俺たちの身の回りの世話を、村人の中から選ばれた男女がしてくれることになった。
例の魔力持ちの双子だ。
「村長から村を救ってくれた魔法使い様には、不便がないようにと言われました。
御用があるなら、僕か妹のレイナを呼んでください」
とは、双子の兄の言葉。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったな」
「そうでした。俺の名前はレイン。妹の名前は……」
「レイナです」
2人が名乗って、俺たちに頭を下げた。
俺も2人に自己紹介しておく。
「俺は、アルヴィス・ガイスター。昔は兵士してたけど、今はただの一般人だから」
「リゼ・ルコット。私の身の上も
チビ助も揃って、自己紹介した。
「アルヴィス様に、リゼ様ですね。家名があるということは、やはり貴族なのですね」
「ん、まあ、そう、だな……」
千年前だと、貴族でなくても家名があるのは当然の事だったが、今の世界では違うらしい。
しかし、双子の兄、レインくんの言葉に、イヤなことを思い出してしまう。
俺は祖国の英雄になって、叙勲されて貴族にもなって、領地までもらった。
でも、千年後のこの世界では全く意味がない。
戦争が終わって平和になれば、領地がある南の島で、ヌクヌクダラダラ過ごす人生設計があったのに、それが全部潰えてしまった。
「そうだな、貴族だぞ。元貴族だなー」
ちょっと黄昏たくなってしまった。
「もしかして聞いてはいけないことでしたか?」
「気にするな、戦友はバカだから、いつもこんな感じだ」
「は、はあっ」
黄昏れて返事ができなくなった俺に代わって、チビ助が代弁してくれた。
その後俺たちは、適当に当たり障りのない話をする。
ただ当たり障りがないようでも、千年後のこの世界のことを、双子から何気なく聞き出していく。
「ふーん、村の生活って大変なんだなー」
と言っても、レインくんとレイナちゃんの双子は、生まれてから村での生活しかしていないため、街のことまでは知らないらしい。
農民の生活なので、朝起きて畑を耕し、細々とした仕事をすれば、日が暮れて寝る生活。
これに関しては、俺たちの時代の農民も似たようなものだから、そこまで大差ない。
ただ千年後のこの世界、文明は俺たちがいた時代に比べて、大きく衰退したようで、技術水準がマジで中世レベルにまで落ちてるらしい。
全てではないが、それでも俺たちがいた時代から、かなりの技術が失われてしまったようだ。
「お伽噺に出てくる有名な話なので、アルヴィス様とリゼ様もご存じと思いますが……」
そこで一旦言葉を切って、俺とチビ助を見てくるレインくん。
俺たちは無言で続きを促す。
有名なお伽噺と言われても、千年後のお時話なんて、俺たちは全く知らない。
そんな俺たちの前で、レインくんが内容を語ってくれた。
「お伽噺では、昔空の大魔王と呼ばれた邪悪な魔王によって、当時の大賢者を始めとした多くの賢人たちが殺されてしまいました。
それによって当時繁栄を極めていた、魔導科学文明が衰退してしまったのです。
しかも空の大魔王は賢者たちを殺すだけでは飽き足らず、多くの人々を殺して回り、ついには世界を滅ぼす凶行に及び、昔の文明は滅びてしまいました」
「へー、空の大魔王ねえ」
レインくんの話に出てくる大魔王様に、物凄く親近感を覚えてしまうのはなぜだろう。
話の後半部分は身に覚えがないが、前半部分は俺が昔やったことと一致している。
噂なんてのは尾ひれがつくので、後半部分はそれだろう。
千年前、祖国では英雄扱いされた俺だけど、敵からは空の大魔王様扱いされていたからな。
「尋ねるが、その空の大魔王とやらには、別の呼び名もあるのではないか?」
そして俺の横で、チビ助が尋ねる。
「殺戮の悪魔、黒の厄災とも呼ばれ、漆黒の髪と目をした、恐ろしい形相の魔王だったそうです」
「なるほどな」
答えてくれたのは、妹のレイナちゃんの方。
ただ、その後チビ助がニヤニヤと、気持ち悪い顔して俺の方を見てきた。
物凄く心当たりがあるな。
「全部俺の二つ名だな」
敵国からそう呼ばれて、俺は嫌われていた。
散々敵兵殺しまくって、当時の大賢者を始めとする、高位魔法使いを殺しまくったから、それくらいの呼び名が付いても仕方ない。
ただ、俺の二つ名だと口にしたら、レインくんとレイナちゃんが、俺の方を凝視してきた。
「あー、その話って、続きは何かあるのかなー?」
身バレしない方がいいのか?
