8 人間らしい食事を要求するぞ!
「そこの山賊、抵抗すれば射殺する。武器を捨て大人しく投降しろ」
俺は魔導ライフルを山賊の生き残りに突き付けたまま、村の入口へ降り立った。
周囲は、村人と山賊が戦いあった結果、血濡れた死体が転がっている。
中には血を流しながらも、まだ生きている村人がいるので、早く治療すれば助かる者も出てくるだろう。
もちろん、手遅れの者も複数いるが。
そう言った周囲の様子を眺めながら、俺は腰を抜かした山賊の傍に寄る。
「ありゃ、白目を剥いて気絶してる」
降伏どうこうでなく、とっくに俺の言葉なんて聞こえてなかった。
捕縛するのが簡単になったので、楽になったと考えておこう。
「もしや、あなた様は、王都の飛行騎士様ですか?」
そんな中、村人の1人、例の魔力持ちの青年が話しかけてきた。
恐る恐るとった感じだが、目はしっかり俺の方を見ている。
まあ、今の俺はフルフェイスのヘルメットをかぶっているので、俺の目を直接見て話すは無理だけど。
「飛行騎士?
違うな、俺は帝国軍東部方面軍所属、戦略魔導歩兵アルヴィス・ガイスター大佐だ」
ん?
自分で言ってから気づいたが、
ということで、言い直す。
「ただの戦略魔導歩兵のアルヴィス・ガイスターだ」
「戦略魔導歩兵?」
「もしかして、戦略魔導歩兵の概念がないのか?」
青年と話していると、俺の時代に活躍した戦略魔導歩兵という言葉が、概念ごと消滅してしまっているようだ。
ちょっとショックだ。
俺は、戦略魔導歩兵として敵を殺しまくって、帝国の英雄と呼ばれるようになった人間だ。
なので、自分のアイデンティティーがなくなったように感じてしまう。
「あー、つまるところ、ただの兵士だな。いや、今じゃ兵士ですらなかった」
帝国が滅亡しているので、当然帝国軍も消滅している。
それじゃあ俺は元兵士になってしまうので、ただの一般人に降格だ。
国家の英雄だったのに、貴族にまで叙勲されたのに、ただの一般人にまで転落してしまった。
またしてもショックだ。
少しいじけてもいいか?
「……ただの一般人だ」
自分の身分をすぐに認められなくて、少し間ができてしまった。
「い、一般人?でも、魔法使い様ですよね。とてもすごい」
「うん、そうだな。魔法使いとしては凄いな」
現在進行形で、俺は脳内でアイデンティティーの再構築を急いでいる。
英雄から一般人に転落してしまったが、それでも魔法使いであることに違いはない。
これでも
よし、少しだけ元気が出てきたぞ。
「あなたは、僕たちを助けてくれたんですか?」
そして青年が、確かめてくる。
「そうだ。襲われているのを見たので、助けた。手助けは不必要だったか?」
「いえ、あなたのおかげで、命を助けられました。ありがとうございます、魔法使い様」
「別に感謝しなくてもいいぞ。善意だけで助けに来たわけじゃないからな」
「えっ!?」
そこで俺はヘルメットを外して、素顔を青年に、そして周囲にいる村人たちの前にさらした。
「僕たちと同じ黒い髪。でも、目まで黒い!」
俺が素顔を晒すと、青年が呟いた。
だが、特に意味がある言葉とは思えないので、スルーする。
「実はな、俺たちはまともな食い物に飢えてるんだ。頼む、人間らしい飯をくれ!」
青年の呟きなどどうでもいい。
それより俺は、まともな食い物をもっと食いたい。
今の俺は、山賊拠点で食べた人間らしい食事のせいで、もっと人間らしい食事をしたいという誘惑を抑えられずにいるのだ!
「この、大馬鹿がー!」
そんなことを言ってたら、周囲を警戒していたチビ助に怒鳴られちまった。
「だって、肉以外にもまともな飯が食いたいんだ!」
チビ助が怒鳴るが、そんなことより俺は、まともな食事に飢えている。
軍の携帯食料は、これ以上食いたくない。
俺は人間として、人間らしい食事を要求するぞ!
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