4 千年後の世界らしいが、それより食い物

 チビ助が山賊を尋問して、情報を得た。


 なお、尋問した山賊2名は、既にあの世に旅立っている。

 血の池の中に、人間だった残骸が転がっていた。


 やっぱりチビ助は、尋問が下手だ。




 さて、山賊から得た情報だが、今は後歴と呼ばれる年号が使われている時代とのこと。

 これは世界が滅亡するほどの戦争が起こった後に、作られた年号らしい。



「ふむっ、大規模殲滅兵器として、魔導核融合弾の実験が行われていると聞いたことがある。

 もしかすると私たちが眠った後に、それが使用される戦争があったのかもしれないな」


「へー」


「おそらく私たちが経験した大戦の後に、再び大戦があって、そこで使用されたと推測できる」


「ふむふむ」


「今が後歴982年というから、我々は百年どころか、千年も寝ていた可能性が高い」


「ワーオッ」



 考えるのはチビ助の担当。

 俺は適当に相槌を打っておく。



「戦友、ちゃんと私の話を聞いていたか?」


「聞いてるって、今が千年後の世界かもしれないって話だろ」


「うむ、ちゃんと聞いているのだな」


「もちろん」



 なぜか俺の方を、呆れた目で見てくるチビ助。

 身長差があるので、上目遣いで見てくる。



「気のせいかもしれないが、私はお前が驚いているように見えないのだが」


「いや、驚いてはいるぞ。

 でも、俺たちは寝ていただけだから、百年が千年にかわっても、あまり違いはないだろ」


「そう考えればいいのか?

 だが例のコールドスリープ装置、九百年も誤差があるとか、全く使えない欠陥品だな」


「そうだな」


 確かに、九百年もズレて起動する装置には、困ったものだ。

 適当にプンプン怒っているように見せておこう。


「……はあっ」


 あれっ、なぜかチビ助に呆れられてしまった。


「私は戦友の能天気すぎる頭が、たまに羨ましくなってしまうよ」


「そうか、照れるなー」


「ただの皮肉だ!」


 不機嫌そうにして、チビ助が体ごとソッポを向いてしまった。

 怒ってるな。


 ま、いいや。

 ご機嫌取りをしなくても、そのうち元に戻るだろうから、適当に流しておいた。




 それにしても、今は千年後の世界なのか。


 頭上を見上げれば、星が光り輝いている。

 戦闘が終わったので、魔導甲冑のヘルメットを取れば、風を肌で感じることができ、森の香りもする。


 破壊した山賊拠点の残骸から、硝煙と未だに燃える炎の熱が伝わってくる。



 それらすべての感覚が、ここが夢の中でなく現実なのだと、俺に理解させてくれる。


「千年経っても、俺たちは違う世界にいるわけじゃない。

 ちゃんと現実にいるんだから、それでいいだろう」


「確かに戦友の言う通りだな。

 私としては千年先の世界など、まったく想像すらできないな。

 だが、それでも人間の血は赤い。ここが死後の世界でなく、現実であることに違いないな」


 ちなみに人間の血が赤いのは、死んだ山賊の血で確認できる。


 鼻いっぱいに息を吸い込めば、硝煙の匂いに混じって、血の匂いもする。


 戦場では、散々嗅ぎ慣れた匂いなので、安心感を覚えることができた。


 それは俺だけでなく、チビ助も同じで、口をニヤリと曲げて笑っていた。



「チビ助、凄く嬉しそうだな」


「そういう戦友も、私と同じ顔をしているぞ」


 俺たち2人は、訳もなく嬉しくなって、ニタニタと笑い合った。


 戦争で大量殺戮をやらかしてきた英雄であり、戦犯である顔だ。






 ところで、山賊の拠点の火が鎮火した後、内部を軽く漁ってみた。


「おっ、地下室がある。まだ生き残りがいるかもしれないから、注意しとかないとな」



 狭い場所になると、魔導ライフルは取り回しが悪くなる。


 俺は、腰に吊るしている拳銃ハンドガンを抜いて、地下室を確認してみる。


 内部は暗いが、魔導甲冑にディスプレイされる映像だと、昼間と変わることのない明るさで表示される。


 警戒し、敵がいないかを確認した後、食料と金があるのを見つけた。



「チビ助、肉だぞ。塩漬け肉にソーセージ。まともな食い物だ!

 それとこっちには、金貨に銀貨と銅貨まであるぞ!」


「なに、食い物だと!

 軍の携帯食料ではない、本物の肉か!?』


「ああ、本物の肉だ!」


「「うおおおーっ!」」


 俺とチビ助は、2人そろって歓喜の大声を上げた。



「まともな食い物なんて、いつ以来だ?」


「生きていてよかった。

 まともな食事なんて、何か月も……いや、千年も食えてなかったから、超嬉しすぎる」


 嬉しすぎて、涙まで出てきた。



 何しろ俺たち、大戦末期は東部戦線で戦い続けたが、そこでは軍の兵士であっても食料が慢性的に欠乏している状態。

 佐官である俺やチビ助でも、まともな食い物と縁がなくなっていた。


 食べていたのは、軍の携帯食料だけ。

 たまに敵の食料を略奪していたが、それもたいしたものでなかった。


 略奪でジャガイモが出てきたのを見つけただけで、歓喜の雄叫びを上げたくらいだからな。



「今すぐ焼いて食うぞ」


「当たり前だ」



 俺とチビ助は、山賊拠点の残骸から使えそうな木材を引っこ抜いて、焚火を起こした。


 魔導甲冑を着ていれば、トン単位の力を出せるので、建材を抜き取るなんて簡単。

 大賢者クラスの魔力を持っている俺とチビ助なので、魔法で火種を起こすのも朝飯前だ。


 そうして火を起こして、ソーセージと塩漬け肉を炙る。


「ヤバイ、唾液が止まらない」


「私もだ。早く、早く食べたい」



 肉の表面にプツプツと油が浮かび上がり、垂れた油が火に落ちてジュっと音を立てる。

 肉の焼けるいい匂いがして、口の中は止まることのない唾液まみれになる。


「「い、いただきます!」」


 俺もチビ助も、久しぶり過ぎるまともな食事を、口の中に放り込んだ。


「あちーっ」


「ハフハフ。う、うまい、うますぎる!」


 俺は口の中を火傷しそうになって、慌てて肉を口から出した。

 だが、チビ助はそんなのお構いなしで、肉を咀嚼する。


「チビ助、どういう口してるんだ?」


「まともな肉があるのだ。火傷など気にしていられるか!」


 口をもごもごさせて、肉にがっついているチビ助。



 俺の方は、フーフー息を吹きかけて冷ましてから、改めて口に入れた。


「まともな物が食えるなんて、感激で死にそう」


 気付けば、両目から涙がボロボロと零れ落ちていた。

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