第16話

「…初恋を捨てきれずにごめんなさい…」といった後も柚葉は泣き続けた。

甘く見ていた、と思った。

10年もかけて償いをして来た柚葉に俺は応えることができるのか。初恋を捨てきれずに10年も追い続けてきた柚葉に。

だが、答えを出さなかったら柚葉のここまでの人生を否定をするようなことだ。だが、どう答えればいいのかがわからない。

「…勝手に好きになられても迷惑ですよね…そして、告白というのはもっと勇気のいることです。過去を言うついでに好きだなんて言う私は最低ですよね…もともと返事は貰うつもりがなかったので」

と言葉を残し、近くにあったパーカーを上からかぶり家を出て行った。

ばたん。

誰もいないこの部屋に、ドアが閉まる音だけが響いた。

数秒、意識を失ったかというくらいに音も聞こえてこなかった。そして、雨がザーザーと降る音が聞こえた。

「逃がさねえぞ」

自分がいま部屋着を着ているのも気にせず、傘を持って外に出た。柚葉が行く当てなら少しある。

視線を感じるが、今はそんなことはどうでもいい。雨の中傘もささずに、ただひたすらに走った。

「…はあ…はあ、やっぱりここ…にいたか…」

柚葉は公園のブランコに座っていた。柚葉に近づくと、驚いた表情で見つめてくる。そして、後ろからやさしく抱き着きながら、頭をなでた。

「絶対に…離さない…っ」

「なんで…なんでそんなに私にやさしくするんですか…」

俺は、何も答えずにただ柚葉を抱きしめた。

ああ、雨が降っていてよかった。こんな顔見られずに済む。


「帰るか…」

「そうですね」

柚葉は、パーカーを着ていたので大丈夫だったが、俺の服はだいぶ濡れて透けてしまっていた。

すると柚葉はわざと自分の顔を手で覆い、指の間から覗いた。

「変態…」

「いやお前のせいだからな!?」

雨はいつの間にか上がり日差しが差してきた。

晴れているのにびしょぬれな二人は、お互いを見て笑い合いながら、アパートに帰った。


「ごほっ」

「うぅ…」

「「まさか二人とも風邪をひくとは…」」

柚葉はよろよろと立ち上がり冷蔵庫を開けてみる。

「やっぱり…食べ物がない…」

「今日は出前にするか。柚葉は何食べる?」

「うなぎ」

「おっけーうなぎね。っておい!そんな高いもん食べれるわけないだろ」

「にーちゃんが買ってきてくれる」

「お前の兄…もしかして悠が来るのか!?」

「今来てもらってる…」

「ど、どうしよう。何年ぶりだ?」

おろおろしているうちにインターホンが鳴ってしまった。

「あーい」

ガチャと柚葉はドアのかぎを開ける。そこには、中学生のころの面影を残した悠が立っていた────



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