9 プリーズ、人間らしい食い物!

「戦友、お前に交渉を任せていては、進む話も進まん。私がこの村の代表と交渉する。

 そこのお前、この村の長だろう。違いないか?」


 チビ助が空から降りてくると、早速俺のことを放置して、村の代表と話し合いを始めてしまった。

 村人たちが戦う様子を途中まで見ていたので、村人に指示を出している人間の姿も確認していた。

 村の長の目星はついている。


 ま、いいや。

 頭を使うのはチビ助の担当なので、村との交渉は全部投げてしまおう。



「でさあ、食い物ない?」


 チビ助に丸投げして、目の前の青年に食い物を要求する。


 俺は飢えた狼だ。

 ただし、何を食べてもいいわけでなく、人間らしい食事を所望する狼だ。



「食べ物ですか。でも、今の状況だと……」


「ん、ああ。さすがに今はマズイか」


 食い物への欲求がある俺だけど、よく考えてみれば今は戦闘直後だ。

 周囲の警戒はまだ必要だし、あたりには死体がゴロゴロ転がっている。

 村の建物も、所々破損していた。


「さすがに、こんな状況でうまい飯は作ってられないか。はあっ、携帯食料でも食うしかないか」


 死体から流れ出る血で、水たまりができていて、ここで料理は無理だ。

 でも、こういう状況でも気にせず飯は食べられるので、俺は携帯食料を取り出して口に放り込んだ。

 この程度の事で吐いていたら、戦場では飯を食う時間がなくなってしまう。



「ゲロマジィー」


 でも、口に入れた携帯食料はまずかった。


「このバカ、飯を食ってないで私の代わりに周辺の警戒をしろ」


「へーい」


 チビ助に睨まれてしまった。



 しかたない。俺は空を飛んで、周辺警戒するか。


 あれ?

 俺は大佐で、チビ助は少佐なのに、俺の方が命令されてないか?

 ま、いいか。



「そこの男たちは、怪我をした生存者を建物へ運べ。

 女たちはありったけの湯を沸かし、清潔な布を用意しろ。

 そこの者たちは死体の処理だ。放置していては疫病の元になりかねん!」


 その後、チビ助は村長そっちのけで、村人たちに次々に指示を出し始めた。


 チビ助は軍隊で部隊指揮を散々しているので、人を仕切るのはお手の物だ。

 任せておけば大丈夫。


 ちなみに、俺は部隊指揮に関しては、大半をチビ助に投げていたので、ちゃんと部隊の指揮官としてやってくることができた。

 指揮官としてはやってこれたが、指揮能力には期待しないでくれ。


「やっぱ、チビ助がいるとありがたいな」


 改めてチビ助のありがたさを実感して、俺はヘルメットを着けなおして、空へ上がろうとした。


 ただ、そんな俺に青年が話しかけてきた。



「僕とレイナを助けてくれて、ありがとうございます。魔法使い様」


「ありがとうございます」


 今度は妹の方もいる。

 兄妹そろって、俺に頭を下げてきた。


「いいって、いいって。それに俺の方にも、打算ゼロって訳じゃないからな」


 俺は適当に手を振って、そのまま空へ上昇した。

 周辺の警戒をしないと、チビ助にまたどやされる。



 こういうのは大佐である俺の仕事でなく、下っ端の役割だが、今は俺とチビ助しかいないので仕方ない。


 なお、村人に関してはそもそも戦力外なので、彼らを警戒に出すなんて発想自体、生まれなかった。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




 その後は、俺が村の周辺を空から警戒する。

 たまに村の方を見ると、チビ助が陣頭指揮をとって、村人たちを動かしていた。


 怪我人は建物に集められ、そこで治療がされる。


 村の近くに穴が掘られ、山賊の死体はそこに放り込まれた。

 死体で穴が埋まると、チビ助が火魔法を使って、死体を丸ごと燃やす。



「あー、肉の焼けるにおいがするなー」


 人肉を食べる気はないが、焼いてしまえば人間も獣の肉も、匂いは変わらない。

 ダメだ、頭の中が食い物の事で埋まってしまう。



 戦闘では村人にも死者が出ていたので、そちらの死体は別の穴が用意され、埋葬されていく。

 まあ、こちらも穴に入った後は火葬だ。


「お願いです。どうか火で焼くのは勘弁を。死者を冒涜する行いです!」


「やかましい、土葬では疫病の危険がある。とっとと火をくべて燃やすぞ」


 どうやらこの村は土葬の習慣のようで、火葬にすることに村長が抵抗していた。

 だが、チビ助はお構いなしで、村人の死体も焼いた。


 テキパキしてるな。



 そうして夕暮れ頃になると、やるべきことは大体終わったようだ。


 怪我人の治療が残ってはいるが、これに関しては村人たちの仕事。

 チビ助も最初の指示こそ出したが、最後まで面倒を見るつもりはないようだ。


 俺たちは村を助けたが、長居するつもりはないので、これでいいだろう。



 ただ、俺は村の方ばかり気にしていたわけじゃない。


 警戒していると、1人の男が森から出てきた。


「お前はどこの人間だ、所属を言え」


 空からライフルの銃口を向けて、現れた男に質問した。



「へっ、なっ、そ、空を飛んでいる!ま、魔法使い様ですか!?」


 空を飛んでいる俺を見つけた男が、慌てて地面に跪いた。


 だが、この男は俺の質問が聞こえてなかったのだろうか?


「もう一度聞く、お前の所属は?

 返答次第では、殺す」


 俺は所属を聞いている。跪けなどと命じた覚えはない。


 ただ俺の声って、人には怖く聞こえてしまうらしい。


「わ、わた、私は、あの村の猟師で……きょ、今日は、狩りに出ていました」


 猟師を名乗った男は、舌が痙攣して呂律が怪しくなっている。


 それでも、ちゃんと聞き取ることはできた。


「そうか、ただの猟師か」


「は、はい。そうです、魔法使い様。こちらに今日の狩りで得た獲物もあります」


 そう言い、猟師の男は背負っていたウサギを見せてきた。



「お、うまそうだな」


 俺の胃袋が、またしても人間らしい食べ物に反応してしまう。

 兎の肉って、うまいんだよなー。

 今ならどんな肉でも、うまく食える自信があるが。


「よろしければ、魔法使い様に献上いたします」


「献上ってことは、俺にくれるってことか?」


「はい、そうです」


 ラッキー。

 ちょっと猟師に質問したら、それだけでウサギをくれた。


「でも、ウサギのさばき方は分からないな。

 今日はあの村に厄介になるつもりだから、あとで捌いて持ってきてくれ」


「は、はいっ!」


 というわけで、俺はウサギ肉をゲットした。



 その後、魔導通信を介してチビ助に呼ばれたので、俺は猟師の男と一緒に、村の方へ戻った。

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