してもいい気がするが、とりあえず俺は、話の続きを2人に急かした。
「え、ええっと。空の大魔王には、金髪の悪魔と呼ばれる側近がいたそうです。
その姿は人形のように愛らしい姿をしているが、魔王と共に戦場を飛び回り、笑いながら人を殺して回ったと……」
レインくんが若干戸惑いつつも、話してくれた。
ただ話しながら、レインくんとレインちゃんの視線が、チビ助の方を向く。
見た目幼女だけど、金髪碧眼で、人形のようにきれいな目鼻立ちをしている、チビ助の方を。
改めて見ると、チビ助って一応見栄えはいいんだよな。
一応だけど。
「よかったな、チビ助。お前の事だぞ。俺と同じで、千年経っても忘れられてないぞ」
俺は嬉しくなって、チビ助の背中をバンバン叩いてやった。
「叩くな、鬱陶しい。
しかしこの私まで、お伽噺の登場人物になっているとは……なんとも微妙な気分だ」
「嬉しくないのか?」
「戦友の側近であることは否定しない。だが、嬉しいより恥ずかしいな」
「ふーん、そんなものか?俺は嬉しいけどな」
チビ助の気持ちがよく理解できない。
ま、俺ってバカだからいいけど。
ただ、そんな俺たちの前で、レインくんとレインちゃんの顔が、蒼白になっていた。
でも、これは俺たちの話なので、まだ続きがあるか気になるな。
「話の続きはまだあるのか?」
「ま、魔王と悪魔は、その後生き残った魔法使い様たちが協力することで封印され、千年の眠りについた、と聞いてます」
話すレインくんの声が、乾いていた。
感情がどこかに行った掠れた声だけど、俺は気にしない。
「魔法使いの協力ってなんだ?全然心当たりがないな」
「だが千年の眠りとは言いえて妙だな。実際、私たちは千年もの間、コールドスリープ状態だったからな」
このお伽噺、尾ひれはついているものの、かなり事実を表している。
俺とチビ助の逸話だ。
「ま、魔王の髪と瞳が黒かったせいで、黒髪と黒目をした人間は、悪魔の生まれ変わりと言われて、嫌われています。
僕とレイナも、双子で黒髪のせいで……」
あと、聞いてもいないのに、そんなことまでレインくんが話してくれた。
ちょっと白目剥きそうな感じになっているけど、まだ気絶はしてないから大丈夫だ。
「そうなのか、黒髪黒目って嫌われてるのか」
2人がしてくれたお伽噺を聞いて、そういや俺って黒髪黒目だと思いだす。
問答無用で、人類の敵扱いされたらどうする?
それは流石に困るな。
俺は人殺しをたくさんした人間だが、流石に人類全てを相手に戦うような、アホではない。
味方と敵の違いくらいは、ちゃんと考えている。
「ふむ、黒髪と黒目が嫌われているか。
戦友のせいとはいえ、2人ともこのような小さな村では、苦労しているのではないか?
気の毒だな」
お伽噺を聞き終えたら、チビ助はそんなこと言って、2人に同情していた。
「えっ、なんで俺のせいでこの2人が苦労してるんだ?」
「戦友、頼むから少しは自分の頭で考えてくれ」
「分かった」
うーむ、よく分からんな。
だが、チビ助が言うのだから、この双子の兄弟は、俺のせいで苦労しているわけか。
「じゃあ、いっそのこと俺の元に来ないか?嫌われ者の黒髪同士、仲良くやっていこう」
この2人は戦略魔導歩兵になれるだけの魔力持ちなので、勧誘できれば部下にしてしまいたい。
この村を助けたのは、無償ってわけじゃないからな。
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