第14話
それじゃあ……柚葉は────
その、後は考えたくもなかったし、言いたくもなかった。
というか、こんなあっけなく記憶を失っていたのか。
そして、1つだけ気になったことがある。
なぜ、俺の妹のふりをしたのか?
多分、柚葉は俺が事故にあったのは自分のせいだと思っているのだろう。だから、俺の生活を助けてくれているのだろう。それならわかるが、妹のふりをしたのかが分らない。
まあ、それは、置いといて、これから柚葉にどう接すればいいのだろう。あと、記憶が戻ったことを、柚葉に言うべきだろうか。
「へいさん…!」
「浩平さん!」
「ああ。ごめん。」
「急に黙ってどうしたんですか?」
「ちょっと考え事を…っていうか熱は下がったのか」
「はい!なんか寝てたら直りました!」
「いや、体が最強かよ!」
「久しぶりにナイスつっこみ!」
「ってか、本当に大丈夫か?すごく心配なんだが」
「はい…実はまだ具合が悪いです…」
「はあ…もう無理すんなよ。明日はゆっくり起きるんだぞ」
「はーい」
そういうと、柚葉はすーっという音を立ててすぐに寝始めた。よほど疲れていたのだろうか。
「なあ、柚葉…何でお前はうそをついてるんだ?でも、ありがとよ、お前のおかげでこの数週間だが充実している。本当に感謝しているよ」
と、柚葉に問いかけるが当然柚葉からは返事は返ってこない。なんだか、亡くなった人に話しているようで、落ち着かない。だが、柚葉に聞いてもいないことをたくさん話してしまう。
いつの間にか、涙が流れていた。
「何で忘れてたんだろうな…柚葉…悠…」
「はあ…やっと思い出しましたか…」
「ゆ、柚葉!?お前、起きてたのか」
「はい。実はそろそろ思い出すころだと思ってたんです。女の勘ってやつですよ」
ふふん!と鼻を鳴らすが本当に勘だったのだろうか。それよりも、あまり動揺していない、柚葉にこちらが逆に動揺してしまう。
「おかえりなさい。浩平さん!」
「ああ。少し遅くなっちまったな」
必死に柚葉は涙を止めようとするが、あふれてくるものは止められない。二人は、涙を流しながら、力強く抱き合った。そのぬくもりは、あたたかく心地よかっ────
いつの間にか、朝まで寝ていたらしい。辺りを見回すと、明るい日差しが部屋の中を覆っていた。
「頭いてぇ…」
昨日、泣きすぎたせいか。柚葉はまだ寝ているらしい。隣で、すーすーと寝息を立てている。今度は本当に寝ているよな?
そして今日は金曜日。当然、出勤せねばならない。
「金曜日…やべっ!もう4時間も遅刻してる!?」
急いで、スマホを手に取り、会社に連絡する。
「あの…」
「今どこにいるんだ!?もう遅刻しているぞ?」
「すみません。今日はお休みさせてください…」
「はあ…何かあったのか?」
「まあ、いろいろ…」
「次来た時に仕事3倍な」
「ちょっとそれは理不…プープープー」
途中で切られてしまったようだ。だが、休んでいいのは、1日といわないあたり優しさを感じる。
「まあ、仕方ねぇな」
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