2 「山賊だ、金目の物を置いていけ!」

「山賊だ、金目の物を置いていけ!」



 地下秘密基地の外に出れば、周囲に広がるのは大森林。

 道なき道を歩いていると、剣に槍、弓を持った蛮族に遭遇した。


「えっ、剣?」



 俺たちがいた時代は銃火器が存在し、装甲戦車まであった。

 戦略魔導歩兵が扱う魔導ライフルは、魔法使いの適性がある者でなければ使えないが、それ以外の一般兵でも通常のライフルを装備していた。


 あまりの事態にビックリだ。

 もしかして俺たちはタイムスリップして、中世時代に来てしまったのかと考えてしまった。

 だが、考える頭と違って体は素直なもので、自称山賊の頭を、魔導ライフルで撃ち抜いていた。


 ただの条件反射だ。

 武器を向けてきた奴は死ね、だ。


「魔法使いだと!」


 パンパン。


 もう2人残っていたが、俺がもう1人の頭を撃って射殺し、チビ助は最後の1人の耳たぶを撃ち抜いた。


「とどめを刺さないのか?」


「百年ぶりの人間だ。今の状況を聞き出しておきたい」


「なるほど」


 俺と違って、チビ助は色々考えているので助かるな。

 俺だけだったら、3人とも撃ち殺して、さようならで終わっていた。



「武器を捨てて、地べたに這いつくばれ。抵抗して襲ってくるのは構わんが、そのような原始的な武器で、ライフルに勝てると思わない方がいいぞ」


 パン、と音がすると、チビ助のライフルが、山賊の右足を撃ち抜いた。

 撃ち抜くというか、火力が高すぎて、山賊の右足が吹っ飛んでしまった。


「ギャアアアー、足が、俺の足がー!」


 片足を吹き飛ばされて、泣きわめく山賊。

 もはや立ち上がることもできず、地面の上に倒れ、両手で足の血を止血しようと抑えている。


 当然、武器なんて投げ捨てている。



「チビ助、やりすぎると死ぬぞ」


「分かっているとも。これは私の質問に早く答えてくれるための潤滑剤。尋問だから気にするな」


「あ、そう」


 俺、尋問の仕方なんて全然分からない。

 ここはチビ助に任せておくか。


「さて、山賊くん。私たちは、この場所を偶然通りかかったただの一般人だが、今が帝国歴何年で、この国がどのような状況にあるのか教えてくれたまえ」


「あ、足ー、俺の足がー」


 パンッ!


 あーあ、今度は山賊の左足が吹き飛んだ。

 山賊が早くしゃべらないと、出血死だな。


 両足からあふれ出る血の量が尋常でなく、山賊がもうすぐ死ぬのは確定だ。



「私は、あまり乱暴的なことはしたくないのだ。質問に答えてくれれば、これ以上痛い思いを続けることなく、すぐに始末することを確約しよう」


「あ、あしー」


「次はどこを撃とうかな?足はもうないから、腕がいいかな?それとも君が持っていた剣で、目を突き刺してみるのも一興か?」


 ニコニコした笑顔で、山賊が放り捨てた剣を手に取るチビ助。

 俺から見れば笑顔だが、目がダメだよなー。


 どう見ても、

『私、死神幼女。これからあなたを殺すけど、長くて痛くて苦しくて死ぬのと、短くて痛くて苦しくて死ぬの、どっちがいい?』

 なんて目をしてる。


 どっちも行き着く先は、一緒だ。



「ま、待ってくれ、止めて、止めてください!」


「そうだな。ではしゃべってくれ」


「ギャアアアー、手がー!」


「ああ、すまない。意外と剣が重たくて、手が滑ってしまった。次は気を付けるから、安心してくれ」


 わざと剣で、山賊の手を貫くチビ助。


「おーい、それ以上やると、出血の前に発狂して死ぬぞ」


「それもそうか。あまり早く死なれても困るな」


 チビ助に尋問任せたけど、こいつも得意じゃないから仕方ない。

 俺と同じで、殺すのと壊すのが得意な奴だから。



「それでは君が死ぬ前に、ぜひとも私の質問に答えてくれたまえ。今は帝国歴で何年かな?」


「て、帝国歴なんて知らない」


「知らない?そうか。では、残念だが、君の腕が一本なくなることになってしまう」


「ま、待て、本当だ、本当に帝国歴なんて知らない。今は後歴(こうれき)982年だ。それ以外の年号なんて、俺は知らない」


 俺とチビ助がいた祖国――帝国ライヒと呼ばれていた国――では、帝国歴が用いられていた。

 他国では大陸歴と呼ばれる年号が一般的に使用されていたが、山賊が口にしたのは、そのどちらでもなかった。


「後歴、まったく知らない年号だな」


 チビ助が俺の方を見て、確認してくる。


「チビ助が知らないのに、俺が知るわけないだろ」


「それもそうだな、戦友は頭の出来は凡人以下だからな」


「せめて凡人にしてくれ。そこまで悪いつもりはないぞ」


 口の悪いチビ助には、困ったものだ。

 見た目幼女なのに、中身がイカレタ人間なのが、他の人にも丸わかりだぞ。



 それはともかく。


「む、昔大きな戦争があって、世界が滅びるほどの戦いがあったそうだ。

 それから後歴が使われるようになったって、死んだ爺さんから聞いた」


「ふむ、世界が滅びる戦いね。なんとも眉唾な話だ」


 顎に手を当てて考え込むチビ助。



大賢者グランドマスタークラスの魔法使い複数であっても、流石に世界を滅ぼすことはできない。大戦によって、帝国が滅びたとは考えられるが、世界が……」


 独り言を始めてしまった。


 あまり考え過ぎると、禿げるぞ。


 チビ助が自分の世界に入り込んでしまったので、代わりに俺が、山賊に尋ねてみることにした。



「チビ助のことはいいとして。それよりお前には、仲間がいるんだよな。その場所を教えてくれないかな?」


「な、何をするつもりだ?」


「何って、決まってるだろ。俺たちの晩飯を、分けてもらいに行くのさ」


 俺はなるべく人好きのする笑顔を浮かべて、山賊の体を蹴飛ばした。


「ゲホッ!」


「おい、戦友。何をやってる?」


 考え込んでいたチビ助が、山賊が咳き込んだ声で我に帰る。


「もちろん尋問の真似だけど」


 俺流の尋問なので、これでいいと思うけど、何かまずかったかな?


「まったく、尋問をするなら道具を使ってくれ。

 我々は野蛮人でなく文明人なのだ。文明人であれば、道具を使う。当たり前の事だろう」


「ギャアアアーッ」


 チビ助はそう言って、山賊のもう片方の手を剣で貫いた。



「この調子で切り刻んでくと、先に死ぬぞ」


 チビ助、もしかして俺より尋問に向いてないんじゃないか?

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