3 山賊拠点襲撃

 チビ助が山賊を尋問した結果、山賊の拠点の場所を聞き出した。


 なお、尋問した山賊は原形を留めない姿になって、ウワーな状態だ。

 もっとも、大戦では大型魔導戦車に轢かれたり、迫撃砲弾を浴びて原形を残さない死体がよくあった。

 なので、原形が残ってなくても、所々形が残っているからセーフか?



 ま、どうでもいいか。



 というわけで、俺たちは山賊の拠点目指して、森の中を移動。


 敵の拠点を襲撃するので、軍服でなく、魔導甲冑を着こんで、攻め込むことにした。


 魔導甲冑の色は黒で、今は夜中。

 俺たちの姿は迷彩色になって、敵から発見されにくくなっている。


 そして俺たち戦略魔導歩兵は、演算結晶と呼ばれる道具を常に装備している。

 甲冑のヘルメット内部では、外の映像がディスプレイされているが、演算結晶を介することで外部映像の情報が処理され、周囲を昼間のように明るく見ることができる。

 ナイトビジョンって奴だ。


 さらに生体反応の分析も可能で、隠れている敵の位置を探り出すことも容易にできる。


 ただ、俺たちの祖国である帝国と、戦争相手国は、どちらも魔導甲冑を持っているので、光学的な迷彩に絶対的なアドバンテージは存在しない。


 あまりいい装備が支給されていない通常の歩兵相手に、迷彩は役立つが、お守り程度の効果と考えておくのがいい。



 とはいえ、俺たちがこれから攻める山賊には、魔導甲冑はおろか、暗視ゴーグルや、生体センサーの類はないらしい。


 尋問した山賊の反応を見るに、そう言った装備品は、一般には出回っていないとのことだ。


 どっちも軍用品なので、ただの山賊が持つには、無理のある代物だろう。




 そして、肝心の山賊の拠点をどうするか。



「遠距離から爆破するか?」


「いや、情報を聞き出す必要があるから生け捕りだ。

 ただし1人、2人いれば事足りるので、あとは殲滅だ」


「了解~」



 考えることはチビ助の担当だ。



「じゃあ、とりあえず半分壊して、逃げ出した奴の中から適当に選ぶか」


「分かった」


 俺とチビ助は、大戦の戦友。

 お互いに長く戦場を共にしてきたので、短いやり取りで方針を決定した。




 というわけで、戦闘開始だ。


 俺とチビ助は魔導甲冑を纏った状態で、空中へ飛び上がる。


 戦略魔導歩兵最大の特徴は、人の大きさでありながら、空中戦が可能な事。

 それもただプカプカと浮かぶのでなく、高速移動しながらの戦闘が可能だ。



 俺が高速で空を移動し、山賊拠点の上を飛ぶ。


 甲冑内部のディスプレイには、山賊拠点の姿が真昼のように表示され、それが木製であることまで見て取れる。


「ワオッ」


 ここに火炎弾を撃ち込めば、勢いよく燃えるだろうなと思いつつ、俺は上空から魔導ライフルを一発撃ちこんだ。


 使用したのは、爆裂弾。


 引き金を引くと同時に、魔導ライフルから発射された爆裂弾が、山賊拠点近くの地面に命中。


 外したのではない。

 わざと山賊拠点から離れた場所に、爆裂弾を撃ち込んだ。



 直後、地面に激突し信管が作動した爆裂弾が、巨大な爆音と熱を発生させて爆発した。


 爆発は周囲の空間を呑み込み、山賊拠点を半分ほど破壊した。


 木造の建物なので、あまりにも脆すぎる。


 建物の半分は爆発に飲み込まれたが、残った部分も、ガラガラと音を立てて崩壊していく。


「ありゃ、やりすぎたか」


 わざと全壊しないように攻撃したのに、予想以上に建物が脆かった。



 しかし、攻撃した後の俺は、呑気に同じ場所に留まることはせず、空を高速で移動する。


 戦略魔導歩兵は、同じ場所に留まって戦闘をしない。


 常に高速で空を移動し、敵に攻撃の的を絞らせないことで被弾を避けるのが、戦略魔導歩兵の戦い方だ。

 ヒット&ウェイが基本になる。


 上空を高速移動して旋回し、再度山賊拠点を上空から確認する。



「何事だ!」


「砦が崩れた、今すぐ逃げろ!」


「魔法だ、どこかから魔法攻撃をされたぞ!」


 拠点内にいた山賊たちが、わらわらと建物の中から飛び出してきて、叫び声をあげている。


 ただ、動きが遅すぎる。

 爆撃されたと分かったのなら、さっさと迎撃態勢を整えるなり、近くの森に逃げることで、自らの安全を確保すればいいものを、そんな様子がまったくない。


 多少頭の回る奴が、森の方へ逃げようとしているだけだ。



「ま、逃がさないんだけどな」


 俺は魔導ライフルの引き金を引いて、森へ逃げようとする山賊を撃ち抜いていく。


 今回の弾は通常弾。

 爆裂弾のような強力な爆発力はないが、ライフルの弾に魔法効果が乗っているため、ただの歩兵が使うライフル弾より、威力が高い。


 俺だけでなく、離れた場所にいるチビ助も、魔導ライフルの引き鉄を引いて、山賊の頭を撃ち抜いていく。


 ほどなくして、20人ほどの山賊が物言わぬ死体と化す。


 生き残った奴が2人。



 ちょうどいい数になったが、まだ建物内に生き残りがいないとも限らないので、俺とチビ助は、しばらく上空から様子を眺めた。



「建物の方は吹き飛ばす」


「分かった」


 魔導甲冑に装備されている、魔導無線通信を通して、チビ助とやり取りをする。



 生き残りがいると面倒。

 拠点内で死んだふりして、こちらが出てくるのを待っている敵がいることを警戒して、俺は拠点に爆裂弾を再度撃ち込んだ。


 派手な爆音と光が発生し、山賊拠点は跡形なく消え去った。



「私が生き残りを確保する」


「了解、俺は空から警戒してる」



 チビ助がライフル片手に地上へ降りていき、生き残りの山賊2名を武装解除した。



「ああ、また足をふっ飛ばしてる」


 武装解除というか、足を吹き飛ばされた痛みで、2人の山賊は武器なんて投げ捨ててしまった。

 大の男2人が泣き叫び、両手で傷口を塞ごうとしている。



 敵の不幸を気の毒とは思わないので、あとはチビ助に任せよう。

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