7 戦闘

「これが千年後の戦いだと?

 まるで前時代的。中世にまで逆戻りした戦いではないか」


「そうだなー」


 村人と山賊の戦いを空から見ている俺たちだが、あまりにもひどい内容に愕然としていた。

 主にチビ助が。


 俺に関しては、愕然ではなく呆れだ。


「人間って、武器がなくなれば最後は石を投げて戦うって聞いたけど、本当だったんだな」


 だって、村人が投石をしている。

 しかもその石の直撃を受けて、顔面が凹んでいる山賊がいた。


 俺が経験した大戦末期の戦争でも、ここまで原始的な戦場というのは、見た記憶がない。


 皆ライフルで戦っていたし、弾がなくなれば銃剣突撃していた。



 いや待て。

 俺の祖国である帝国(ライヒ)は、複数の大国相手に戦争をしていたが、その中の一つ、赤の大国はあんな感じだった。

 兵士の数に対して、ライフルが圧倒的に足りてなかったので、非武装の兵士を肉壁にして突撃。

 殴る蹴るの格闘戦をやって、帝国軍に襲い掛かっていた。


 帝国軍は近代化された軍隊で、銃火器を使って、押し寄せる赤の大国の軍勢を撃破していった。

 だが、そんなのお構いなしで、ただひたすら数の暴力で押しまくり、赤の大国は帝国軍の陣容を突破していた。


 あれと同じだ。

 ただし目の前で行われている戦いは、赤の大国に比べれば、人数が桁違いに少ない。




「それに山賊が使った、あの魔法は何だ。

 完全に前時代の魔法ではないか。現代魔法モデムは一体どこに行った!」


 チビ助が激怒している。



 俺たちが使う現代魔法モデムは、魔導科学の産物である演算結晶を用いることで、複雑な詠唱や儀式を必要とすることなく、瞬時に魔法を行使することができる。

 具体的には詠唱ゼロで、魔導ライフルの引き金を引くだけでいい。


 現代魔法モデムは、あらかじめ演算結晶にプログラムされている複数の魔法から、一つを選択して使用する。

 プログラム外の魔法を使うことはできないが、戦争で必要になる魔法に特化させることで、戦場においては通常の魔法より遥かに使い勝手よく、魔法を撃つことができる。



 そんな現代魔法モデムに対して、山賊の魔法使いが使用したのは、銃こそ使っているが、詠唱が必要になる前時代魔法オールドだ。

 それも水の圧力で門を突破するとか、無駄が多すぎる。

 水なんて流さないで、爆破魔法を1発撃ち込んだ方が遥かにいい。



「戦友、私は夢でも見ているのだろうか?

 我々は千年先の未来でなく、千年前の過去に遡ってしまったのではないか?」


「うーん、俺も自信がなくなるな」


 マジで千年前に来たんじゃないかと、思いたくなる。



 俺とチビ助2人で、頭を抱えたくなる事態だ。

 ただ、目の前の戦いを見ていて分かったことは、山賊も村人も、俺たちにはまったく脅威にならないこと。


 高速で空を飛ぶ俺たちに、攻撃を命中させるには、連中の武器では到底不可能だ。

 あるいは命中したとしても、俺たちの防御を突破できるだけの火力に欠けていた。



 そんなひど過ぎる戦いが行われているが、俺は一点を見つめる。


「頭が痛い」


 俺の横で、チビ助が頭痛を覚えているが、俺は視線を外さずに見る。


「なあ、チビ助。あの兄妹は面白いぞ」


「面白い?兄妹?」


 俺は、山賊相手に剣を振り回して戦っている男と、その背後に庇われながらも、短剣で山賊の武器をいなしている女を指す。


「ああん?瓜二つ、双子の兄妹のようだな。でも、何が面白い?

