第15話

「いいんですか?休んでしまって」

いつの間にか柚葉は起きていたらしい。目を、ぐしぐしかきながらちょこんと正座をしている。

「いいんだよ。ってかお前口調直せよな。普段敬語なんて使わないだろ」

「ぐっ…」

柚葉は、わざとたじろぐような素振りをする。

「まあ、精進しま…するぜ」

「いや、それはおかしいぞ!?」

「ごめんごめん」

「朝起きてすぐで悪いんだが一ついいか?」

「どーんと言ってください!あ。でも常識な範囲でね」

さすがにそんなことは言わないのだが…と突っ込みたいところだが、今はそれよりも気になることがある。

「単刀直入に言うが、なぜお前は、柚葉は俺の妹だと嘘をついた?」

オブラートにも包まず思ったことをそのまま言葉にした。その方がいいと思った。

「そのことですか」

声のトーンが下がった。顔も少し曇った気がする。話し方を敬語に戻して、柚葉は話し始めた。

「引かないでくださいね。少し昔話をしましょう」


私は、浩平さんが車にはねられた時、いろいろなことを思いました。

『え?どういうこと』『く…るま…?』『…しんじゃった…?』

そんな考えが、何百個もあふれてきました。私は何と醜い生き物でしょう。一番強く思ったのは『私のせいじゃない』でした。

その後いろいろな人が、駆け付けてきてことは収まりましたが、震えが止まりませんでした。数日たって気持ちが少し収まったころ、私は、自分が『私のせいじゃない』

と、一番強く思ってしまった自分を、悔やみました。殺そうとしました。自分に向けて包丁を立ててみたり、ロープをつるしてみたりしました。

ですが、私は死ぬことができませんでした。覚悟がなかったのかもしれません。

私は、学校に行かなくなりました。いわゆる不登校ってやつです。

ですが、浩平さんが生きていた。ということを事故から数週間後に伝えられました。

その時、どんな顔をして会えばいいんだろうって、思いました。

その覚悟を、決めた時は、もう数年たってしまいました。

その後の浩平さんは誰も知らず情報を集めることにしました。ストーカーみたいなことしちゃってすみません。

浩平さんを見つけた時、私はもう大人になってしまいました。10数年かかってようやく会うことができました。その時間が、償いになると信じて。

「すみません。暗い話になってしまいましたね。ここからが浩平さんの疑問に対する答えになります」

ごくりと唾をのむ。柚葉の緊張がこちらにまで伝わってきて、緊張してしまう。


これは事故が起きる前の話です。

私は、学校ではクラスの一番大きな輪の中にいました。今みたいな感じで元気が取り柄でした。私が中学生に上がってもクラスの人と仲良くしていました。そんなクラスの話のネタは、いつも恋愛に関することでした。やはり中学生になって恋人がほしかったのでしょうか。

ですが、私は恋について何も知りませんでした。話についていこうとして、恋をしようと思いましたが、そういう理由では“恋”は成立しないのか、結局何もつかめぬま一か月ほどたったころ、初恋をしました。

一目ぼれとかではなくずっと近くにいる人でした。その恋心に気づいていないだけでした。

「…浩平さん。初恋を捨てきれずにごめんなさい…私は、今度、妹として愛されようとしたどうしようもない人間です」


嗚咽を漏らしながらなく柚葉に声をかけることができなかった────


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る