5 「山賊だ、ありったけの食い物と金を出せ!」

 山賊拠点の地下室で見つけた食料と硬貨。

 それらを俺とチビ助は、魔導量子ストレージの中に放り込んで保存した。


「これだけあれば、あと1年は戦える!」


 それが俺の、嘘偽りのない素直な心だ。


 大戦末期は、廃墟と化した都市を舞台に、延々敵兵を殺してまわっていたが、流石に食い物の魅力には勝てない。


 うまいものを食べてから、敵を殺す。

 やっぱり、そうじゃないとダメだ。


 不味すぎる携帯食料を食べ続けながらの戦争なんて、絶対に間違っている。



「戦友、もっと人間らしい食べ物を手に入れるために、人里へ向かうぞ」


「おおーっ!」


 食い物への喜びと渇望は、俺だけでなくチビ助も同じ。


 というわけで、俺たち2人は、山賊を尋問して得た情報から、この近くにある村を目指して移動を開始した。



 なお、この千年後の世界には、俺たちの祖国である帝国ライヒは既になく、戦争相手国ももはや滅亡していた。

 かつて帝国があった大地は、今では大小に分かれた小さな国々が群雄割拠している状態で、毎年どこかの国同士が戦争をしているそうだ。


 そんな戦争で行き場をなくした連中が、山賊に身を落としていく。

 俺たちが壊滅させた山賊は、そんな連中の一つだった。



「やっぱり人間って、戦争が大好きだよな。

 これなら俺たちも、この時代で生きていけるな」


「確かに、戦友は戦争の名人だからな」


「チビ助もだろ」



 俺もチビ助も、戦争に関しては慣れたもの。

 コールドスリープの期間を除けば、つい先日まで、終わりのない泥沼の戦いを続けていた。


 この時代の戦争が、俺たちの時代と比べてどう変化しているか分からないが、殺し合いをしているなら、俺もチビ助も、食いはぐれる心配は無用だ。


 兵士でも傭兵でも、うまくやって生きていける。



「私も、戦争にはそれなりに馴れている。

 だが、流石に戦友と肩を並べるほどではないぞ」


「またまた謙遜して。数では俺の方が殺してるけど、指揮官クラスの殺害数は、チビ助の方が圧倒的に上だろう」


「そうだな。私は戦友と違って、戦争は効率よく行うべきものと考えているからな」


「「ハッハッハッ」」



 俺たち2人は笑顔になって、人里目指す旅を続けた。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




 ということで、目的の村まで到着した。


 道中は敵からの狙撃が怖いので、魔導甲冑を着たまま超低空飛行を行った。

 地上5メートルほどの高さを高速で飛び、森の木にギリギリ接触しない高さで飛んだ。


 俺たちと同じような高さで飛ぶと、間抜けな連中はすぐに木に激突してしまうが、俺もチビ助も、この高さで飛ぶなんて朝飯前。



 そうして到着した村だが、上空から眺めると様子がおかしかった。



「村の連中に告げる!今すぐありったけの食い物と金を出せ!

 村は完全に包囲している。もし50人の武装した山賊相手に戦う勇気があるなら、皆殺しにしてやるから、安心していいぞ。ガハハハハッ」


 木の柵で覆われた、寒村。

 その周囲を多数の山賊が取り囲んでいる。

 現在進行形で、山賊が略奪に取り掛かろうとしていた。


「お前らに出す、食い物も金もない。

 ただの村人だからって、俺たちと戦って無傷で済むと思うなよ!」


 そうして村の方からも、中年のオッサンが、取り囲んでいる山賊の頭目に向かって叫び返していた。



「ふん、生意気な連中だ。野郎ども、やっちまえ!」


「「「へえッ、親分!」」」


 村を取り囲んでいる山賊たちが喚声をあげて、一気に村へと襲い掛かった。



 俺とチビ助は、そんな山賊と村の様子を無言で眺める。


「どうする?」


「状況は一目瞭然。無辜の民衆を、野蛮人どもが襲っている最中だな」


「皆殺しにするか?」


 俺の考えは単純。

 敵を見つけた。

 全員死ね、だ。



 ただ、チビの方が頭がいいので、聞いておいた方がいい。


「少し様子を見よう。

 ここは千年後の世界。山賊の武装はたいしたものに見えんが、もしかすると我々が及びもつかない兵器を所持している可能性がある」


「そっか、千年経てば、戦略魔導歩兵用の対空兵器があるかもしれないか」


「そういうことだ」



 俺もチビも殺すのは得意だが、自爆覚悟で敵諸共死ぬつもりはない。


 というわけで、しばらくは山賊の戦い方を見物することにした。

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