 私には、原始人同士の戦いにしか見えないぞ」


「あの2人は、魔力持ちだ」


「そうか」


 俺の言葉に、チビ助は興味なさそうに応える。

 チビ助は俺に比べて魔力感知能力が低いから、気づいてないのだろう。


「あの兄妹だが、凄い魔力持ちだぞ。上級魔導士アークウィザード級、もしかすると賢者マスター級に届くかもしれない」


「ああん?」


 チビ助が改めて、兄妹を見る。



 魔法使いには魔力量に応じた階級があり、上から順に、大賢者グランドマスター賢者マスター級、上級魔導士アークウィザードと続いていく。

 この下にも延々と続いていくが、上級魔導士アークウィザード級となれば、上から3番目。


 上級魔導士アークウィザードであれば、上位戦術級に分類される、大規模破壊魔法を行使することが可能になる。

 上位戦術級魔法は、状況によってはただ一撃で、数千人を殺すことができる魔法だ。


 うまくやれば、一軍を壊滅させることすらできるだろう。


 ただ、上位戦術級魔法は前時代魔法オールドなので、長すぎる詠唱が必要になる。

 詠唱している間は、魔法使い本人は高度な集中が必要で、無防備になって動けなくなる。


 俺たちが戦っていた大戦では、上位戦術級魔法は、時代遅れの産物となっていた。


 というか、俺とチビ助が、敵国の大賢者グランドマスター級を頂点とする、最高位の魔法使いを、魔導ライフルで狩りまくった結果、過去の産物にしてしまった。


 敵側も俺たちの戦い方を真似て、帝国の最高位魔法使いたちを狩りまくってしまった。


 結果俺たちが原因で、戦争のやり方が変化してしまい、上位戦術級魔法は、ただの使えないお荷物になり果ててしまった。



『あんな連中を戦場に連れてくるくらいなら、野戦砲10門の方がよほど役に立つ。

 野戦砲であれば、魔法の使えないただの一般人でも撃てる。

 上位戦術級魔法など、もはや時代遅れの産物に過ぎんよ』


 なんてことを、昔チビ助も言っていたからな。



「ふむ、上級魔導士アークウィザード級か。

 戦争で役に立つかはともかく、魔力量だけでいえば、戦略魔導歩兵の適正は完璧だな」


「だよな。大戦末期だと、超貴重な人材だぞ」


 戦略魔導歩兵になるためには、高い魔力量が必要で、最低でも魔術師メイジ級の魔力量が必要とされる。

 あの兄妹の場合、2人とも文句なしで合格だ。


 大戦末期には、帝国は大量の人材が戦死していたため、戦略魔導歩兵になれる魔力量を持つ一般人など、既に壊滅していた。

 軍隊中でも、俺が率いていた百数十人しか残っていなかった。



「欲しいな」


「だよな」


 帝国ライヒは千年も昔に滅びているが、そんなことに関係なく、貴重な戦略魔導歩兵の人材が欲しい。

 俺は軍の大佐であり、チビは少佐だったので、その思考の延長かもしれない。



「様子見は十分だ。

 我々の脅威が存在しない以上、あの村の住人が全滅する前に助けるぞ」


「了解、山賊どもは皆殺しにしようか」


「いや、1人だけ残しておこう」


「なんで?」


「あとで山賊の拠点を聞き出して、物資を押収する」


 ニヤリと笑うチビ助。

 それを聞いて、俺も笑いが浮かんでしまう。



「敵からの略奪は、基本だもんな」


「そうとも。大戦末期は、敵から物資を略奪しなければ、戦えなかったからな」



 俺たちが戦っていた大戦末期は、とことん酷かった。


 帝国ライヒは帝都が陥落する前から、領土のほとんどを失っていて、工業生産力が壊滅状態にあった。

 軍需物資の生産まで止まっていたので、敵から物資を略奪しないと、食料も銃の弾も補充できない有様だった。


 というわけで、俺とチビ助は短い打ち合わせをして、村を襲う山賊を皆殺しにする、戦闘を開始した。





 初手は敵の指揮官と、一応の脅威となりうる敵魔法使いの排除。



「爆裂弾を発射」


 俺は空から襲い掛かる。

 魔導ライフルの引き金を引いて、山賊の頭目と、すぐ傍にいる魔法使いを爆破して始末した。


 山賊の頭目の傍には、10人ほどの仲間がいたが、爆発に巻き込まれて全員跡形なく消滅。


 ただし爆発が発生した時には、俺は戦場の空を移動していて、別の場所にいる山賊を魔導ライフルで撃ち殺す。



「左翼、敵5体を始末。続いて村の後方に陣取る、敵12体を始末」


 チビ助も空を飛びながら、淡々とライフルの引き金を引いて、山賊を殺していく。



 最初の爆発で、村人と山賊の間で行われていた戦いが止まり、共に身動きを忘れて立ち尽くす。


 完全に戦争初心者で、物陰に隠れようとしなければ、周囲の敵の存在を探そうともしない。

 空を見上げようとする者もいない。


 そうして茫然としているだけの山賊を、次々に撃ち殺していく。


 一応地上からの狙撃を警戒して、俺とチビ助は一旦村の上空を飛び去る。

 現代戦における戦略魔導歩兵の戦い方は、ヒット&ウェイ。

 同じ場所に長時間留まっての戦闘は、敵からの反撃を受けるリスクが高くなる。



 だが、最初に確認したように、山賊は空飛ぶ俺たちを攻撃できる武器を持っていなかった。


 再度俺たちが村の上空に戻ってくると、ようやく空に俺たちがいることに気づいた山賊。

 大声を上げて、俺たちの方を指さしている。


 もちろん、そんな悠長にしている連中が、次の行動を起こすのを待つ気などない。


 パンパンッ。


 俺もチビも、機械的に魔導ライフルの引き金を引き、遮蔽物に隠れようともしない山賊を射殺していく。


 事態のまずさに気づいて、山賊が悲鳴を上げ、武器を投げ捨て、

「降伏す……」

 何かを叫ぼうとしたが、お構いなしで殺す。


 一部逃げ出す連中もいたが、背後からライフルを撃ち込めば、物言わぬ骸となって地面に倒れ伏す。


「戦闘終了。あの生き残りは、俺が捕獲する」


「了解、私は周辺を警戒する」



 村の入り口で小便を漏らして、腰を抜かしている山賊が1人いる。

 それを捕虜にするため、俺は魔導甲冑を纏ったまま、空から地上へ降りた。


 もちろん、銃口は山賊に向けたままで、抵抗すれば即射殺すことを示したうえで。

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